レイメイ
ゴードンヘシヲ
第1話
動物園に飼われてるドラゴンの少年、彼の名はドラネル。
3歳の頃ニンゲン達に拉致られ、動物園の見世物として飼育されていました。
幼すぎる彼は、家族や兄弟がいるという記憶がほぼ曖昧で覚えてません。
ある日、お客さんの中でニンゲンの親子を見たドラネルは、急に母が恋しくなり脱走を試みました。
しかし失敗してしまい、それ以来彼は檻に軟禁されてしまいました。
2ヶ月後意気消沈していたドラネルのもとに偶然現れた男性が「一目惚れした」と言い、園に対し買い取りを申し出ました。
多額の金に目が眩んだ園長は男性の交渉に応じ、買い取りは成立。
ドラネルは男性ことアモンに引き取られることとなりました。
家に着くなりアモンはドラネルに、「明日にはオマエの母親がやってくる。俺と約束しろ。新月の夜10時~12時まで、一番奥の部屋は絶対に開けるな。分かったな?」と言いました。
それを聞いたドラネルは首を縦に振って頷き、久しぶりに部屋でぐっすり寝ました。
翌朝目を覚ました彼が台所へ行くと、母ことアワリティアが朝食を準備していました。
母と会えた喜びと今までの反動から、アワリティアにすり寄り甘えるドラネル。
彼女もドラネルとの再会を喜び、彼を存分に甘やかしました。
そんなある日、流行り病にかかったアワリティアは倒れてしまいました。
心配になったドラネルは、彼女の役に立ちたくて家事に挑戦するも失敗ばかり。
気つけばもう夜で、今宵は新月のよう。
なんとか後片づけを終えたドラネルは一番奥の部屋が気になり、ドア越しに音がするか耳を近づけました。
すると部屋の中からバリボリと不穏な音が聴こえ、気になったドラネルは部屋のドアを開けてしまいました。
そこにいたのはなんとアワリティアで、彼女が“何かの骨”をバリボリ食べる音だったのです。
その光景に愕然となり怯えるドラネル。
彼の気配に気づいたアワリティアから聞こえてきた声は、彼女の声ではありませんでした。
「あーあ、見ちまったかァ?可哀想に。気がつかなきゃ、ずっと幸せな日々だったのによォ」
「まさか……この声って」
「俺だ。アモン・シトリー・アーンスランドだ」
「何でッ!?僕のお母さんじゃないのッ!?」
「残念ながら……俺はオマエの母親で、オマエの母親は俺。つまり、同一人物ってことだ」
「そんなッ!!」
「それとオマエ、約束破ったな?ハァ、終わりにしようや」
「え?」
「家族ごっこ。楽しかったろ?」
「え?じゃあ、お母さんは?」
「もう戻ってこねぇよ。約束破ったし」
「そんなぁッ!!ごめんなさいッ!!ごめんなさいお母さんッ!!帰ってきてよ~ッ!!ふえ~んッ!!」
母が戻ってこないと知り、その場で泣きじゃくるドラネル。
するとアモンはドラネルに条件を言い、どうしたいか問うてきました。
「なら選べ。母親を取り戻すために声を失うか、このまま母親を失うか」
「……分かった、お母さんを取り戻したい。声を失う」
「ハッ、いいぜ。俺は優しいから、その後オマエがちゃんと頑張ったら……ご褒美くれてやんよッ!!」
「ホント?」
「ああ、俺は嘘を吐かねぇよう心がけてってるからなァ。そのへんは安心していいぜェッ!!」
アモンと契約を交わしたドラネルは声という対価を払い、母であるアワリティアを取り戻しました。
しかし声を失ったドラネルは、アワリティアにすり寄り甘えてもどこか寂しそうでした。
そんなある日、ドラネルはアワリティアと出かけた先で綺麗な花畑を見つけました。
この時ドラネルは初めて知りました。アワリティアは花が好きということを。
数日後、アワリティアの元へ手紙が届きました。
それを読むなり彼女は、ドラネルに言いました。
「申し訳ありません、ドラネルさん。私はしばらくお仕事に行かなくてはならなくなりまして。その間一人でお留守番できますか?」
その言葉に対しドラネルは首を縦に振り、寂しさを堪えアワリティアを見送りました。
それから一週間が経ったある日、「“科学の怪物”と“戦場の歌姫”がいる我々の勝利だッ!!」という噂がドラネルの耳に入りました。
実は科学の怪物と戦場の歌姫はドラネルの知り合いで、アワリティアの二つ名は『戦場の歌姫』だったのです。
それを思い出したドラネルは、帰宅するなり泣き出しました。
そう、アワリティアは戦争に駆り出されたのです。
彼女の歌声には、味方を支援し回復させる力が宿っている。
それに目をつけたニンゲン達は、赤紙を送りアワリティアを戦場へ召集したということ。
「僕のお母さんなのに、僕のママなのに……許せない、許さないぞッ!!ニンゲン」
