抗えないこと
また数日後の午後、遠くで雷が鳴った。森も
しかし雷雨になれば、呪術師のところに通うのは難しい。ララはいくつかの草束と石をもらって帰ることにした。集落でこれを続ければ誰かに
だからいつものように草陰から集落を覗き見たとき、その腕には乾かした草と石が抱えられていた。そのときララはそれをすべて落としそうになって、ようやく抱え直した。それでも、立っているのは難しかった。
マリアウルが両手を
その状況が意味するものは明らかだった。マリアウルの秘密が知られてしまったのだ。しかしそうだとすれば、兄ぃもこの広場のどこかで打ち
木を組んで縄で
「呪術師を呼べ」
そう指図する長老はマリアウルの祖母だ。その目は
「この集落の男でお前と交わったという男はいない。それは邪霊との子だな」
マリアウルが力無く何かを言い返した。しかしその言葉はララには届かない。
——どうすればいい?
ララはいっそう身を
足が震えていうことを聞かない。こんな日がいつか来るとはずっと考えていた。その日を目にすることなくこの集落を去るのだと、小さな
別の草陰から、呪術師を連れて男たちが姿を表す。その手には木を
やがて
呪術師はわざとらしく杖をガシャガシャ言わせながら、ゆっくりと振り返った。そして村中の男たちを仮面の下で
「男たちはこれを指につけ、この者に塗る。もしこの者の子の親がこれをやれば、その
呪術師はそれを三度繰り返す。
ララはまた兄ぃの表情を
男たちが次々に泥を三本指につけ、マリアウルの身体に
その様子に、ララの目からも涙がとめどなく流れ落ちる。今すぐ行って彼女の身体を抱きしめてあげたかった。しかしそれが許されないことくらい、ララにもわかっている。
これがマリアウルと兄ぃの犯した
呪術師は順に
ララは兄ぃに
差し出された
兄ぃは天を
兄ぃの身体から、炎が出ることはなかった。呪術は、精霊たちはマリアウルを裏切ったのだ。
兄ぃが顔をおろし、再びマリアウルを見たとき、ララは抱えていた全てを手放して、
彼は
ララは叫びながら兄ぃに飛びかかり、馬乗りになって殴りつけた。何をしているのか、何がしたいのか、ララ自身にもよくわからなかった。
「お前が! お前! 死んじまえ!」
兄ぃに腕を
ララは声をあげて
次の腕が空を切った。ララの身体が浮かび上がる。別の誰かが横から組みついたのだ。誰かの肩の上で、ニヤついた兄ぃの顔が遠ざかっていく。
マリアウルが、遠くに行ってしまう。
「離せ! あいつは! あいつが!」
ララは抱え上げられた肩の上で暴れたが、次には投げるように下され、腕に水をかけられる。
ララを抱えていたのはユンロクだった。
「ユンロク! なんで! あいつだ!」
「儀式は儀式だ」
ユンロクはララの左腕を
「すまない。続けてくれ」
ユンロクは広場に向けてそれだけを言う。広場の中央で、立ち上がって土を
「儀式をしても俺にはなんともない! こいつは邪霊と交わった
ララはもう一度怒りに踏み出そうとしたが、ユンロクに首を抱えて止められる。
「何も言うな。耐えろ」
ユンロクの声はララにだけ聞こえた。
「許せない」
「許さなくていい。今は耐えろ」
涙に
「マリアウルのとこに行かせて」
「ダメだ。儀式は儀式だ」
雷鳴が
ララは再び
「ララ! ごめんね!」
誰からともなく投げられた石がマリアウルの
「助けに行くからね!! 絶対!!」
ララは声の限り叫んだが、マリアウルの姿はすぐに
ララは大声をあげて泣き崩れた。
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