第22話 心の癒し
ロイズ「あ、お帰り〜」
ユーレカ「お帰りなさい」
あの死闘(ビデオゲーム)のあと、無事に帰ってきた。F15との戦闘よりキツかったかも……
亜音「ユーレカさんもいらっしゃっていたんですね!」
ユーレカ「ええ、久音には、少し寝つきが良くなる魔術をかけておいたわ」
寝つきが良くなる……睡眠…催眠…
姉さんが寝ている間に、ロイズさんと…
いかんいかん!邪な事を考えては!
頭をブンブンと振って、ユーレカに向き直る。
亜音「姉さんの容体はどうですか?」
ユーレカ「大丈夫。熱はもうほとんどないわ。今はぐっすり寝てるわよ。明日には全快ね」
***
ーーそして翌日
久音「では、出発します。ロイズさんもユーレカさんも、ご迷惑をお掛けしました」
ロイズ「気にしないで。先輩の事、宜しく頼むわ」
ユーレカ「2人とも、無事で。また会いましょう」
すっかり元気になった姉さんと、2人で荷物を背負う。
ユーレカ「じゃあ、下の街まで転移するわね」
ユーレカが魔術を唱えると、魔法陣の模様をした光が、私達2人を包んだ。笑顔で見送ってくれる2人に手を挙げて応えた。
『ドスン!』
亜音「ぐえぇ」
久音「痛ぁい」
無事に転移は成功したが、地下鉄の駅構内に落ちてしまったようだ…… 周囲の目が痛い。
亜音「取り敢えず成功ね…… ここはフランスの西側だから、まずは姉さんの元アジトに行こうと思うんだけど…… なに?」
さっきからずっと手を繋がれている。
久音「ううう、駅の構内ってちょっとしたトラウマがありまして……」
そう言えば前に東京で迷った話を聞いたな。
まあいいか。
亜音「しょうが無いわねぇ。優しい優しい妹が、面倒見て上げるからねぇ〜」
久音「ううう、山登りの時は調子に乗ってすみませんでしたぁ……」
ふふん、マウントを取り返してやったわ。
久音「アジト自体も、恐らくまだ誰にも見つかっていないと思いますので……」
姉さんの教えてくれた場所をスマホに打ち込んで、電車でのルートを確認する。お、この地下鉄で結構近くまで行けるわね。
それから2回乗り換えをして、最寄りの駅に到着した。そこからタクシーを使って、姉さんのアジトの数キロ手前で降りる。
もう夕方だ。
久音「この風景、懐かしいです」
目の前には1本の長い畦道と、背後に夕陽に照らされた2人の長い影。
そうか、姉さんはこの道を通ってずっとクィンシーとしてやってきたんだよな。
久音「行きましょう。こっちです」
途中から道を逸れて森の奥の方に進む。草は生えているが、確かに獣道が続いていた。
***
久音「変わってないですね」
大きなロッジがあった。アジトって言うよりも別荘だな、これは。
久音「ロイズさんが建ててくれたので……」
なるほど、あの人なら完璧に作りそうだ。
中に入ると……
久音「あ!!洗濯物がそのままでした!ちょっと待ってて下さい!」
室内に干してある下着から目が離せない。
ちょっと大き過ぎないか?何カップだよ。
久音「ベッドは使えそうですから、今夜は取り敢えず休んで、明日お掃除しましょう」
亜音「それより姉さん……腹減った……」
朝から何も食ってないんだ……
久音「あ、そうですね。カップ麺が戸棚にあったはず……ありました!賞味期限も大丈夫です」
ありがたい。なんでペヤ◯グとか一平ちゃ◯があるのかは、この際考えないでおこう。
亜音「ズズズズ!!ああ、うまい……カップ焼きそば、染みるわぁ」
久音「ですね~。ホントに、カップ麺を考えた人は偉大ですよ〜」
食べ終わって、姉さんはシャワーを浴びに行った。う〜ん、一杯やりたいなぁ。何かないかなぁ。
こっそり戸棚をあさってみる、と、ワインあるじゃん!ちょっと一杯………
ん?……視界が揺れる………わたし、こんなに弱かったっけ??………あ、頭に血が昇ってくる………
久音「あ、亜音さん!そのワイン、飲んじゃったんですか!?」
久音「やめて!やめてください!私には将来を約束した方が!」
久音「あぁぁぁ〜」
***
ーーう〜ん
