第21話 死ぬがよい…
『ラウンドワン、ファイ!』
なんとなく、白い道着の主人公キャラっぽい人を選択した。
カティーは傷だらけのプロレスラーだ。
あー、これがパンチでこっちがキックね。おい!急に抱きつくな!なんだそれ!グルグル回して頭からドーンって!あ、死んだ……
亜音「……初めてなんで、少しは手加減を……」
カトレア「私も、初代は初めてですよ」
ジル「カトレア様、御慈悲を与えて差し上げては如何でしょうか?相手の小娘はとてもカトレア様の相手にはなりません」
カトレア「……そうですね。では、私の体力ゲージを1ドットでも削れたら亜音さんの勝ちとしてあげましょう」
みんなで仲良くするのが目的とかじゃなかったのかよ……いきなりガチで対戦初めやがって。
『ハドーケン!』あ、なんか出た。でもジャンプでかわされてしまった……こっちも色々動いてるんだけど、全部かわされてあっという間にさっきの抱きつきグルグルでやられてしまった……
亜音「完敗です。では、次はハ◯スオブザデッドをやりましょうよ!最高得点勝負で!」
カトレア「いいですよ」
ふん、ガンシューティングでなら負ける気はしないぜ!見てろよ、聖女!
***
カトレア「私の勝ちですね」
何故だ。おかしい。カティーのリロードが、プロゲーマーのやり方だ。私はついつい下にガンコンを向けてしまうが、カティーは手首のスナップだけで、一瞬だけ画面から外してリロードし、その僅かな差で先に敵を倒されてしまう……
カトレア「では、次はどうしますか?脱衣マージャンでも落ちゲーでも、なんでもいいですよ」
亜音「くそぅ。まだ、まだ負けるわけには!」
***
ハァハァハァ、床に倒れ込む私と、それを見下ろすカティー。汚物を見るような目、やめてぇ。
カトレア「虫けらですね。ジル、しょうがないからあなたが相手をして上げなさい」
ジル「……へ?私、ですか?何故でしょうか?」
カトレア「……はぁ〜。ジルも、いい加減エンターテイメントを理解して下さい。こういう流れになるだろうな〜って、普通は予想がつくものでしょう?
むしろ、私が始める前に『カトレア様の出る幕ではございません、ここは私めに』とか言わなかった時点で何も分かっていないですよ!」
何この展開。みんなでぷよぷ◯でもやって、『くやし〜』とか『やったネ♪』とか言いながら仲良くなっていくんじゃないのか?
ジル「ふふふ、申し訳ありません、カトレア様。今、目が覚めました。
さあ亜音、立ち上がりなさい。そしてこの私、カトレア様の唯一無二にして最強の番犬、ジルを倒してみせなさい!」
完全に悪の幹部の面持ちになって、目がイっちゃってる……
でもハドーケンとショーリューケンの出し方は分かった。ジルはゲーム廃人ってわけじゃ無さそうだし、ひょっとしたら……
ジル「うっしゃああ!!」
亜音「ぐあぁぁ!くっそぉぉぉ!!」
惜しい!ラウンドスリーまで行ったのに、最後の最後でショーリューケンを失敗してジャンプしてしまった……
ジルは顔を覆っていた頭巾を剥ぎ取って、勝利の雄叫びを上げた。それ、取っちゃっていいのね。
ジル「ふっ、全ての男たちは私の前にひざまずくのよ!」
ああ!悔しいけどカッコいい!言いてぇ!
『バン!』
拳で筐体を叩く。
カトレア「台パンは禁止!出禁にしますよ!」
聖女様は、なんだか店員さんになりきって見回っている。
亜音「ジルさん!もう一度お願いシャッス!」
ジル「何度やっても同じ事ですわ。いいでしょう、かかってきなさい小娘!!」
***
分かった。ビデオゲームはインドアとか暗いイメージがあったが、これはスポーツ、いや、本当の戦いだ。
さんざん闘って息が上がった私達は今、カティーの神プレイを見守っている。
3人とも、一言も発しない。
いや、緊張で声など出せるものか。
画面を埋め尽くす赤と青の弾、弾、弾……
そう、これは……『ドド◯パチ 最大往生』!!
何年か前にウェブニュースでも取り上げられていた、人類史上最強に難しいというゲームだ。
『ゴクリ』と喉を鳴らす音だけが聞こえる。あとはゲームの音だけ…… あのカティーも全く余裕が無い。
画面を見つめレバー操作に全神経を集中させているのが分かる。
下手な魔力よりも猛々しいオーラが見えそうだ。今、この時点で間違いなくジルとの心は1つになっていた。
『カトレア様!頑張れ!』
***
みんな「………………」
終わった…… パーフェクトクリア……
誰も歓喜の声すら上げられない。
カティーは、スコアの入力画面に静かに『AAA』と入力した。名乗るほどのものでもない、と言うことなのか。
ジルがサッとハンドタオルを渡す。
そう、汗がびっしょりだ。
カトレア「ジル、ありがとうございます」
そう言うとフラフラ〜っと倒れそうになる。
とっさに支える私とジル。
闘いは終わった。
3人とも無言のまま戦場(ゲーム部屋)を後にする。
窓から朝日が差し込み、3人の長い影が後方に伸びる。
リビングのソファーに深く沈み込んだ……
亜音「……250億点超え、人類のハイスコアを塗り替えたわ」
ジルがコーラを持ってきてくれた。
みんなで瓶を手に持ち、お互い顔を見合わせる。全員頬に涙の伝った跡が残っているが、強い笑顔だ。
ジル「お疲れ様でした。カトレア様に乾杯」
カティーは『ありがとう』とカスレた声で言った。
炭酸が喉をチリチリさせながら潤してくれる。この日の朝日とこの一杯を、3人とも忘れることは無いだろう。
ミッション……… コンプリート。
***
ロイズ『さっすが亜音!やったじゃない!』
あれから昼まで仮眠を取り、カティーとジルと堅く握手をしてから別れた。
別れ際にジルが『魂の盟友の証』として、『一生♡カトレア様♡推し』と書かれたボールペンをくれた。これ、教団のノベルティグッズなのかな…
まあこれでもう大丈夫。ジルもカティーと一緒に前を向いている。ゲームって素晴らしい。
亜音「じゃあ、のんびり帰らせて貰いますね」
ロイズ『はーい、気を付けてね。久音は無事に回復に向かってるからね〜』
さあ、姉さんのところに帰るかぁ。
あ〜、手首が痛てぇ〜
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます