第34話 潜入

ロイズ「うようよ出てくるわね」


先輩が囚われているビルの通路を駆け抜ける。至る所にあるドアから、銃を持った僧侶や修道女達が飛び出てくる。彼らの隙間をくぐり抜け、後ろを見ずにG36を背後に向けて撃つ。


すり抜けた時にターゲットの位置は分かっている。別に振り返らなくてもいい。記憶にある敵の位置に向かって撃てばいいだけだ。


そうして廊下の突き当たりに、上へと続く階段を見つけた。

その瞬間、頭上から一斉掃射を受ける。


身をかがめ、ランチャーに閃光弾を装填し、下から見える限りの高い位置に向けて撃ち出す。

まばゆい閃光とともに辺りが真っ白になった。敵の乱射は止まらないが、無視して階段を駆け上がる。目がくらんだ連中を押し退けて、無傷のまま最上階までたどり着いた。


階段から通路に続く扉をくぐり、手榴弾を3つ、階段側に放り込んでからドアを閉めた。

通路には敵影は無い。


ロイズ「よし、思ったよりも早かったわ」

と、通路の一番奥の扉が開き、イライザが入ってきた。


イライザ「くそっ、負けた」

ロイズ「まあ、次は頑張ってね」


2人合流して、通路の真ん中にあった大きな扉を開く。



***



カトレア「ジル!何を!」


ジル「申し訳ありません、カトレア様。私はクラウディアス教団の犬、今の主人はダリア教皇様でございます」



ジルが私に向かって刃を構えている。


裏切りなのか。いや、初めから裏切り者として扱われたのは私の方なのだ。ジルの肩越しに、目を細めて微笑みを浮かべたダリア叔母様が見えた。



ダリア「ジル、ご苦労。これで無事に“鍵”も手に入りそうね。そうすれば、この世界は我々の言いなり」


“鍵”…やっぱりそれが目的だったのか。

私はその為の人質…



ジルが静かにダリア叔母様に話しかける。


ジル「ダリア様。お約束の件は…」


ダリア「ああ、お前の両親ね」



そういう事か。

卑怯な手を使う。相変わらず…



ダリア「今頃、クィンシー達と頑張って戦ってるわよ。教団の為に、命を張ってね」


ダリアはニヤニヤしながらジルの顔を見ている。

本当に……相変わらず……



ジル「……ああ、一縷の望みでした、が、やはり貴方は仕えるには値しない…」


ジルの頬を涙が伝う。そして、私に向けていたアサシンブレードを、ダリアに向かって放った。

刃は勢いよく回転しながら、叔母様に一直線に飛んでいく。そして……


『カキィィィン!!』


叔母様の首の直前で、見えない壁に当たって虚しく床に落ちる。叔母様の固有結界。

直後に周囲から、低い呻き声のような呪言が響き渡る。空気が重く淀み、見えない手が肌を這うような不気味な気配が広がる。次の瞬間、全身が指先まで動かなくなった。これは、緊縛の魔術…。

ジルも同じように、身動き一つ取れない。


ダリア「さあ、その場でひれ伏せていなさい」



***



久音「先輩、おいしいですか?」


先輩は部屋の中でプリン・ア・ラ・モードを頬張りながら頷く。

相変わらず可愛い。栗色の髪をお団子にして左右に纏めている。ほっぺにはホイップクリームが。


ロイズ「なんで監禁されてるのに、優雅な生活を送っているのよ」



ロイズとイライザがビルを制圧した後、全員が先輩の監禁されていた部屋に集まった。



先輩「なんかさ、アタシは大切な人質だからって、捕まったあとは超優遇接待だよ」



イライザ「このチビが、お姉ちゃん…じゃなかった、ロイズの先輩?このチビ、がぁ!?」


ロイズ「ああ、イライザは初見だったわよね。齢8歳にして最強の殺し屋。それが私達クィンシーをまとめる“先輩”よ。それにほら、あんまりチビとか言うから……」



イライザの前髪がハラリと落ちる。知らぬ間に綺麗に一直線に切れていた。


ロイズ「前に、脳みそをメロンパンに置き換えられたヤツがいるからね。気をつけなさいよ」


先輩は相変わらず、ロイズ達のやり取りには目もくれずにスイーツを頬張る。



久音「先輩、心配したんですよ。どうして脱出してくれなかったんですか?」


先輩「だって、お菓子いっぱいくれたしぃ、“後輩”がなんとかしてくれると思ってたから」


信用してくれていたんだ。素直にうれしいな。



ロイズ「いや、久音。喜んでる場合じゃないわよ。急いでカティー達のところに戻りましょう。次の作戦に移らないと」


急に先輩が立ち上がった。


先輩「ちょっとまって。キミたちだけじゃなくて、カトレアも一緒なの?」


久音「はい、今はこの近くのアジトで待機して貰っています。危険なので」


先輩「ちがう」

久音「え?」


先輩「カトレアはこの街に来ている。『カトレアも改心して、ダリアのところに帰ったらしい』って言ってる奴らがいた。カトレアはロイズ達で安全な場所に匿っているはずだから、そんなはずないって思ってた」


久音「それって」


先輩「ダリアのいる修道院に、カトレアが行ったと言っているの。だからまずいよ、マジで」


先輩は少し目を閉じて考える。


先輩「って事は、カトレアをエサにして“鍵”を引っ張り出すつもりか。ねえ“後輩”、キミがここにいるって事は、“鍵”、見つけたんだね?そしてその“鍵”は、カトレアの事をよく知っている…って事はニンゲンだったのか」


久音「ち、違いますよぉ。私は先輩の事が心配で……助けに来ただけ……」


口に手を当てて言う。語尾が小さくなってしまった。


先輩「ほら、やっぱり嘘じゃん。キミのその仕草。無理だよ、アタシはだませない。

キミは任務を放り出してまで、アタシのところに来るはずはない。もともとクィンシーとはそういう物だから。で、今その“鍵”はどこ?」

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