第30話 戦場

ロイズ「いるわいるわ。そこら中に教団の私設軍隊。ライバルたちが減って、軍備の売り手も集中しているみたいね。なんで米軍のエイブラムスと中国のType99が一緒に配備されてんのよ…」



***



ーー遡ること3日前


ロシアの中央付近。クィンシーの拠点で、無事にロイズと落ち合った。


複座式のハリアーを使ってユーレカとやってきたが、何度かの地対空ミサイルの攻撃を受け、ほぼ不時着するような形で到着した。

ただ、ミサイルの代わりに吊ってきたオフロードバイクは無事だった。


ちなみに、ミサイル攻撃を受けても不時着で済んだのは、ロイズ曰く「腕と根性」らしい。ミサイルのロックオンは「気合」でかわせる、との事。

やはり、普通の人間じゃない。


そこから、ニュースにもなっていた、数々の航空機撃墜事件の現場の1つに向かった。


敵に見つからないように遠くから確認するだけだったが、真っ黒な鉄の塊が散らばっており、そこかしこでまだ煙が燻っていた。

救助作業などはされておらず、遠目に見ても全滅である事が分かった。


そして、そこから一番近い都市へと向かった。

だが、そこはすでにクラウディアス教団の私設軍隊に占拠され、武装集団が集まっていた。


ロイズがここまで来る途中、上空からは同じように占拠された都市が散見され、その度に砲撃を受けたのだと言う。



亜音「……どうします?」

1人でバイク移動のロイズに声を掛ける。


ロイズ「まあ、この程度の規模なら、私と久音の2人で何とかなるわね」


R390の助手席の姉さんに声を掛ける。


亜音「起きなさい!このぐーたらポンコツクィンシー!」

久音「うにゅ〜、おはようございま、ふぁ〜」


ロイズ「久音、私にも銃貸して貰っていい?」

久音「はい〜。ロイズさんは万能ですから、グレネードランチャー付きのG36を準備しておきました」


姉さんにしては、珍しく機能性重視だな。

ロイズ「ありがと。取り回しもいい感じね」



姉さんが小声で耳打ちしてきた。


久音『たぶん、最前線にロイズさんを配備すれば、1人で全部片付いちゃいますよ』

亜音『それじゃつまらないわね。二手に分かれて侵攻するわ。姉さん、バックアップ宜しく』



***



久音「行けそうです」


スコープを覗きながら姉さんが言った。


久音「1個小隊って感じですね。対空システムのグレイハウンドが3つの塹壕内にあって、その周辺に兵士が合計56人です。塹壕の影と戦車内に、見えない兵が何人かいる可能性はあります」


ロイズ「バカね〜。塹壕にグレイハウンド入れちゃったらせっかくの機動性が台無しじゃない。トーチカ的な使い方か、ただの素人の寄せ集めか」


久音「ロイズさん、先にグレネードで戦車を2台とも無力化して下さい。その後で私が焼夷弾丸を塹壕に撃ちこみます。爆発と炎で逃げる連中を、ロイズさんと亜音さんで片付けて貰えますか?」


