第33話 作戦開始

久音「ハァ〜」

ロイズ「もう溜め息が癖になっちゃったわね」


ロイズが苦笑いしながら言う。


亜音と別れて3日。なかなか調子が戻らない。もうすぐイルクーツクに到着だというのに……


野営中、焚き火を枯れ木でつつく。

まずは先輩だ。先輩を救出して、それからクラウディアス教団を倒して、最後にインペラトール・ボンバの処理……


久音「ハァ〜」

ロイズ「まあいいわ。今日は早く寝ましょ。明日はいよいよ潜入だからね」



***



ーー翌朝、まだ日は昇っていない。


ロイズ「さて、じゃあ作戦通り私達2人が潜入するから、援護射撃と幻影魔法、それと陽動もお願いね」


接近戦と臨機応変さに長けているロイズとイライザが潜入し、残ったメンバーは外部から絶え間なく攻撃を行う。


カティーの千里眼の魔術によって、先輩が囚われている建物は分かった。クィンシーの中で、抜きん出た能力を持つ先輩を捕らえた連中だ。油断は出来ない。

だが、狭い建物の中だ。スナイパーである私には、遠距離からの援護しか出来ない。


久音「まあ、地下ではなくビルの最上階との事なので、窓から見える敵は任せてください」


ユーレカ「私も、出来る限りの魔術で撹乱させるわ。ロイズ、無理しないでね。……ところで」



ロイズが呆れ顔で、枕を抱きながらまだ寝ている妹のイライザを見る。


イライザ「おねーちゃん……ぎゅーどん、おいしいね~」


可愛い寝言を言っている、が、作戦当日くらいは、もう少し緊張感を持ってもらいたいのだけれど。


ロイズがイライザの鼻を摘む。と、暫くして『プハァ!』と言って起きてくれた。



ロイズ「じゃあ、行くわね」

そう言って、大きなリュックを背負い、肩にはアサルトライフルG36を掛ける。


イライザ「せいぜいボクの足を引っ張らないでおくれよ、ロイズ」


みんな「…………」



これは、ツンデレというジャンルに収まっているんだろうか。まあ、可愛いからいいか。



***



私もユーレカも配置についた。

程なくしてインカムから声が聞こえた。


ロイズ『今、裏口についたわ』


久音「ユーレカさん!作戦通り、派手に行きましょう!」


ユーレカが両手を上げ、特大の炎の塊を頭上に創り上げた。そのまま腕を振り下ろすと、建物の正面玄関に向けて勢いよく塊が突き進んでいく。


私も、事前に設置しておいたリモート式の迫撃砲のスイッチを入れた。建物前方を囲むように20基。そこから勢いよく大型のグレネードが発射され、建物手前で破裂しさらに無数の子弾が着弾。

正面側の壁に子弾が当たると、小さな爆発とともに発火と黒煙が上がる。見えている限りの窓ガラスは全て砕け散ったはずだ。


私は砕けた窓に向けて、焼夷弾丸を間髪入れずに撃ち込む。爆音と火災。


少しして、建物内部と、その周囲から無数の銃の乱射。こちらの思惑通り、私達を狙って撃ち続けている。

私とユーレカは建物から500mは離れている。素人の乱射など、当たるはずがない。


私は通常弾を込めたマガジンに入れ替え、敵を狙撃する。こちらで交戦している限りは、ロイズ達の侵入を拒む者は無いと考えていいだろう。私達はそう信じ、ありったけの全火力で応戦した。



***



ロイズ「おっ始めたわね」

イライザ「ああ、ボク達も行こう」


迫撃砲による爆発音のあと、銃撃音が鳴り響く。建物の裏側にいるボク達には、音と振動を感じるだけだ。敵は正面側に完全に集中している。


ロイズ「ま、解錠は番号か。ちょっと待ってね」

プッシュボタンのある基板と、壁の隙間にナイフを刺しこみ、こじって剥がし取る。

まとまっている配線を、ズルズルと引き出す。


ロイズ「これとこれと…あとこれっと」

説明書を見ながらやっているかのように、サクサクとケーブルを切って行く。


『ピッ』っと言う音ともに、ドアロックが外れた。


ロイズ「じゃあ行くわよ」


ロイズは肩にかけたG36を、両手で構え直した。

ボクも、レッグホルスターに引っ掛けていたMini UZIを構えた。


ロイズ「相変わらずクセ強なのを使ってるわね」

イライザ「シンプルで壊れないからいい」


ドアを開ける。何もおきない。

中をのぞくと奥に続く長い廊下と、左右の壁に沿って通路が続いている。


ロイズ「大きなビルの割には、外階段が無かったのが面倒くさいわね」

イライザ「恐らく、屋内の端にあるだろう。二手に分かれて左右から攻めていくか」

ロイズ「そうね。そのほうが効率的だし。お互い、気兼ねなく暴れられるしねー」



***



私とジルは、今は教皇の座についているダリア叔母様のいる、街はずれの修道院に来ている。

みんな、今頃は戦闘の真っ只中だろう。そこから5キロは離れている。誰の援護も期待できない。それでも、これは私のやるべき事。



カトレア「ここの上層階に、間違いなくいます。ジル、大丈夫ですか?」


ジル「問題ありません。カトレア様」


カトレア「では、行きましょうか」



廊下には電灯は無い。左右の壁に、交互に間隔を開けてランプが点けられている。


みんなには、私達がダリアに会いに行くことは伝えていない。危険を考えての事なのは分かっているが、大丈夫。そのための千里眼の魔術だ。

この修道院の中にも何人もの護衛はいるが、鉢合わせしないルートは分かっている。そして、ダリアに会うことが出来る事も分かっている。


その先の未来は見えない。

私の決断次第ということなのだろうか。



ジル「カトレア様、お足元にお気を付けて」



階段を使い上層階に上がる。

何故だろう。胸騒ぎが止まらない。


とうとう、ダリアのいる部屋の扉の前まで来た。本当にこの扉を開けてしまっていいのだろうか。私の千里眼の魔術は全く働かない。



ジル「どうされましたか」


ジルは冷静だ。両手にはアサシンのブレードが握られている。きっと、扉を開けたら躊躇なくダリア叔母様を……



私は意を決して扉に手をかけた。

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