愛しい母を取り上げられた悲しみと怒り、そして今まで自分が受けてきた仕打ちも含めた負の感情。
そのどす黒く濁った感情は徐々にドラネルの心は蝕まれていき、とうとう彼は闇に呑まれてしまいました。
「みんな、みんな大っ嫌いだッ!!消えてしまえッ!!」
するといつの間にか彼の左目は銀色から黄緑色に変わり、白目の部分は真っ黒に染まりました。
「僕が……いや、ワシが母を迎えに行く。取り戻すんだ、ワシの母をッ!!」
その頃戦場では、科学の怪物と戦場の歌姫が協力し、この戦争を終わらせようとしていました。
「あの大戦が終わってまだ80年しか経ってねぇのに。もうこれで最後にしてくれっての」
「そうですね、今日と明日の2日で終わらせましょう。これ以上、被害を出す訳には……」
「た、大変ですッ!!」
「貴様ッ!!作戦会議中だぞッ!!」
「別にいい、どうした?」
「突然兵士達がッ!!謎の病にッ!!ウィルス性による感染症の疑いがありますッ!!」
「感染症だァ?現場に案内しろ、俺とコイツを連れていけ」
「なッ!!お待ちください、あなた方に離れられては困りますッ!!」
「戦場に立つ兵士達が危ねぇなら、俺らが代わりに立つのは当然だ。邪魔すんな」
「ひぃッ!!」
兵士達のいる現場へ行こうとする科学の怪物ことアモンを呼び止める上層部達に対し彼は睨みつけ圧をかけた。
その威圧に怯える彼らを無視し、アモンと戦場の歌姫ことアワリティアは兵士に現場へと案内させる。
現場に到着し現状を目の当たりにした二人は絶句した。
「これって……まさか」
「精神的な病気?いったい何が?」
「ウォォッ!!」
「あ、危ないッ!!」
急変しアワリティアに襲いかかる同僚に気づき、慌てる兵士。
即座に彼女の前に立ったアモンは、襲いかかってきた兵士の口内に傘の先端を突っ込ませ脅迫する。
「落ち着けテメェ。死にたくねぇなら言うこと聞けや。コイツに暴れて怪我させんなら、問答無用で殺すッ!!」
アモンが放つ鋭い眼光と殺意を纏った威圧感に怯えたのか、同僚の兵士はそのまま悶え始めた。
「あの、これはいったい?」
「こいつはただの感染症じゃねぇ。獣化妄想症だ」
「ジュウカモウソウショウ?」
獣化妄想症とはウイルス性の精神疾患。
感染すると自分が、獣化したという幻覚や幻聴に苛まれ錯乱する。
最初は幻覚だけだが徐々に精神や脳が蝕まれ、最終的には本能のままに生きる獣と化す。
最後には人間としての記憶や理性を失う病気なので、危険視されれば隔離及び監禁される。
「この病気が真に恐ろしいのは……予防薬も特効薬も、治療法すらねぇことッ!!そして、噛まれたり引っ掻かれて感染したら……不眠が祟って発症すんだよッ!!」
「そんなッ!!いったい、どうすればッ!?」
(とはいえこの病気は、今よりもそうとう前に“終わらせた”はず。何で今更?)
「た、大変ですッ!!」
「何だァッ!?敵襲かッ!?」
「違いますッ!!とにかく見てくださいッ!!空をッ!!」
「おいおい、嘘だろォッ!?何でオマエが此処にいるッ!?」
兵士に言われるがまま空を見た途端、アモンは再び絶句した。
空を飛び彼ら目の前に降り立った者は、ツインテールとオッドアイが特徴的な青年だった。
「返せ‼ワシの母を‼」
「オマエまさか……ドラネルかッ!?」
「ドラネル?ああ、そんな名だった時もあったな。ワシの名はドラギニャス、犠牲と憎悪の邪竜だ」
「ドラギニャス……そうか、呑まれちまったのかッ!!“このセカイの全ての悪意”にッ!!」
ドラギニャスとして覚醒した影響か、彼はドラネルの時に払った対価である“自身の声”を取り戻していた。
「オマエらニンゲンなんか大っ嫌いッ!!早く滅ぼして母とワシだけの世界にして、二人だけが幸せな……ああ、素晴らしいッ!!考えれば考えるほど、チカラが溢れて……ああ、気持ちいいッ!!」
(ありゃ完全に堕ちてんなァ。こうなると、さすがの俺でも倒せねェ。仕方ねぇなァ)
ドラネルと違ってドラギニャスは、魔力量がアモンと同等かそれ以上。
このまま戦りあえば、アモンはドラギニャスと刺し違える可能性がかなり高い。
「すまねェ、協力してくれッ!!さぁ、目覚めなさいッ!!病める時も健やかなる時も、我は良心と悪心を知る者なり。今こそ我が愛を持って証明しあいましょうッ!!起きなさい、我にして我等なりッ!!」
詠唱を終えるとアモンの体が眩しく光り、それが収まると目の前に現れたのはメイド姿の者とスーツ姿の者だった。
「療法と絶望のアワリティア、ここに」
「破壊と不安定のアヴァリス、ここに」
