第4話 二人の秘密


 その後、ユリウスがまたカフェを訪ねてきた。

 事件の処理について律儀に報告に来てくれたのだが――自分を置いていったことや、呪術とはなんなのかと根掘り葉掘り聞いてくるものだから、少々うっとうしい。


 クラリスとセレスは目を合わせ、「まあ、しょうがないか」とでも言いたげに小さく頷き合った。


「この街で私たちの担当になった以上、これからもこういうことが続くからね」


 セレスはにこにこと笑って言う。

「よかったね。団長に信頼されてる証拠だよ」


 ユリウスは「お前が言うな」と心の中で全力でツッコんでいた。


「それで――お前たちはいったい何なんだ」


「え~? 信じてもらえないだろうしなぁ」

 セレスはおどけるように笑うが、その瞳の奥には冷たい光がちらりと見えた。


 クラリスが静かに口を開く。

「とりあえず説明するだけしておきましょう。団長が私たちに会わせたということは、言ってもいい人ってことよ」


「そうだね~」



 クラリスは少し肩をすくめ、落ち着いた声で続ける。

「突飛に聞こえるだろうから、とりあえず聞いておいてくれればいいわ。私はこういった事件のような“裏の事件”に関して協力しているの。おばあ様の代からね。それでここを継いで、その役割も受け継いでいるの」


 彼女は軽く息をつき、静かに言い切った。

「理由は――そうね。魔女の家系だからよ」


 ユリウスは絶句した。

「そんな、魔女って……」

「おとぎ話だろ」


 にわかには信じがたい。だが、この一件が常識では解決できなかったのは事実だ。


 クラリスは淡々と続ける。

「最初から信じてもらう必要はないわ。どうせ長い付き合いになるでしょうし」


 彼女の視線が、隣のセレスへと移った。

 ――こいつも? 事件の中で変な動きをしていたようには見えなかったが。


「お前も魔女なのか?」


 クラリスは小さく笑った。

「もっとすごいのが出てくるとは思わないわよね」


 セレスはにやりと笑う。

「私? 私は人魚だよ~」


「……はぁ?」

 ユリウスの思考が一瞬止まった。


 人魚。

 それこそ昔話や伝説でしか聞かない存在。


 魔女と人魚――訳が分からない。


 セレスは肩をすくめ、軽い調子で続けた。

「といっても、ヒレがあって海にいたのなんて、はるか昔のご先祖さまの時代よ。いまはみんな陸に上がってる。人間に恋しちゃったからなんだって、な~んてね」

 冗談めかして言ってはいるが、ユリウスにはまるで訳が分からなかった。



「でもちょっとした力や血に刻まれたものはまだまだ残ってるから、悪い人たちに狙われやすいの。みんな隠れて暮らしてるんだよ。私は諸事情により街で人間やっておりますけども!」


 クラリスが補足するように言った。

「この子はおばあさまが隠れ里から預かってきた子なの。もう五年も前になるわね。古いつながりがあるのかもしれないわ」


 ユリウスはここまで聞いて、堪えきれず口を開いた。

「そんなにあっさり打ち明けてしまっていいのか? まだ会ったばかりだというのに」


 クラリスが薄く笑む。

「いやね、何も対策していないわけないじゃない。……ここに来る前に団長から何か渡されなかった?」


 そういえば――この地域の担当隊士になるという書類を渡され、署名をした。


 ……まさか?


「そう、そのまさかよ。書類は全部読まないとね」

 ――もっとも、読めないように書いてあるけど。団長さんたら、私に説明を押し付けたわね。



 クラリスはくすりと笑った。

「大層なことは書かれてないわ。ただ、“このことを他で言わないでね”っていうおまじないをしてあるだけよ」


 セレスはけらけら笑いながら言った。

「ばらさなきゃ大丈夫ってことだよ~」


「いや、そういう問題か……?」

 ユリウスのぼやきが夜気に溶け、カフェに笑いが響いた。


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