望まないこと
まるでずっとそこにいたかのように、ララはそっと
何食わぬ顔をして、舌が
「今度はどこ行ってたの」
柔らかく肉付いた丸い顔立ちに、はっきりとした大きな瞳と平たい鼻、それに小さな口がいたずらっぽく笑った。マリアウルはバショウの葉を束にして抱えている。ララが腕を伸ばして半分持とうとしたら、申し訳なさそうに断られた。
「これは一族でやらないといけないって、おばあちゃんが。変な決まりだよね」
「変じゃないよ。そういうもんでしょ」
村の中でララに友達として接してくれたのはマリアウルだけだ。精霊の子に対する村の決まりをギリギリ破らない範囲で、いつもララを忘れずにいてくれた。石投げだって草引きだって、マリアウルがいなかったらララは遊び方を一つも知らないで子供時代を過ごしただろう。許される限りララとマリアウルは一緒に過ごしていたし、彼女がいる限りララは孤独ではなかった。
「で、どこに行ってたの、花嫁様?」
「誰にも言わないでよ?」
「当たり前でしょ」
ララが秘密を口にしようとすると、向こうの屋根から出た兄ぃがにこやかな表情で近づいているのに気がついた。マリアウルの兄もまた、ララに分け
なんにせよ、二人は秘密のおしゃべりをやめにする。すでにマリアウルは
「マリィ、そいつ持ってくよ」
「ありがとう、お願い」
兄ぃはマリアウルからバショウの葉束を受け取る。兄ぃはどさくさに紛れてマリアウルの腰を
マリアウルはララよりふたつ年上だった。本来ならとうに結婚が決まっているはずで、ララは出発より先に、彼女の祝いの席を遠巻きに見ることができたはずだ。たとえその輪に加わることが禁止されたとしても、その様子を目にしてから旅立ちたかった。
しかしマリアウルは
誰かマリアウルほどの
もちろんララにはそんなことのすべてが
もちろん兄妹の結婚なんてありえない。二人はその“ありえない”関係を保つためだけに、マリアウルを
たくさんの嘘が
兄ぃの背中を見るマリアウルの横顔がようやく友達のそれに戻ると、ララは自分の頭の中を全部追い払う。残された日々で彼女のためにできることなど何もない。ララはいつも通り、飾らないぶっきらぼうな顔を保とうとした。
「どうかした?」
「いや。呪術師のとこ行ってた」
マリアウルは目を丸くして口を開いたまま固まってしまう。次に何を
「私さ、わかんないこと多いんだよ。ほら、精霊の子だし。誰も教えてくれないから、呪術師なら
ようやくマリアウルは口に出すべき言葉を見つける。
「でもあの人はさ……不気味だし、怖いし、あと臭くない?」
「それはそうだけど……
握っていた
「ほんとだ、自分で作ったの?」
「すごいでしょ、秘密だよ」
「他も教えてもらえるといいね。役にたつ草とか」
マリアウルは
だから奥歯と
「これは知ってる」
「それ一番役に立たないよ」
「私にはこれが一番役にたつよ。マリアウルにはわかんないだろうけど」
ねずみ小屋のすぐ横まで歩いて、ララは腰を下ろす。マリアウルはそこに座りはしない。そういうものだった。
反対側でマリアウルの父が指笛を鳴らし、腕を使ってマリアウルを呼ぶ。壁のない円弧のような長い屋根だけがある集落では、どこで誰が何をしているのか、どこからでもはっきり見えてしまう。一族の用事を放り出して、いつまでも遊んでいられるわけではない。
「ほら、呼ばれてるから行きなよ。怒られるよ」
「でも……ララ、いなくなっちゃうでしょ?」
ララは名前も知らない背の低い木をじっと見る。まるでその木のことならなんでも知っていて、考えることが山ほどあるかのように、目を
「いなくなっても、ここは何も変わらないよ」
マリアウルがどういう顔で見ているのか、ララにはそれを確かめるつもりはなかった。
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