第16話 ある日、森の中、暗殺者の知り合いに…
久音「行きます。絶対に手を離さないようにして下さいね」
体裁なんて気にしないで、姉さんと恋人繋ぎした。絶対に離してなるものか。青木ヶ原樹海で行方不明なんて、シャレにならない。
『バリバリバリ』っと雷が走ったような音と閃光が起こり、辺りが真っ白に包まれた。
***
ーーう〜ん、ここは……
久音「あ、目が覚めましたか」
亜音「……無事に、ロシアに着いたの?」
どう見ても雪山とかイメージの中のロシアじゃないけど……紅葉とかあるし。ほとんど日本と同じ季節じゃね?
姉さんが、申し訳なさそうな顔で、口元に人差し指の先を当てて言う。
久音「多分、間違えちゃいました…ゲート…」
亜音「ちょっと、だったらいったん戻ろうよ……って、え?あれ?」
辺りを見回すが、さっき通って来たはずのゲートの痕跡が全くない……
久音「ええ、そうなんです。どうやら一方通行みたいで……」
亜音「じゃあここ何処よ!」
スマホで調べようとするが、電源が落ちていていくらやっても起動しない……
久音「ゲートを通る時に、大きな電磁パルスが発生したみたいです。それで電子機器は全部……」
スマホ、タブレット、ああ、お気に入りだったG-SHOCK マッドマスターも、液晶画面に何も表示されていない。
姉さんの時計は動いているようだ。機械式なのか。太陽の位置を合わせて覗いているな。
久音「取り敢えず誰かに会わないことには、ここが何処かも分かりません。とにかく一定の方角に進みましょう。
銃器は機械式ですから、光学スコープや暗視スコープは取り外しちゃいましょう。どうせ回路が焼ききれているのでゴミなだけですから」
急に水を得た魚のように頼もしくなったな。アナログ人間の典型例か。
亜音「気温から言って日本と変わらないわね。って事は北半球なのかしら……」
久音「北半球で合っていますよ。それと恐らく、だいたいの時差から見て、中央ヨーロッパ付近だと思います。夜になって星が出ればもう少し詳しく分かるかも知れませんが」
太陽の位置でそこまで分かるのか……
さすがは世界を股にかけるスナイパー。見直したわ。そして姉さんは山を登り始めた。
亜音「なんで登るのよ!」
久音「出来るだけ上まで行きます。まだ朝ですし、明るいうちに安全圏までは引き返せますよ。まずは上から地形を見て、どの方角に進むのが妥当か確認しましょう」
***
亜音「ハァハァ…… ねぇさん…… まだぁ?」
久音「もう少しですよ」
亜音「30分前にも同じ事言ってたわよ……」
久音「大丈夫。もうすぐ森が切れますから、一番上まで行かなくてもいいかも知れません」
そして……
亜音「…… ハァハァ…… 森…… 抜けたぁ……」
既に姉さんは望遠鏡で周囲を確認していた。
久音「ここからまっすぐ北の方角に煙が上がっています。人家か、登山者の休憩所かも知れません。他はずっと山岳地帯が続いていますね。まずは煙の上がっているところへ向かいましょう」
そう言うと、休むこと無く姉さんは山を下り始めた。
亜音「ちょっと…… 休ませて……」
久音「日が暮れる前に少しでも進みましょう。頑張って下さい」
いつもバカにしている仕返しか?くそっ、ポンコツ姉さんに負けていられるか!