……アタマ痛い……
ベッドの隣で姉さんがシクシク泣いている。
久音「私、もうお嫁に行けない……」
あ、思い出してきた。昨夜ワインを飲んで、なぜか興奮して姉さんを襲ったっけな。一晩中そのデカ乳を揉んでいた気がする。
亜音「おはよ。いいじゃない、減るもんじゃないし。女同士だしさ」
久音「すっごいイヤらしい顔で揉んでいましたよ。あんなに抵抗したのに……グスン」
亜音「そんなけしからんブツを持っている姉さんが悪いのよ。つーか、そのワインは何よ?」
久音「私の仕事道具です〜。化学に詳しいクィンシー仲間が作ってくれた、催淫効果のあるヤバいやつなんです……」
なるほど。勝手に飲んだ私が完全に悪い…
いや、毒じゃなくて良かった…
亜音「勝手に飲んじゃってゴメン。でも姉さんのおっぱい、最高でした。
また心が疲れたときに揉ませてください」
久音「絶対に駄目ですぅ!」
***
久音「ふぅ、掃除洗濯終わりましたね。とりあえずここを拠点にして、情報を集めるところから始めましょう」
ロイズさんの話だと、この近くにゲートがあるって言っていたが、なぜに情報収集?
久音「ユーレカさんから聞いたんですけど、今、世界中のエーテルラインに乱れが出てきているみたいなんです」
亜音「なによ、そのエーテルラインって」
久音「エーテルラインというのは、地下に張り巡らされた、『魔力の血管』みたいなものなんです。もちろん目には見えないですが、魔力が川みたいにビュンビュン流れているんですよ。で、それが交差したところにゲートが現れるんです。それが今、なぜか魔力が急激に溢れて変な現象が起きちゃうらしくて……」
姉さんが口に指を添えて困り顔をする。
亜音「ひょっとして、樹海のゲートからこっちに飛んじゃったのも、ゲートを間違えたんじゃなくてそれが原因?」
久音「はい、恐らく」
さて、じゃあイルクーツクまでどうやって行こうか……
裏に停めてあったあったバイクは、問題無く動いた。BMWのR90/6だ。隣には取り外したサイドカーが置いてあった。
亜音「これからの移動はバイクにする?」
久音「私はどこに行くにもそうだったんですが……どうでしょうか?」
亜音「短時間・短距離の暗殺稼業なら問題無いかも知れないけど……今回は荷物とかあるし、もし先輩さんを拾うことになったら、いずれは車の方がいいわよね……雨とかも嫌だし」
久音「そうですね……クィンシーをやる分にはどこでも走れるバイクが1番良かったんですが、今は状況が違いますもんね」
亜音「まあ、車は私が調達しておくわよ。
姉さんには、この先の行き先を考えておいて欲しい。どう?」
久音「はい!そうですね。ではそうしましょう」
その後、バイクで街に降りて買い出しをしつつ、中古車情報誌を買ってきた。
ーーその晩
亜音「……日本車って結構高いわね………」
シビックで600万とか、マジか。
久音「まあ、日本車に限定しなくてもいいんじゃないですかね〜」
姉さんは新しく買ったドットサイトや暗視スコープのチェックをしている。
亜音「外車かぁ〜」
舗装路も未舗装路も余裕で走れて、ライフルケースも積めて……
亜音「……分からん」
姉さんが隣に来て一緒に雑誌を覗き込む。
久音「これなんか可愛くていいじゃないですか?」
アバルトか……良いんだけど、ライフル積むのがギリギリじゃね?あと、日本人から見るといかにも『私、オシャレでしょ〜』って感じがしてイヤなんだよな。MINIもな。完全に私の偏見だが。
亜音「あのさ、予算の上限ってあるの?」
久音「ないです」
即答か。
もう、いっそブガッティとか買っちゃうか。
いやいや、アレはデカすぎだし、やたらと売っているもんじゃない。あれこれしてたらもう夕方じゃん。1日潰れちゃった。
亜音「考えても進まない。今から姉さんのお帰りなさいパーティーするわよ」
久音「急ですね!」
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