第24話 行け!最前線!

亜音「ちょっと待って、ここ、ロンドンよね?道を間違えて中東の紛争地帯に来ちゃったとかじゃあないわよね?」


大きな建物で完全な状態のものは、見渡す限り無い。まるで空爆を受けた後のように崩れかかり、炎と煙が立ち上っている。有名な時計塔も半分ゴッソリ崩壊している。



***



ーー遡ること2日前


ロシアに向けて出発しようとした直前、ロイズから電話がかかってきた。ロンドンで、魔術士と地元の財団のドンパチが始まってしまったとの事。その魔術士は、ロイズや姉さんとも古い知り合いらしく、なんとか助けに行けないか?と相談され……



亜音「これ、完全にマジモンの戦争じゃん」


久音「はい。今回の騒動の発端である、魔術士で傭兵のイライザさんは、普通の魔術士と桁違いなので……そこと、完全武装のロンドンの裏の支配者である、ミストヴェイル財閥が正面衝突してしまったらしくて」


それでも、街を1つ滅ぼす勢いだぞ、これ。警察とか正規軍とかはどうなってるのよ……


久音「警察も軍隊も、全てミストヴェイルの言いなりですので…」



亜音「イライザさんって、単独で戦ってるってことなの?連絡は取れているんでしょ?」


久音「はい、今は即席のシェルターで、お互い硬直状態のようです」



***



崩れた地下鉄のホームに降りる。

奥には1人、金髪ロングヘアをポニーテールで後ろに纏めた、軍服姿の鋭い眼光の少女。小柄だが殺気は異常だ。歳は私と同じくらいだろうか。


私達の姿が見えた瞬間から、無言で銃を構えている。遠目でも分かる。あれはスーパーレッドホークだ。異様に長いバレルから、恐らく9.5インチモデル。


久音「イライザさん。助っ人に来ました」


イライザ「……クィンシーか。ボク1人でも大丈夫だってロイズに言ったんだけどな」


うわ、リアルなボクっ娘だ。怖いけど可愛いな。



久音「最終的にイライザさんが勝つとしても、協力しないと大勢の市民が死んじゃいます」


イライザ「はぁ……まったく。奴らのやり方は滅茶苦茶だからな」



と、突然遠くから地響きが聞こえてきた。

いや、爆発音だ。地下のアジトの天井から、パラパラと砂埃が舞い落ちる。


イライザ「こうやって定期的に絨毯爆撃を仕掛けて、炙り出そうとしてやがる。今、地上は火の海だろうさ……」



***



イライザ「地上部隊はボクが壊滅させる。厄介なのは爆撃機なんだ。クィンシーであるオマエが撃ち落としてくれ」


爆撃機をライフルで撃ち落とせるワケが……


久音「分かりました」

分かっちゃうんだ……


亜音「姉さん、本当にいけるの?」


久音「精密射撃と違って、ターゲットが大きいですから。魔力を込めた弾丸と大口径ライフルを使います。イライザさん、こちらの武器を見せて貰えますか?」


イライザが頷いてから、床下の扉を開いた。RPGやらAKコピーやら、まあゲリラがよく持っている粗悪品ばかりだ……

これなら姉さんのライフルが一番いいんじゃないか?ん?奥のでっかいやつは……


久音「ダネル NTW-20じゃないですか!」


イライザが後ろから話しかける。


イライザ「お前が来ると聞いて、こういうのが必要じゃないかと思ってな。調達しておいた」

ニヤリと笑う。


久音「さすがです……コイツでいけますね」

亜音「待って待って、有効距離は大丈夫なの?」


20mm弾頭なんて巨大な弾丸、爆撃機の高度まで届くはずが無い。


イライザ「ほら、これなら問題ないだろう」


イライザが20mm弾丸を見せてくれた。

なんだこれ?弾頭から薬莢までビッシリと魔法陣のようなものが描かれている。


イライザ「ボクだって遊んでいたわけじゃない。ガンナーにとって弾丸は命と同じなんだ。コイツは今の段階での魔術式弾丸の、ボクの集大成だよ」



***



地上に出た。

イライザはすでに待機中だ。

後は、私と姉さんの狙撃班の攻撃を合図に、最大火力で攻撃開始だ。


亜音「姉さん、見えた。定期爆撃だわ」


望遠鏡の向こうにB52爆撃機が見えた。


ミストヴェイル財閥は、正規軍を退役した機体を買い取って、再整備して自分達の軍隊を作っているらしい。先のイーグルといい、裏社会の連中はどうなっているんだ……



