第28話 日本の守護者たち

マナ「イラ姉!朝っすよ〜、つーかもう夕方っすよ〜」



亜音と久音姉を見送ってから数週間後、突然、久音姉に頼まれたと言って、傭兵のイライザが転がり込んできて、そのままウチの護衛に付いてくれている。

正直、久音姉が作った結界がだいぶ弱ってきたようで、ここ最近、間宮狙いの刺客が増えてきたところだったからありがたい。


イライザが来た時、初見で絶対に刺客だと思って撃ってしまった。が、見事にかわされてナイフを突きつけられたときは、流石に死を覚悟した。


先に言ってくれよ。亜音も久音姉もさ〜。



イライザ「やかましいな。言われなくても起きてるよ」

顔に畳の跡が付いている。イラ姉、ウチが高校に行ってる間、ずっと寝てたんか……


マナ「頼みますよイラ姉。狙撃の特訓をしてくれる約束だったじゃないっすか」


イライザ「待て。やっぱその『イラ姉』ってのはどうかと思う。無性に殺したくなる」


だって、『イライザさん』とか余所余所しいし、『先生』は気持ち悪いし。


マナ「じゃあ、イラっぴ」

イライザ「ぶち殺すぞ」



イライザ「じゃあまずはメシだな」

マナ「メシ食ってたら外暗くなっちゃうっすよ」

イライザ「暗くても敵は関係なく襲ってくる」


まあ、そりゃそうだ。イラ姉と一緒にライフルケースを背負って家を出る。行き先は……



イライザ「日本の牛丼、最高かよ」

マナ「そっすね〜」


夜、ライフルケースを持った2人が牛丼屋のカウンターでメシを食う……


女性店員さんに顔を覚えられて、「ツーピースですか?」なんて聞かれて、「いえ、ツーマンセルです」なんて応える…

店員さん、そりゃポカーンだわな。


イライザ「……傭兵やめて、このまま日本で牛丼食いながら、一生寝て過ごしたい…」

マナ「ダメ人間じゃないっすか。行きましょ、いつものビル」



5階建ての建設途中のビルの屋上の扉を開けると、風が吹き込んできた。


イライザ「練習には丁度いい風速だな」


ここから亜音の家まで、丁度1,500m。

家にはあらかじめターゲットを据え付けてある。



ウチはガンケースを開け、鎮座したSR-25ライフルを取り出す。

イライザは望遠鏡で亜音の家を見ているようだ。


マナ「じゃあゼロインしますわ」


そうして、亜音の庭の木に狙いを定めて一発。

30cmほどズレた。スコープを調整してもう一発。

10cm。あと2クリック。命中。



イライザ「だいぶ慣れたな」


イライザはこう言ってくれるが、実戦ではゼロインなんてしない。風向きと風速を読んで、その場の感でずらして撃つんだ。


スコープで亜音の部屋を覗くと、ほぼ真っ暗の中に1から5まで数字の書いてあるターゲットが置いてある。いずれも10cm角の正方形だ。



イライザ「いくぞ」

マナ「ういっす!」


「5」『バスッ!』

「4」『バスッ!』

「1」『バスッ!』

「2」『バスッ!』

「3」『バスッ!』



イライザ「2発外した。実戦なら返り討ちだな」

マナ「やっぱ、風の影響っすかねぇ……」


イライザ「はじめのゼロインを完全に信じると、風速が変わった時に対処できない。外したのは最後の2発で、少し風が弱くなったからだな」


一度、スコープのレティクルを初期位置に戻す。


はじめにゼロイン調整した庭の木の、30cm隣を狙う。風の強さは……たぶん最初とあんま変わらんと思う。


『バスッ!』


命中した。これかぁ……



イライザ「風速とターゲットの距離から、だいたいの弾道ズレを予想しろ」


マナ「イラ姉は百発百中ですよね」

イライザ「でなければ、死ぬ」


傭兵だもんな。そりゃあそうだ。


マナ「ウチ、実際どうっすかね?スナイパーになれますか?」


イライザ「素質は無くはない。あとは熱量だな。

スナイパーってのは人を殺すのが仕事だ。相手が善人とか女子供も関係無い」


マナ「それは嫌っすね〜」


イライザ「それが普通だ。でも1,500で狙いを外さなければ上等だ。傭兵の狙撃手要員として実戦で通用する。だから、ここまでは出来るようになっていて損はない」


マナ「久音姉って、1,500だと……」


イライザ「アイツならワンホールショットだな。ワンマガジン10発。たとえ猛吹雪の中、移動中のターゲットだったとしても」


マジか……


イライザ「ボクでさえ無理なんだ。純粋なスナイピングのみでアイツに勝つなんてな。だから、今やっているのがお前の遠距離射撃のベストでいい。それ以上は本当のプロに任せればいいのさ」



***



思い知らされたなぁ。

まあ、切り替えていこう。ウチはオールレンジプレーヤーになる。その方がきっと向いてる。


イライザ「さて、今日はここまでだ」


マナ「へい!今日はおでんセット買ってきましたから、鍋で温めて一杯やりやしょう!」


イライザ「…やっぱり、ずっとここにいたい」



さて、亜音は今頃どうしているんだろうか……

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