ロイズ&亜音「了解」



***



ロイズ『こちらロイズ。配置に着いたわ。いつでも戦車は破壊できる』


亜音「私も準備オッケー」



ここから、本物の戦闘だ。ロンドンで援護射撃は経験したが、今回は最前線。



久音『ロイズさん。榴弾、お願いします。戦車への命中を確認した後、私の合図で少し目を閉じて下さい。焼夷弾丸は眩しいですから』



インカムから聞こえる姉さんの声は、実戦経験のあるスナイパーそのものだった。

私は手元のAKSのレシーバーを撫でる。ヒンヤリと冷たい鉄の感触が緊張を高める。ボルトはオープン、セレクターはフルだ。



ロイズ『行くわ』


ロイズの放った榴弾が、放物線を描いて戦車へと向かっていく。即座に次弾を装填して2発目を発射。エイブラムスの爆発、炎上の直後に、Type99にも着弾。同じく爆発。



久音『では、焼夷弾、撃ちます』


私は目を閉じた。まぶたが明るく照らされる。顔が熱い。そして複数の爆発音。姉さんの、塹壕への狙撃はまだ続いている。


久音『まだです。まだ誘爆が続いています』



……そしてさらに数秒経った。


久音『……ゆっくり目を開けて下さい。数人、まだ生きています』


爆炎を背にして、息も絶え絶えになった人間が見えた。

軍人じゃない。クラウディアス教団の信者たちなのだろう。ほとんどの人が法衣をまとって、血と炎にまみれて転げ回っている。


亜音「うぅ……」



『ドンッ』


姉さんが撃ったのだろう。1人の頭部を弾丸が貫通し、その場で崩れ落ちた。



久音『亜音さん。まだ戦闘は続いています。気を抜かないでください!』



ハッと目が覚めた。殺さなきゃ、殺される。こいつらは、民間の旅客機を無差別に撃ち落とした連中なんだ。情けをかける必要なんて無い。



『タタタタタタ!』


ロイズだ。もう一番近くの塹壕まで進んでいる。私も戦果を1つでも残さないと。AKSのグリップを握りしめて走り出す。大丈夫。行ける!




『パァーーーーン!』


遠くから銃声が響き渡った。


え?あ、つまづいてしまった……



その後で、すぐさま姉さんのライフルの音が聞こえる。いや、くぐもって脳に響く……



目の前が赤い。血?誰の?私?私のお腹が……



寒い。



あ、空が見える。

私、倒れている?


ロイズさん、姉さん、私を見て泣いてる。

駄目だ、眠いや。あとで、おしえて……



***



ーーここは

亜音「知ってる天井だ…」


久音「亜音さん!!」



姉さんが抱きついてきた。ん?ん?痛い?痛い!いたたたたたた!!



ロイズ「いやぁ、近くにカティー達がいてくれて助かったわよ」



ここは……



ロイズ「拠点に戻ってきたのよ。やっと連絡がついて、今はカティー達も一緒よ。おかげで助かったわ」


カトレア「ロイズさんから、『レンラクコウ、シチコクヤマ』とメッセージがあったので、ただ事じゃないと思いまして。それですぐに」


ジル「……」


ロイズ「カティーの回復魔法は最強クラスよ。だから亜音も一命を取り留められたわ……マジで危なかったんだからね」



亜音「え……姉さん、私、どうなったの?って、痛っ!」


久音「胸部を撃ち抜かれたんです。あまり喋らないほうがいいですね。あの時、ちょうど見張りに出ていた別の分隊が戻ってきて、それで……」



胸部……ヤバいじゃん……



ロイズ「大丈夫。急所は外れていたし、応急手当もその場でなんとか。久音と血液型が同じだったから良かったわよ」


久音「はい、応急処置と言っても、ちょっとした手術と輸血ですね…… 亜音さんを助手席に寝かせて、私から輸血しながらなんとかここまで来ました」


カトレア「すみません。私のせいで、危険な目に合わせてしまって…」


ロイズ「いやいや、カティーのせいじゃないでしょ……」



ああ、私、馬鹿だ…… みんなの凄さに追い付こうと思って、先走ってこのザマだ。なんて弱いんだろう。みんなに迷惑かけっぱなしじゃないか……


涙が溢れてきた。急いでシーツを被る。


久音「亜音さん……」



悔しい、自分の力の無さが悔しい、それを分かっていない自分自身に腹が立つ。泣いてる場合じゃないぞ、間宮亜音!


『ガバッ!』


亜音「っ!痛ってぇ!!!」


ロイズ「急に体を動かすと傷口が開くわよ」



亜音「ロイズさん。私、もうみんなの、姉さんのお荷物になりたくない!どうすればいいのかな?」



ロイズはキョトンとした顔でこっちを見る。


ロイズ「……いや、どうもしなくてイイんじゃない?今のままで十分、久音の支えになっているわよ」


え?



亜音「でも、あの時姉さんが助けてくれなかったら、私、死んでたかも知れないし。こんなふうにみんなの手を煩わせることも無かった……」


ロイズ「でもまあ、生きてるし。次は気を付ければいいのよ。

……でも、まあ、そうよね。普通の生き方をしているとそういう考えになるのかも知れないわ。明日失敗しないために、今日は明日のために備えよう、って」


ロイズは続けて言う。


ロイズ「私達は元々、理不尽に明日を奪われるような生活を送ってきた者の集まりだから。明日は来ないかもしれない。だから今を楽しく生きてやるんだって考えてる人がほとんどだと思う。

暗殺者や傭兵、魔術士、いつ死んでもおかしくないの。

亜音には悪い言い方かも知れないけどね、あそこで亜音が死んでたら、それはそれで受け入れる。あの時こうしていたら……なんて考えても、それはもう叶わない事なんだから」



重い。命を常に賭けて生きていると、こうなるんだろうか。


亜音「私は……」

どうしたいのだろう……



ロイズ「まあ、今は寝て治すこと。気合よ!」

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