第15話 ワイルドなスピードのやつで

首都高を抜け中央道に入った。


さっきからバックミラーに嫌な感じのベンツが数台…… 黒のフルスモークのSクラス。昔のギャング映画かよ。


亜音「姉さん、後ろのベンツって……」


久音「はい、たぶん間宮狩り目的の追っ手ですね」



はぁ…… 面倒だなぁ。

まあ、コイツの実力を確かめてみるか。


ギヤを6から4速に落としてアクセルをベタ踏みした。時速120kmなのにホイールスピンしながら加速していく。コイツ、やばい。


メーターをチェックするが、油温も水温も異常無し。

タコメーターには、レッドゾーンを示すように赤い矢印のシールが9,500rpmの位置に貼られている。やってみるか。



4速のまま9,500まで回すと時速220km、5速に上げ、同じく上まで回し切ると時速280km、6速、だいぶ吹け上がりが鈍くなってきたが、レッドまではまだ余裕がある。

ステアリングに付いていた“GO BABY GO”のボタンを押す。アナログメーターは回りきってしまったのでデジタルの速度計を見る。360km/h。


『いいじゃん。そんじょそこらの一般車は敵じゃないわね』


ミラーからはもうベンツ集団は消えた。



亜音「ん?」


1台の妙なカタチの車が追い上げてくる。あの馬蹄の形状のグリル……


亜音『財団ってブガッティ持ってんのかよ……』



追い上げてくる白と青のツートンのスポーツカー、間違いなくブガッティ・ヴェイロンだ。



久音「追い付かれちゃいますよ!」


亜音「しょうがないじゃない!もう6速でレッド突っ込んでるんだから!これ以上回らないのよ!」



姉さんが手持ちのスコープで後ろのヴェイロンを見る。


久音「窓、開けますね」


この速度で、マジか。ワイ◯ドスピードかよ。

いつになく真剣な、スナイパーそのものの顔……


亜音「分かった。運転は任せて。ヴェイロンは姉さんに任せた!」


ゆっくりとした動作だが、慣れた手つきでケースからライフルを取り出す。チラッと横目で見た。姉さんの顔が知らない人に見えた。


時速400キロ近い世界。そのまま車速を維持しながら走る。


風が咆哮を上げて窓から吹き込んできた。助手席の姉さんは、シートベルトを足に絡みつけて上半身を外に出し窓枠に腰掛ける。


亜音「大丈夫?」


久音「余裕です。正義の味方ですから」



『ドンッ』


銃声とともに、ヴェイロンのフロントガラスがクモの巣状になる。そして、後方部のエンジンから火が吹いた。正確にミッドエンジンの燃料管まで貫通させたのか。やはり姉さんはとんでもない。

即座に次弾でタイヤを撃ち抜き、そのままヴェイロンは蛇行を繰り返し、周りの車にぶつかりスピンしていく。

最終的に周りの車を巻き込んで道をふさいで横転した。


久音「助かりましたね。このまま行きましょう」



***



大月JCTで中央道から外れ、富士吉田線へ。

河口湖ICで下り139号線に入った。



久音「都内から20分で着いちゃいましたね」


意外と姉さんは動じていない。



亜音「怖くなかった?」


久音「はい、まあ、慣れているので」


しばらく森の中の道を走ると“青木ヶ原樹海”の看板が出てきた。



久音「この先の道の駅に停めてください。そこから歩きますから」


道の駅に車を停めて、改めて地図を確認する。姉さんと顔を合わせ、2人で頷く。


久音「ちょっと待ってて下さい。私達に幻影魔術をかけておきますね」


これで、私の街と同じように銃器を持っていても周りは異常だと思わないらしい。



***



暫く2人、無言で森の中を歩く。

GPS端末は姉さんが持っているので、それに従いゲートまで。


1時間ほど歩くと、姉さんが振り向いた。真剣な表情だ。


久音「亜音さん」

亜音「どうしたのよ?」

久音「……完全に迷いました!」


『ゴン』


久音「グーで殴らないで下さいよ〜」


涙目で頭を抑える姉さん。


亜音「ちょっとGPSを見せて」



GPS端末にはゲートらしき場所にマーカーが付いている。ただ、自分達の場所が分からない。

森が深くて衛星が影になっているようだ。


亜音「まあ、歩いた時間と方角から言って、もうすぐよ。大丈夫。十分補正できると思うわ」



姉さんは倒木に腰掛けてルマ◯ドをサクサク食べていた。うん、美味しいよね。でも、今?


久音「亜音さんもルマ◯ド食べます?」

亜音「うん、ちょうだい」


サクサク、サクサク、美味しい。って、遠足か!



***



亜音「あったわ。この洞窟で間違いないと思うけど……どう?」

久音「見覚えある気がします!たぶん…」

亜音「行きと帰りだと見え方が違うものよ。そうそうたくさんあるものじゃないんでしょ?」


唇に指を当てながら、「まぁ…」と呟く姉さん。


洞窟の中はヒンヤリと冷たい空気が溜まっている。胸ポケットに入れたL字型ライトで奥を照らしているが、奥が深過ぎて光量が足りない。


亜音「垂直の洞窟じゃないだけありがたいわね。地下に向かってはいるけど、だいぶ傾斜が浅い」



しばらく進むと、姉さんが制止を促した。


久音「ありました!この先に大きな魔力反応!ゲートで間違いない、と思います!」


岩壁の一部が発光しながら絶え間なく歪んでいる。明らかな異様な光景。



亜音「え、本当にこのまま行っちゃって、大丈夫なの?」


久音「大丈夫です!!…………たぶん」



たぶんとか言うな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る