第17話 おフランスの街へ
ロイズは、クィンシーの中でも魔術以外は最強レベル。日本で使ったGT-Rも、全てロイズのチューニングしたものだったという。今は、未開の地を開拓しながらクィンシーの活動拠点をたった1人で作っているという…
亜音「さぁて、こっからどうすりゃいいのよ…」
ロイズの建てた山小屋、と言うかロッジのリビングで1人頬杖をつきながら呟く。姉さんはバファリ◯を飲んで、隣の寝室でぐっすり寝ている。
街に行って食料の買い出しを任されたのだが、ここに来る時に壊れてしまった物も買っておこうか。手元の、ロイズから渡されたクレジットカードを見つめる。
亜音「とは言え、街に出るったってどうすりゃいいのよ。こんな山奥から歩きで行くと、どんだけ時間が掛かるやら…」
考えていると、すぐにロイズが戻ってきた。
ロイズ「ごめん!車のキーを渡し忘れてたわ」
亜音「おー、マジで助かります。今、丁度その事を考えてて」
ロイズ「車は家の裏手にあるから、好きに使ってね〜」
***
R33 GT-R 400R……
後ろに回り込むと、見覚えのある『TB26 RB34』のステッカー……
亜音「希少な400Rまで……」
取り敢えず乗り込み、走り出す。日本で乗ったR34とセッティングが全然違う……
凄いクロスミッションじゃないか。LSDも効きまくっていてコーナーで後ろが滑りまくる。WRCカーってこんな感じなのかな……
亜音「……思いきってやってみますかぁ」
シートの後ろにぶら下げていた4点式ハーネスを取り付けて、ギヤを1段下げた。おお、滑る滑る!でもステアリングにタイヤの挙動がリニアに伝わってきて、微調整ですぐに修正出来る!
R34もそうだったけど、やっぱりすごいな。
コーナーでも、ギヤを決めてからブレーキングで速度を調整して突っ込めば、アクセルとハンドル操作で思い通りのラインが取れる。
180度ターンもキレイに決まった。
派手に砂埃を立てながら、荒れたグラベルを疾走する400R。だいぶ慣れてきたぞ。
1時間ほどかけて山道を下りると、周囲の景色が徐々に開けてきた。
ブドウ畑の中、点々と見える家々。やがて、大きなショッピングセンターなどがある、ちょっとした街に出た。ここなら食料は勿論、壊れた時計も手に入るだろう。
さて、車を停めてロイズから預かった買い物メモを見る。
“カップ麺、レトルトカレー、栄養ドリンク、9パラ、45ACP、5.56NATO、7.62NATO、12ゲージ……”
おい、弾丸ってどこで買えばいいんだ?
つーか、食事が偏ってるなぁ。万能って言ってたけど、料理は出来ないのな。まあいいか。
まずはショッピングセンターで買えるものは全部買った。やっぱり弾丸は売っていなかった。
亜音「ま、どうせだから観光がてら銃砲店を探して、ブラブラしますかねぇ」
***
町の看板を見るとここはどうやらフランス南部、ボルドーらしい。ワイン、飲みたいな。ついでに買っていこうか。
でもまずは銃砲店か……
暫くキョロキョロしながら歩いていると、ショットガンの絵とArmes & Accessoiresと書いてある看板が目にとまった。ここだろうな。
『カランカラ〜ン』
喫茶店みたいなドアを開けて中に入る。
イメージ通りの銃砲店って感じだ。カウンターにはカウボーイハットのおっちゃんが1人。さらにその背後の壁には、頑丈そうな鉄柵に覆われた猟銃が多数飾られている…
うーん、ここって狩猟関係のお店っぽいなぁ。12ゲージは手に入りそうだけど、NATO弾とかあるのかな……
取り敢えずロイズのメモを店員に見せる。
店員はメモに目を通したあと、眉を寄せて怪訝そうな表情で私を見つめる。そりゃそうだ。16歳の日本人女子が、急に『5.56mm弾下さーい』なんて来たら、疑うに決まってる。
微かに『ラ・ポリス…』と小声で言ったのが聞こえた。マズイ!
と、店のドアが開き1人の女性が入ってきた。
長身で美しい純白のロングヘアー、それに落ち着いた雰囲気の紫のカジュアルドレス。女の私でも思わず見惚れてしまうほどの美人だ。
彼女はさっとカウンターの店員に数枚の紙幣を渡し、「大丈夫よ」と私を見て言った。
***
長身美女のお嬢様と、カフェのテラス席で向かい合って、コーヒーフロートを奢ってもらった。なんだか、成り行きで言われるがまま連れてこられちゃったんだけど……
謎のお嬢様「亜音、緊張しなくてもいいわよ」
ほのかに微笑み、目を細めつつ私を見つめる。
亜音「えっと…先ほどは助けてもらっちゃって、ありがとうございました。ところで貴方は?それにどうして私の事をご存知なんですか?」
少しの間、私を見つめてから言葉を続けた。
謎のお嬢様「ふふ、まずは自己紹介ね。私の名前はユーレカ。ロイズのパートナーよ。
亜音の事は定時連絡でも聞いていたし、さっきもロイズから連絡があって、あなたの手助けをするように言われたの」
ロイズのパートナー……と言うことは、このお嬢様もクィンシー…暗殺者ってことなの!?
ユーレカ「私は戦闘は苦手なの。だから、もっぱらロイズの援護魔術担当なの」
亜音「はぁ、分かりました。なんでパートナーなのに別行動なんですかね?」
ユーレカは遠くを見る。
ゆっくりとした動作で手元のアイスティーを口に運んだ。言いにくい事に首を突っ込んでしまったのかも知れない。
ユーレカ「好き過ぎて……」
は?
ユーレカ「私がいると、仕事が全然進まないそうなのよ……」
顔を赤くしてユーレカは言った。
それ……って……
うおぉぉぉ!これがリアル百合なのか!
ピンクのバラに囲まれて見つめ合う、ロイズとユーレカを思い浮かべてしまった。ボーイッシュな金髪ショート美女と、おしとやかお嬢様との禁断の……めくるめく愛の花園!
ユーレカ「……どうして亜音は、ガッツポーズをしているのかしら?」
亜音「あ、いえ、あんまりそういったオトナの話に免疫が無かったもので…」
ユーレカ「ふふ、とても可愛いわね」
少しだけ意地悪そうな笑顔で見つめられる。
う〜ん、からかわれている気がする。
亜音「あー、そろそろ買い物を終わらせないとー。暗くなる前に帰らないとー」
棒読みで話を逸らした。
目の前のコーヒーフロートを一気に飲み干す。
ユーレカは全て見透かしたような顔で、微笑んで言った。
ユーレカ「そうね。では私にエスコートさせて貰えるかしら。亜音、ロイズのメモを見せて」
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