第29話 決戦に向けて
亜音「聞いていた通り、ロシアは道が悪いわね」
モスクワとか、大きめの都市を迂回しながらイルクーツクを目指しているが、姉さんのアジトの獣道の方がよほどいい道だった。車高を最大にまで上げて、轍を回避しながら進む。
久音「大丈夫ですか?」
亜音「うん、一応。4輪のラインさえ間違えなければ全然行けるから」
***
『フオォォン、フオォォン……』
スタックしたタイヤが虚しく空転する。
亜音「やっちまったわ」
久音「どうしましょう…全然車通りが無いですし…」
取り敢えず疲れた。
ステアリングにもたれかかり、目を閉じる。
と、姉さんのスマホに着信。
久音「ロイズさん、どうされましたか?」
暫く話を聞いている姉さん。だんだんと表情がこわばっていった。
久音「……はい、分かりました。では亜音さんに変わりますね」
姉さんからスマホを受け取る。
ロイズ『さっき久音に言った話は後で聞いてね。それよりも今、私のR390でスタックしてるんでしょ?センターデフロックパートタイム4WDでエアジャッキも付いてるから、使い方と悪路のコツを教えるわ。そのまま電話繋いでおいて』
クッ、クッ、ブンッ、ヴォォー!
亜音「……」
ロイズ『コツはね。車体が慣性で進んだ先に、グリップ出来る場所があるかどうかなのよ。
逆に言うと、進んだ先にグリップ路面が来るように、あらかじめスピードと車体角を調整しておくの』
言われるがままに、小刻みなアクセル操作とハンドル操作で車体角を調整して、泥沼をクリアしていく……
亜音「確認ですけど、ロイズさんってドライバーが本職じゃないんですよね?」
ロイズ『だって、仕事する上で運転が必要ならしょうがないじゃない。通勤みたいなもんよ』
通勤って……
亜音「一応聞きますけど、WRCのドライバーが故障して、影武者として緊急参戦させられた事、何回かありますよね?」
ロイズ『…ホント、あのときは大変だったわ』
***
ロイズさんの、コリ◯・マクレーも腰を抜かすドライブ逸話を聞きながら、ようやく舗装路に出て電話を切った。
亜音「で、さっき姉さんは、ロイズさんからヤバめの話を聞いてたみたいだけど?」
久音「…はい。今、ヨーロッパからロシアにかけて、上空を通る航空機が次々に撃ち落とされているらしく、世界中で大騒ぎになっているらしいんです」
亜音「何よそれ…それって、やっぱりロシアのデカい組織の仕業って事?その組織って、一体何者なのよ」
姉さんは少し戸惑ってから話した。
久音「クラウディアス教団です…カトレアさんの叔母様が操っている……そして、私達がロンドンのミストヴェイルをやっつけちゃいましたから、さらに勢いに乗ってきたみたいですね…」
うそ…そんなに大きな組織だったんだ。
カティーとジルは無事なんだろうか…
久音「インペラトールも教団が狙っていましたから。恐らく、先輩はすでに教団に…」
亜音「ちょっと待った。それは考えないようにしましょ。私達が信じてあげないと!」
姉さんは少し涙目になりながらも、笑顔を作ってくれた。
久音「そうですね。亜音さん、ありがとうございます」
亜音「ほら、向こうにモーテルが見えるわ。今日はあそこで休もう」
***
姉さんとビーフストロガノフを食べながら、話をする。
久音「美味しい…」
亜音「うん、うまい。ロシア料理、うまい」
ぎこちない。そりゃあ、戦争の渦中にいるようなもんだから、しんみりするのはしょうがないんだけど。
久音「ごめんなさい。悪いほうにばかり考えてしまいます。先輩、無事なんでしょうか」
亜音「それを確かめるために、イルクーツクに行くしかないでしょ」
久音「実は、カトレアさん達とも連絡が取れなくなっているらしいんです。叔母様を止めようとしているのかも知れません」
亜音「マジか〜、あの子、色々と背負いすぎなのよね。ジルさんがいるから、大丈夫だとは思うんだけどさ」
久音「教団の悪事は自分の責任、みたいに考えているところがありそうですし」
亜音「単独で巻き込まれて拉致でもされる前に、合流したいところよね」
***
ーー翌朝
久音「ロイズさんも、こっちで合流するってメールが来ました!」
姉さんのスマホ画面を覗き込む。数字とアルファベットがごちゃ混ぜの文字列だ。
久音「これ、暗号なので見方にコツがいるんですよ。ちょっと待ってくださいね」
そう言って姉さんは紙と鉛筆を取り出して、何やらアルファベットと数字の羅列が書かれたカードを取り出し、解読を始めた。
うーん、こういうところを見ると、ポンコツに見えないな…
途中で手が止まり、頭をかしげた。
久音「bとd、qとpって、未だによく分からないんですよね……」
うん。それでこそ姉さんだ。
2人で何とか暗号を解いた。今までどうやって暗殺業をこなして来れたのかは、あえて聞かないでおこう。
指定の場所は、今いる場所から500kmほど離れた小さな村の近く。マップを見ると、ちょっとしたクレーターのようになっている盆地だ。
久音「ここは、私達クィンシーが使っているアジトの1つなんです」
なるほど。そこを拠点にクラウディアス教団に殴り込みをかけるってわけね。
亜音「じゃあ、そこまでひとっ走りしますか」
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