「改めまして、戦争と強欲のアモンだ。役者は揃ったァッ!!今から俺と、私と、拙者と……殺りあいましょうッ!!」
「何をしたってムダだよアモンさんッ!!今更遅いんだよッ!!アヴァリスさんッ!!嗚呼、愛してるッ!!愛しいワシの母よッ!!」
アモンに対し憂い、アヴァリスに対し怒り、そしてアワリティアに対し甘えようとするドラギニャス。
それを見たアワリティアは、ドラギニャスに説得して理解してもらおうと試みる。
「私も愛してますわ、ドラネルさん。ですが今のアナタは災厄の象徴ドラギニャスです。申し訳ありませんが、日を改めて出直してくださいませ」
「母よ、可哀想なワシを慰めておくれ。そしてこのワシを抱きしめておくれ」
「申し訳ありませんが、私はアナタの母親ではございません。どうかお引き取りくださいませ」
「何故だッ!?何故ワシを慰めてくれぬッ!?抱きしめてくれぬのだッ!?母よ、ワシが分からぬのかッ!?」
「それは違います。そもそもアナタは私の愛し子ドラネルではなく、セカイの悪意によって生まれた邪竜ドラギニャスだからです。よって私はアナタを愛すことは出来ません。何卒ご容赦ください」
「違うッ!!ワシの母はアナタしかいな……ッ!?ああ、ああああぁぁぁッ!!!!」
「今度は何ッ!?」
「精神と肉体のバランスが崩れ始めてんだ。無理もねぇ、あのアワリティアに拒絶されちまったようなもんだしなァ」
「そんなッ!!僕を見捨てないでッお母さ……貴様もワシを捨てるのかッ!?許さぬッ!!貴様も殺し……ッ!!やめてッ!!僕のお母さんを殺さないでッ!!あああぁぁッ!!」
「ドラネルさんッ!?いったい、どうすればッ!?」
「はぁ……しょうがねぇなァ、世話してやんよッ!!俺は優しいからなァッ!!」
アモンがそう言うとアワリティアとアヴァリスが向かい合い互いを抱きしめ、アモンの方を二人で見つめながら詠唱を始める。
「お帰りなさい、愛し子よ。天に召されし尊き命よ。罪により救われぬ魂よ。嗚呼、憐れな汝が為に、捧げましょう。聖なる歌を持って今、囁きましょう。我が愛を」
(え?詠唱?)
するとアモンの体が真っ白な光りに包まれ、眩しさのあまり瞼を閉じてしまうドラギニャス。
もういいだろうと思い、ドラギニャスはゆっくりと瞼を開けて前を見る。
するとそこにいたのはレモン色のウェディングドレスを身に纏い、真っ白な長髪を携えた美女だった。
「汝が生前に犯した罪と科、私が全て許しましょう。ありがとう、生まれてきてくれて。そして眠れ、安らかに。我が名はベアト・サルワーレ・アーンスランド。生きとし生けるモノの善意なり」
「おかあ……さん?」
「おいで、ドラネルとドラギニャス。私はアナタを愛します。私がアナタを赦します。私はアナタ方二人を、どちらも受け入れる所存です」
そう言うとベアトはドラギニャスを優しく抱きしめ、彼の頭をゆっくりと撫でた。
するとドラギニャスの目から大粒の涙が溢れ、ベアトにすり寄りながら泣きじゃくった。
「ワシだって……僕だって、甘えたかったし……愛されたかったに決まってるだろッ!?寂しいよ~‼寂しかったよッ!!お母さ~んッ!!」
「よしよし、いい子ね。今までに独りしてしまってごめんなさい。これからは、ずっと一緒です」
「よかった……これから、ずっと一緒だよ……お母さん」
ドラギニャスの表情もさっきまで険しかったが、ベアトのおかげで安らかな表情に変わり落ち着きを取り戻した。
すると“セカイの全ての悪意”の方が悲鳴をあげ、彼の姿はみるみるドラネルの姿へと戻っていきました。
彼から離れたどす黒く濁った“何か”は、行き場を失い逃げようとします。
「は?逃がさんけど⁉」
「さすがに今回は許せませんッ!!私、堪忍袋の緒が切れましたッ!!」
「おいおい、まさかと思うが……逃げようって魂胆じゃねぇだろうなァ?あ”あ”んッ!?」
「ひぃッ!!」
気づけば三人に囲まれ逃走経路は寸断され、八方塞がりな状況というあり様。
「喧嘩売る相手、間違えちまったなァッ!!オマエ」
「ハハッ!!アンタにもう価値はないのッ!!だから、死ねッ!!」
「楽しみですね。見せてください、格が違うんでしょう?まだお時間たっぷりありますし」
「た、助けてくれッ!!だ、誰かーーッ!!」
こうして“セカイの悪意”を倒し一件落着になった数日後、アワリティアはドラネルに膝枕をしつつ頭を撫でながら子守唄を歌ったという。
レイメイ ゴードンヘシヲ @49mo10
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