亜音「ハァ… ハァ… やっと… 追いついたぁ」
倒木に腰掛けていた姉さんが、追いついた途端すぐに立ち上がった。
久音「じゃあ、行きましょうか」
亜音「ちょっと、今、カ◯トリーマァム食べてたでしょ!ズルいじゃん!」
久音「では、きちんとお願いできたら休憩させてあげますよ♪」
亜音「……ハァ、姉さん……休憩させて……」
久音「はい?なんですか?聞こえませんよ?」
このやろぅ……
亜音「……お姉ちゃん♡ お願ぁい、休憩して私にもおやつ、食べさせてぇ♡」
姉さんが、下卑た笑顔で上から見下ろしている。コイツ、マジで今度とっちめてやるからな。
久音「はい、よくできました。じゃあ、お姉ちゃんがあ~んしてあげますからね〜」
あ~ん、パク、もぐもぐ。ごっくん。うまぁい。
亜音「ありがとー、お姉ちゃん♪」
久音「あ、あはぁぁぁ!」
ゾクゾクゾクっと身震いする姉さん。
変態め。次はその指ごと食いちぎってやる。
***
『ヴィーーーーーーン!!!!』
山を下り、上から見えた煙の方角に向かって歩いていると、突然もの凄い機械音が森に響き渡ってきた。
『ギャリギャリギャリギャリギャリ!!』
『ミシミシミシミシ……… ズズーーン!!』
久音「あ~!ロイズさん!って事は、ここはフランスですか?」
ロイズ「え!?なんで後輩ちゃんがここにいるのよ!?」
***
森の中にポツンと一軒家……
先程、木を切っていたロイズという女性が建てたらしい。金髪のショートヘアーで、如何にも快活そうな顔立ちだ。
姉さんの紹介では、クィンシーの仲間の1人で、機械や土木、情報収集やサバイバル術など、あらゆる事に精通した万能超人とのこと。
歳は、姉さんと変わらないように見えるが……
ロイズ「そんで、そっちの子は、前に話してた間宮の子?」
亜音「あ、どもです。ちょっと訳あって、姉さん……あ、いやコイツと一緒に暮らす羽目になりまして」
何と呼べばいいか分からず、姉さんを指差してコイツって言ってしまった。
久音「コイツって……いつも通りの呼び方でいいですよ」
そう言って、今は久音と名乗っている事をロイズに伝える。
ロイズが入れてくれた紅茶を飲みながら話を続ける。
亜音「ロイズさんは、姉さんの先輩になるんですか?」
ロイズは八重歯を覗かして笑った。
ロイズ「違う違う!同期よ。歳も一緒。この子、自分の名称を付けないから、先輩クィンシーに呼ばれるまんま、私達も“後輩”って呼んじゃってるのよ」
久音「ちなみに、ロイズさんはチョコレートが好きだから、ロイズさんなんですよ〜」
クィンシーの世界では、元の名前は捨てて新たにコードネームで呼び合う事になる、と言うことを教えてくれた。
ロイズ「んで?そっちの進捗はどう?まだ先輩は見つかってない?」
久音「それがですね……ロシアに向かおうと思ったんですが、日本からのゲートを間違えてしまって……」
姉さんは、相変わらずオロオロしながら口に指を当てて困り顔で応える。
ロイズ「どうやったら間違えるのよ…そもそもやたらゲートなんてあるもんじゃないでしょ。変な魔力干渉でも入ったとか?
ちなみにこちらも情報ゼロ。まあ、もともと私は魔術が全く使えないし、情報屋として動くぐらいしか能が無いしね」
そっか、魔術が使えないクィンシーもいるんだな。それにしても、森を切り開いて一軒家を作っちゃうくらいなんだから、それ以外の能力は桁違いだと思うけど。
ロイズ「取り敢えず今夜はまずここで休みなよ。それから後輩ちゃん……いえ、もう久音でいいわね。こっからなら、貴方の隠れ家近くのゲートから飛びなおすのが一番近そうね」
何故か姉さんの顔が赤い。
なんか、さっきからふらついてないか?
久音「ロイズさん。ありがとうございます…」
そう言うと、姉さんはフラついて私の肩にもたれかかってしまった。
***
ーー翌日
亜音「38.5℃。たぶん風邪ね。寝てなさい」
姉さん、昨日は調子に乗って張り切りすぎたんだろう。これだからポンコツは……
久音「申し訳ないですぅ……昨日は調子に乗り過ぎました……」
ほれみろ。
鼻に体温計を突っ込んでやった。
久音「や、やめへ、くらはぁい〜」
ロイズ「じゃあ、私は仕事に行って来る。久音はしっかり寝てなさいよ」
“安全第一”と書かれたヘルメットをかぶって、ロイズは出かけていった。
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