久音「爆撃開始の直前を狙います。弾薬庫が開いたらそこに撃ち込みます」


亜音「オッケー、ところでダネルはどう?使えそう?」


久音「重たいですぅ〜」



総重量30kg、普通は地面に据え置きで使う銃だが、今回は目標に合わせて動かす必要がある。

しかも上向きだ。私も手伝いたいところだが、狙いを外すわけにはいかない。一応塹壕と土嚢で支えてはいるが……


亜音「姉さん、速度が落ちた。たぶんもうすぐ弾薬庫が開く」


姉さんは銃を構え直し、スコープを覗いた。


『ズドンッッ!!』



撃った衝撃で、姉さんが身体ごと10cmは後ろにずり下がった。すぐに次弾を装填する。


敵は…………

爆発を何度も繰り返し、最後には機体全体が炎に包まれてそのまま空中で爆散した。

僅かな差で衝撃波と轟音が届く。姉さんは既に次の弾を撃っていた。


次々と爆散するB52、本当にライフルで爆撃機を撃ち落としちゃった……そして……


地上でも所々で爆発と煙が湧き立つ。イライザも攻撃を始めている。



久音「よし、全機撃墜しました」


亜音「速っ、10機はいたわよね……」


久音「12機です。とんでもないですね。ではイライザさんの援護に切り替えますよ。亜音さんもライフルを持って下さい」



***



廃墟になったビルに駆け上がり、ライフルを構える。こうなったらもう私の出る幕じゃない。


久音「何言ってるんですか。亜音さんも、ちゃんと援護して下さいね」


う〜ん、私も何度か練習したSVDのスコープを覗き込む。

え~っと。いた!破壊した戦車の影に隠れるイライザと、そこにビルの上から集中砲火を浴びせる迷彩服の集団。


距離は約1,000mくらい、風向きを考えると……こんなもんか。

SVDのトリガーを引いた。


『ドンッ!』


よし!命中!スコープの向こうの迷彩服は頭から突っ伏した。よし、次!



***



発砲音も爆発音も聞こえなくなった。やっと終わったのか……と言うか、地上部隊のほとんどが姉さんとイライザの2人で壊滅させてしまった。


亜音「姉さん、なんでボルトアクションなのに私のオートよりも早く撃てるの?」


久音「う〜ん、まあ、慣れ?ですかね?」



曖昧だけど、それだけの数をこなしてきたって事なんだよな。


亜音「やっぱすごいわ。姉さんは。」


『エッヘン』と言って胸を張っている。冗談ではなくマジで敵わないわ。



***



今はロンドンから北へ50kmほど離れた、ケンブリッジの外れにあるアングルシー修道院に移動している。


イライザ「ダネルと弾丸は、東京の武器庫…亜音の家に送っておく」



……確かに姉さんが持ってきた武器はいっぱいあるし、結界もあるから安全な保管場所ではあるけれども……いつの間に武器庫という位置付けになってるんだ?



イライザが姉さんに話しかけた。


イライザ「クィンシー」

久音「はい、何でしょうか?」


イライザはバッグから取り出したリボルバーを姉さんに渡した。



イライザ「久しぶりにメンテしてくれないか?」


久音「了解です!あー、だいぶ傷んできてますね。消耗品は私の方で交換しちゃっていいでしょうか?」


イライザ「任せる」



亜音「あ、姉さん、私にも見せ……」


『シュッ!』という音とともに喉元にナイフが……


イライザ「亜音、勘違いするなよ。ボクは相手がクィンシーだから渡したんだ。他の人間に許可した覚えは無い」



こ、怖い、本気で喉を掻っ切られるかと思った。



久音「まあまあ、イライザさん。こう見えても彼女は私の助手ですから、大丈夫ですよ♪」


ここぞとばかりに分かりやすく調子に乗ってやがるな。


イライザ「クィンシーの作業に必要ならば、工具や部品の準備を手伝っても構わない。だが、本体には指一本触れるな」


亜音「はっ、はいっ、了解しました!」



姉さんはドヤ顔でこっちを見ている。

分かった分かった。姉さんの銃のメンテは一流だって事は知っているわよ。


久音「じゃあ取り敢えず、メンテ用の工具一式と、ガンオイル、ニトリルグローブを持ってきてくれますか? あ、の、ん、ちゃん♪」



後でガンオイルをケツから注入してやるからな。

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