第11話 渡界者

「とかいもの?」


「人の世界ではなく、外の世界を旅する者たちのことじゃ。

 基本的に皆個人主義が過ぎる者たちじゃからな、見ることはないじゃろうな」


「面倒くさいのよ、大きな力を持つ存在を利用したがる人はいくらでもいるから」


「普通ならー、俺達は誰の言うことも聞かない。ただねー、ケイン爺にはお世話になったからねーまー、人の護衛くらいならねー」


「外界の人間を連れてくるのは悩みどこだけど、内容が内容だから。

 ねぇピースくん、魔鉱石を感じられるって本当なの?」


「え、ああ、はい。たぶんそうです」


「実際に見せてもらいたいの、ちょっと慌ただしいけど、付き合ってもらって良い?」


「はい!」


「坊主、もし嘘だったらげんこつじゃからな」


「ドギャン、ピースをいじめたら許さんぞ。それにミスリル見せただろう。

 あんな物がおいそれと見つからはずがないのはわかっているだろ」


「……ふんっ、俺は実際に見たものしか信じない。

 その坊主が本当に魔鉱石を見つけたなら信じてやる。

 なんなら武具も作ってやる」


「言ったわねドギャン、絶対に守ってもらうわよ。

 ピースちゃんは私達の孫みたいなものなんだから」


「み、ミナ……おったのか、いや、お、落ち着け。

 わ、わかった。俺も男だ約束は破らん!」


「おお、良かったなーピース君。俺達でもめったにドギャン師に作ってもらえないんだよー」


「伝説のドワーフの方に武具を打ってもらうとか、おとぎ話の話みたいです」


「ふむ、わかっとるようじゃの、それじゃあラス頼む」


「はーい、えーっとピースくんあの山の向こうだったっけ?」


「そうです、あの山を超えてって、うわーーー!!」


 ふわりと身体が浮いたと思ったら凄い速さでふっとばされた。

 横を見ればベガさんに抱えられたドギャンさんとラスさんが一緒に飛んでいる。

 びゅうびゅうと風が頬に当たるし、眼下の風景が凄い速さで吹っ飛んでいく。

 こうしてあっという間に山を超えて目的の場所に到達する。

 俺が見つけた2箇所の案内を終えて、石を探してみろと言われたので俺はいつもの通り山肌に突っ伏して周囲の微細な気配を感じようとした。


「あ、あのー、ラスさんとベガさん申し訳ないのですが魔力? 力を抑えてもらえますか、強すぎる気配で細かい気配が探れないんです」


「あら、だとすると、ベガ、こっち来て遮断結界を張るわ」


 結界とやらを貼ってもらうと、驚くほど3人の気配が感じられなくなる。

 眼の前にいるのに、いないみたい……俺も狩りの時に似たようなことをやるけど、もっと根本的な存在感が感じられなくなる?


「どう?」


「え、あ、大丈夫です!」


 声をかけられても、なんか声をかけられた感覚が薄い。

 凄いな。

 俺は再び大地に身を投げ出して気配を探る。

 地面に深く広く意識を溶かし込んでいくと……感じるものがある。


「この先だと思います。って、つるはし忘れて」


「ここねー」


 ラスさんがいつの間にか隣に立っていた。もう普通に感じられる。

 ラスさんの手が山肌に触れるとブワッと穴が広がっていく。


「凄い、これが魔法」


「簡単な土を動かす魔法よ」


「簡単じゃないですよ、いつもつるはしで掘ってかなり時間がかかりますから、すごいなー!」


「素直で可愛い子ねぇ……ところでピースくん私だけじゃなくベガにもなにか感じるの?」


「ええ、凄いエネルギーを感じます。魔物とか動物にも感じるんですけど、本当にお二人はその力が強くて周りのが吹っ飛んでる感じ、太陽のそばの星が見えないみたいな」


「ふーん、つまり君は魔力も気力も感じ取ってるんだ……しかも、かなり微細な……」


「ん? ラス、このあたりを丁寧にやってくれんか!?」


 土の変化の気配にドギャンさんが飛びついていつの間にか取り出していたランプを掲げる。魔法によって退けられていく土の先に深い青色の石が現れてくる。


「水脈石、蒼龍石か……素晴らしい品質だ……本当に、わかるのか……、とんでもないことだぞ……」


 ドギャンさんは石の一部を手慣れた手つきで採取し調べながらブツブツと独り言を呟いている。


「……純粋な力を感じ取れるのかしら、眼の前にあっても……私にはわからない。

 ベガ、わかる?」


「いやー、無理だろ。魔石だって目の前に合ったって感じるのは無理だしー。見ればわかるけどー」


「ピースくん、どんな感じに?」


「えーっと、なんか、自分を地面に広げていくと、うっすらと鈍い光?みたいなものを感じます。気配を探るときも同じように周囲に自分を広げていくような……」


「魔法でも、気力でもないわね。そうよねベガ」


「ああ、少なくとも俺の知ってる気力をそんなふうに外に広げるなんて聞いたこともないよー」


「探知魔法とも違う、何を感じ取ってるのかしら……」


 ベガさんはステップを踏みながら踊っているが、ドギャンさんもラスさんも考え込んでしまった。


「外に出るぞ……」


「はーい」


「わかったわ」


 俺は3人について外に出る。2つの太陽はもう少しで重なり合う。

 今日はとてもいい天気で空は蒼く雲一つない。


「坊主、お前の言ったことは本当だな。

 ……その力、とんでもないぞ」


「ピースくん、まわりの気配を探るのをやってもらって良い?

 ベガ、集中してね」


「はいよー」


「それじゃあ、やりますね」


 俺はいつもの通り周囲の気配を探る、直近にバカでかい気配が2つ、それにドギャンさん、森へと広がると無数の昆虫と小動物が……


めて!! 貴方、それ、根源力マナを扱っているの!?」


「いや、自分でもわかってないんで」


「……確かにー、マナって言われれば、そうかもしれない……」


「変なこと聞いて良い? 死なないの?」


「え? いや、俺は生きていますけど……」


「これはヒルスを呼んでこないと、もしそうなら、マナの謎がわかるかも知れない。

 とんでもないことよ」


「そう、なんですか……?」


「ラスー、たぶん、マナと魔力と気力の話をしないとわからんと思うぞー」


「そう、そうよね。私も驚いちゃって。

 まず、村へ帰りましょう。ドギャンさんもいいかしら?」


「ああ、俺はこの坊主としばらくやることが出来たが、これからまだまだ時間がかかるからな」


「じゃあ、帰りましょう!」


 再び俺達は空を飛んで村へと帰った。

 飛ぶのって、気持ちいいなぁ。


 皆の話が全く理解できない俺は、空中飛行を楽しんだ。


 

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