第35話 救出
ダリア「さて、カトレア元教祖。お前は反逆罪で処刑する。が、当然“鍵”を呼び寄せてからだ。まずは、見せしめにその汚らわしいアサシンから始末し、その首を“鍵”の元に送ることにする」
数人の魔術士達が、ジルを囲み凶々しい刃を構えている。相変わらず2人の身体は動かない。
ダリアは窓の方に歩いていき、遠くを眺める。
ダリア「クィンシー達が襲った拠点は全滅したようね。定時連絡が完全に途絶えた」
ジルは怒りでギリギリと歯を食いしばる。
口の端からは血が伝っている。
そして、ジルの頭の近くにいた魔術士の1人が、巨大なサーベルを振り上げた。
***
先輩「修道院はここから約5,000。いける?」
久音「やるしかないでしょう」
屋上に上がって、修道院の方角にライフルを据え付けスコープを覗く。愛銃には、イライザが魔力を込めてくれた特製弾丸。
倍率を下げたスコープを少しずつ振ると、明らかに異常な魔力のオーラを放った建物が見えた。間違いない。
その建物に照準合わせて、スコープの倍率を少しずつ上げる。
やがて、その建物の最上階の窓ガラスに人影が見えた。さらに、強力な魔力結界。
スコープの倍率を最大まで上げる。
私の隣には、同じように双眼鏡を覗くイライザ。
イライザ「いいか、ボクが指示を出す。スコープ本体は昔から変えていないんだろ?」
私は手元が動かぬよう、自分の呼吸と同じ大きさで微かに「はい」と呟く。
イライザ「ターゲットまで4,850m。気温13℃湿度71%、上に7クリック。3時方向から風速5m、右に3クリック」
私はイライザの指示に合わせて、スコープのダイヤルを操作する。
建物の窓から、数人の魔術士が見えた。その中で、巨大なサーベルを振り上げ、今にも何かを斬り伏せようとしている魔術士が目にとまった。
照準をその魔術士に固定する。
5,000mの超長距離射撃。0.01mmの手元のズレも許されない。だが慎重に、且つ素早く、呼吸と指先のタイミングを合わせる。
ゆっくりと息を吐いた瞬間に、視覚から指先までの感覚が一直線に繋がった。瞬時にトリガーを静かに素早く引ききる。
『ドンッ!!』
バレルから滑り出た弾丸は、狙った魔術士の頭部に向かい、静かに吸い込まれていった。
すかさず次弾を装填し発砲。そのまま周囲に見えた他の魔術士を全員仕留めた。
スコープの向こうには、カティーとその叔母と見られる人物、そして立ち上がったジルだけが見えた。あとはロイズとユーレカに任せよう。
***
カトレア「ロイズさん!ユーレカさん!」
ジルの周りにいた魔術士達が、全員倒れたあと、扉が開かれて2人が走り込んできた。
ロイズ「あれま、やっぱり久音が終わらせちゃってたわね。別の部屋にいた、緊縛の魔術を使っていた連中はもう片付けたわ。
さて、ダリア教皇様。イライザ特製の魔術弾丸で、あなたの固有結界もかき消させて頂いたわけなんだけど」
全員でダリアに向けて武器を構える。
ダリアは一瞬、キッと睨んだが、すぐに自嘲じみた薄笑いを浮かべて言った。
ダリア「……終わり方は自分で決めるわ」
そう言うとダリアは、閉じた口の中で『カリッ』と音を立てて何かを噛み砕いた。
ユーレカ「だめ!みんなこっちへ!」
すぐに部屋の外に出た。
出る直前、一瞬振り向くと、白目を向きながら口から泡と煙を吐き出すダリアが見えた。
***
久音「お帰りなさい。皆さん、ご無事で何よりです」
カトレア、ジル、ロイズ、ユーレカ、4人とも、ユーレカの使った転移魔術により修道院から先輩の閉じ込められていたビルの屋上、私達がいる場所に戻ってきた。
ロイズ「で?ダリアはどうなったの?」
スコープ越しで一部始終をみていた私は応えた。
久音「まあ、簡単に言うと溶けてしまいました」
先輩「あれは化学兵器と魔術兵器の合わせ技だよ。あの部屋にいたら、今ごろ同じ薬品を吸って、仲良く溶けちゃってたよ」
ロイズ「…あっけなかったわね。あの巨大な組織を操っていた人物がそれで終わるなんて…」
先輩「そんなわけない。きっと報復装置があって、ダリアの死亡に合わせて起動するようになっていると思うよ。知らんけど」
先輩はさらっと言う。
先輩「教団はロシアのほぼ全土のミサイルサイロを掌握していたからね。世界に向けて発射しちゃうかもね。あと、ダリアのことだから、自分がいなくなった後の世界なんて知らんだろうから、ついでに“鍵”も壊しちゃうかもね」
久音「え……そんなぁ」
先輩「“後輩”、いいの?行かなくても」
先輩は全部見越してる。
私が、亜音を放っておけるわけが無いし、彼女の元に駆けつける方法もある。
みんなが私を見て、返事を待っている。
久音「行きます!お願いします、みなさん。協力して下さい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます