第36話 普通のJKの日常…だったよね?

ーーチュン、チュン



鳥の声で目が覚めた。今までと違う日常。そして、普通の女子高生としての日常。



亜音「おはよ、姉さん」


独り言をつぶやく。当たり前の日常を取り戻してから、今日で1週間。歯を磨き、制服に着替える。胸ポケットには“カトレア推し”のボールペン。そして、上着の下のホルスターに、コルト380オートをしまった。



亜音「全然、普通じゃないよね……はは……」


独り、自嘲気味に笑う。



朝ごはんはカップ焼きそば。

姉さんのアジトで一緒に食べたなぁ。


お湯が沸くあいだ、何となくテレビをつける。世界各地の航空機撃墜事件。クラウディアス教団の関与がようやく明るみに出たようだ。


なんだか遠い世界の話のような気がする。今ごろみんな、イルクーツクで戦っているのかな……



***



カップ焼きそばをすすっていると、スマホからアラームが鳴り響いた。

テレビ画面の上に赤い帯が入り『臨時ニュース』の文字が浮かんだ。これは……



アナウンサー『番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします。先ほど、ロシア方面の複数の地点から飛翔体が打ち上げられた模様。落下予測地点については明らかになっておりません。国民の皆様におかれましては、落ち着いて避難行動を取るようにお願い致します。繰り返してお伝えします……』


ま、どうせ日本には来ないでしょ。どっかの海に落っこちて終わり。いつものパターン……



アナウンサー『新しい情報が入って来ました。ロシアから打ち上げられた複数の飛翔体のいくつかが、北欧諸国に着弾した模様。繰り返して……』



テレビに映し出された映像に釘付けになる。ウソでしょ…… 定点カメラの映像、これってこの前走ったスウェーデンの街じゃん。

そして、定点カメラの画面が一瞬真っ白になった後にプツッと真っ暗になる。


と、再度スマホから聞き覚えのないサイレンが鳴った。まさか、Jアラートってヤツ?直後、無機質な女性の自動音声が流れる。


『ミサイル発射。ミサイル発射。ミサイルが発射されたものとみられます。建物の中、又は地下に避難してください』


避難って……まさか日本にも飛んでくるってこと!?迎撃は出来ていないの!?


『バタン!!』


その時、マナが飛び起きてきた。


マナ「亜音!テレビ、テレビ!!」

亜音「見てるよ!つーか起きるの遅いな!」


マナ「ウチのSR−25で撃ち落とせないかな!?」

亜音「あほ!だったらとっくにPAC-3が撃ち落としてるわ!」

マナ「じゃあどうするよ!死にたくねーよ!」


パニクったマナのお陰で、少し冷静さを取り戻せた。少し考える……



亜音「まだどこに着弾するかも分かっていないし、この近くには地下鉄も無いし。まずは家の中で、窓のない廊下の隅で防御姿勢を取って待ってるか。通り過ぎることを祈りながら……」


マナも冷静な私を見て、急に冷めたようだ。


マナ「……だわな。ウチら小物にはどうする事も出来ないもんな。よし、とりまテレビの音量上げて廊下でも聞こえるようにしとくか」


亜音「着弾を感じたらすぐに目と耳を塞ぐのよ。目玉が飛び出して鼓膜も破れるからね」



アナウンサー『落下予測地点は関東近辺。関東近辺です。湾岸スタジオの我々も避難します。あとは自動音声による情報を流しますので……』


マナ「……短い人生だったなぁ……」

亜音「バカタレ!絶対に生き残るわよ!」


そう、こんなところで死んでたまるか。これであっさり死んじゃったら、姉さんに会わせる顔が無い。って、死んじゃえば当たり前か……



『ドカッ!!』


突然、玄関のドアが蹴り開けられた……

誰か2人立っているが、逆光で顔が見えない。あれは…… あのショートカットは……


2人はブーツのまま走って廊下を駆け、そのまま階段を駆け上がる。私達の横を通り過ぎるとき、『遅くなりました』と聞こえた。



***



久音「イライザさん!特性弾丸とダネル、ありました!」


イライザ「早くベランダに!ボクの肩をバイポッド代わりにしろ!時間がない、来るぞ!」



弾道ミサイルの信管が起動する前に、ICチップを焼き切れば不発になるはず。着弾時に強力な電磁波を発生させるパルス弾を、大口径ライフルのダネルNTW-20に装填した。



