第23話 ハードボイルドとOPPAIとルマン

亜音「ここに帰ってくるのは何年ぶりなの?」


久音「そうですね〜、なんだかんだで2年は経ってますね」



チーズとチョコレートを肴にワインとウィスキーを飲みながら、しっぽりしている。



亜音「姉さんと2人きりで食事をするのも久しぶりよね」


久音「そう言えばそうですね。卒業してからはマナさんも一緒でしたから。それはそれで賑やかで楽しかったですけどね」


亜音「中学の私が学校から帰ってきて、家族がいなくなってて、それから卒業して、今までずっと一緒にいてくれたんだもんね。改めて、ありがとうね」


久音「どうしました?今日はなんだかいつもと違う酔い方ですね」


どうしたんだろう。ウィスキーを飲むとこんな酔い方するんだな、私。



亜音「なんかね、真面目に腹を割って話をした事、あんまり無かったなぁって。こんなに一緒にいたのにね」


久音「えへへ、なんかこういう亜音さんって新鮮です。今夜はまったりと2人で話しましょう」


グラスに入れたロックをカラカラと揺らして、琥珀色のウィスキーを見つめる。



亜音「姉さんはさ、私よりもずっと幼い頃に家族を亡くしたんだよね。どんな気持ちだった?」


久音「そうですね…… 何がなんだか訳が分からなくて、ただ呆然としていましたね。

その時たまたま先輩に助けられて、そのまま選択肢も無いのでついて行って……

初めの数日は、ほとんど喋ることも出来なかった気がします。先輩が色々話しかけてくれて、それでだんだんと慣れていったと思います」


亜音「カティーさんも、生まれてすぐご両親を亡くされていたらしいわね。みんな似たような傷を背負っているのか」


久音「それ故、お互いの気持ちが理解できるんだと思います」


亜音「大切な者を失った事でしか、分かち合えない仲間、か。なんか切ないわね」



2人、物思いにふけながら無言のまま時間が流れる。こういうのも悪くない。


気が付くと、涙が一筋流れた。あれ?なんでだろう。別に悲しいわけじゃないのに……


久音「亜音さん、きっと心が疲れているんですよ」


心?


久音「あの日から、銃を手放した時間、どれだけありましたか?」


亜音「……そっか、私、知らない間に子供じゃなくなっちゃったんだね」


涙が溢れてきて止まらない。

……姉さんが優しく微笑んでいる。



久音「あの……もし良かったら、おっぱい、揉みますか?」


姉さん……


亜音「うん、グスッ、ありがとう。揉む」


柔らかい………

いいなぁ、これ。欲しいなぁ……



***



ーー翌朝


亜音「昨夜は、変な酔い方したわね。なんか気持ち悪いわ」


久音「気持ち悪いって……ヒドイです!」


亜音「いや、別に姉さんのおっぱいは気持ち良かったよ。自分の言動が気持ち悪かったっていうか……」


久音「まあ、なんだか途中から完全に自分に酔ってましたからねぇ」


亜音「だよね。あんなのマナには見せられないなぁ。絶対に一生からかわれるもん」


いやー、ウィスキー飲むと自然とハードボイルドになるんだな。私。



久音「さてじゃあ、真剣に今後の方針を話し合いたいと思います」

朝ごはんを食べ終わると、姉さんが意気込んで言った。


亜音「了解。お願いします」


久音「まずは、ゲートが使えない今、イルクーツクまで陸路を使います」

亜音「はいな」


久音「ルート的には、このままヨーロッパの西海岸沿いに北上、ベルギー、オランダ、ドイツを越えて、ポーランドからロシア入りします」


亜音「ヨーロッパの真ん中をぶっちぎって行かない理由は?」


久音「先日、亜音さんがイーグルに襲われた事から、クラウディアス教団が網を張っている恐れがあります。実を言うと、最終的な狙いのインペラトール・ボンバを狙っている一番の組織が、そこだったりするんですよ。

クラウディアスの本拠地はロシア。しかしイタリアにまで戦闘機を飛ばせられると言うことは、中央ヨーロッパの制空権をすでに掌握されている可能性が高いんです」


亜音「姉さん……大丈夫?」

久音「何が、ですか?」

亜音「ポンコツなのに、そんなに色々考えちゃって、また熱でも出さないかと思って」


『ポンコツじゃないですぅ〜!ちゃんと、考えるときは考えてるんですぅ〜!』と、頭をポカポカ叩かれる。



亜音「了解。じゃあ次は移動手段の確保ね」


久音「そうですね。なるべく早く決めてしまいましょう」


亜音「オッケー。姉さんがここまでお膳立てしてくれたんだもんね。私も頑張るわ」



***



久音「…すごい。これですか……かなり目立ちますね」



フルカーボンのル・マン・マシンが今、姉さんのアジトの前に停めてある。


亜音「……ブラックカードを使わせてもらったわ。値段は聞かないでね」


久音「はい。それにしても、よくこんなの見つけましたね…というかこれ、なんて車ですか?」


亜音「ベースはNissan R390 GT1 レースカーで、エンジンはブガッティのW16クワッドターボ。それとインホイールモーターと、後部にパルスジェットエンジンを積んでるわ。

イギリスの、狂ったカスタムビルダーが作ったらしいわよ。ちなみに最終的な仕上げとテスト走行したのはあのロイズさんだって。だからモノとしては折り紙付きよ」


久音「えっと……荷物は入ります?」


亜音「一応座席の後ろにスペースがあるから、ライフルケースが入るのは確認済みよ。他に、フロントとエンジンサイドにスペースがあるわ」


久音「でも、この車高でよくここまで来れましたね……」


亜音「機械式の車高調整が車内から出来て、サスのセッティングを変えずに、ごっそり車体だけ15cm上げられる」


久音「よく分かりませんが、なんか凄いですね……」


亜音「アスラーダもビックリよ」


久音「あ、知ってます〜、サ◯バーフォーミュラですよね♪」

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