久音「衝撃に備えてくださいね」


イライザ「ボクを誰だと思ってる。それよりも相手は多弾頭だ。1発も撃ち漏らすなよ」


久音「分かっています。私を誰だと思っているんですか?」



お互い、顔を見ずにニヤリと笑う。


2人が見つめる先は、澄み渡った青空の遥か先の、濃紺の宇宙空間。



***



さっきのは……

1階の廊下でマナと顔を合わせながら……


亜音「久音姉さん、だったよね」


マナ「あとイラ姉だぁね。何をしようとしているかは、まあ何となく分かるよなぁ」


亜音「これ、私らが邪魔しちゃ駄目なやつだよね」


マナ「ま、ウチらがしゃしゃり出たところで、姉様達が失敗するとは思わんけどな〜」


成り行きを見守るしかないか。でもなんだろう、この安心感は。まあ、理由は考えずとも分かっているんだけど……



そして、2階から何度か射撃音が響いてきた。

一発一発が、確実にこの世界の悪を殺していくのが分かった。



***



数分後……


アナウンサー『……弾道ミサイルは……不発だった模様です……詳細の情報が入るまで、まだ住民の方々は避難行動を解かないで下さい……』


混乱したスタジオの音声がそのまま漏れてくる。

『迎撃が成功した?』『不発弾が消えた?』



すぐに姉さんが2階から降りてきた。


久音「すみません。急ぎだったので土足で上がってしまいました……」



姉さんは申し訳なさそうな顔をして、すでにブーツは脱いで両手に持っている。


亜音「別に気にしないわよ。それよりも色々と、どうなっているのか教えて」


姉さんが玄関先にブーツを置いてからこちらに戻ってきた。2階からはイライザが降りてきた。

そして、事の顛末を話してくれた。


イライザ「……それで、ユーレカの転移魔術でここへ来た。長距離だし初めての場所だから、誤差があって危うかったがな。まあ、ボクとクィンシーが手を組んだんだ。うまくいかない理由が無いさ」



と、外から車のクラクションの音。


イライザ「ロイズとユーレカが来た。不発弾を亜空間に飲ませるのに成功したんだろう。さて、ここは厄介だ。とっとと行くぞ」



***



先輩「おー、キミが“鍵”か〜。驚くほどオーラが無いね!」


私達は転移魔術で、クィンシーの“誰も来れないアジト”に来ていた。


亜音「だれ?このチビガキ…」

久音「あ、駄目ですって……」



あれ?後ろ髪?軽くなったような……


ロイズ「まあ、綺麗にロングからセミロングになったから、いいんじゃない?」


……え?

知らぬ間に後ろ髪がスパッと切れている…


亜音「ぎゃああ!!なんで!?なんでよ!?」

久音「先輩は最強ですから……」


亜音「いやいや、髪は乙女の命なのよ!」


久音「…とは言え、亜音さん、そう言うの気にして無いですよね?」

亜音「……むしろ、サロン代が節約出来て良かったと思っている」


久音「ほらぁ」



亜音「いや、それにしても何よそれ。姉さんの先輩って、チ……いや、こんなに幼い美少女だったの!?」


姉さんから先輩について説明を受けた。8歳にして最強の暗殺者……

そういえば、私が使っているAKSもこのチビっ娘がカスタムしてくれたんだよなぁ。人は見かけによらないって、マジなんだなぁ。


亜音「色々と腑に落ちないけど、分かったわ」

久音「流石は亜音さん!」


先輩「で、キミは“鍵”の自覚、ある?」


亜音「いやいや、そもそも私が“鍵”っていうのも、今はじめて聞いたんだけどね?」


なんだよ、インペラトール・ボンバの“鍵”が私って……姉さんも初めから知っていたのかな。


久音「クラウディアス教団が解体して、もう世界各国に亜音さんの情報が拡散されてしまったんです。先ほどのミサイルと同時に……」


なーる。

いや、本当に性根が腐ってるな、カティーの叔母様って。戦うなら正々堂々と、格ゲーで……って、私も聖女に毒されてるな。

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