第14話 フル装備で行こうぜ
亜音「で、例の先輩さんとの連絡は、まだつかないの?」
久音「それが…… まだ…」
毎月必ず、状況の進捗とお互いの無事の確認の為に、先輩さんとの間で情報交換をしていたというが、すでに1ヶ月、連絡が取れないらしい。
亜音「何かあったわね」
久音「そんなぁ〜」
亜音「だって、そもそもこういう時のための定時連絡なんでしょ?例の“鍵”は後回しにして、先輩さんの安否を確認すべきじゃないの?」
久音「でも……」
姉さんは困り顔だ。
連絡が来ない以上、こちらから無事を確認しに行くしかない。だけどこれは、今までの日常を破る、最期の決断になるわけだが。
亜音「しょうがないわよ。最後にGPSが反応した場所まで行くしか無いでしょうよ」
そう。すでにGPSの反応も消えてしまったのだ。
亜音「最後はロシアのイルクーツクよね。そもそも姉さんの移動手段って、どうだったの?」
久音「移動手段は、世界中に散らばっている“ゲート”という転送用魔導術式を使っていましたが……日本にもそれで来ましたので。ここの最寄りは青木ヶ原樹海なんですが……」
マナ「来るべき時が来たって事かねぇ。ま、こっちのことはウチに任せといて」
この数ヶ月でマナは、十分に戦闘能力を開花させた。正直、銃器の扱いは私よりも上手いだろうし、魔術の腕も姉さんと並ぶレベルに見える。
任せても問題無いと思うが……
久音「……ですね。もともとこういう事態の時のために、マナさんにも戦い方を教えてきました。今がその時かもしれませんね……」
***
戦闘となると、必然的に私もメインウェポンが必要となる。AKS74U、通称クリンコフ。
初めに手に取った時、姉さんは『え〜、中東の過激派みたいですよぉ〜』と文句を言っていたが、サイズと装弾数から言って、バランスは取れていると思う。
しかもコピー品によくある5.56mm NATO弾を使う仕様だ。分かってるな、先輩さん。
久音「でも、使用弾の汎用性を考えるとUMP系のほうが良くないですか?」
そう、そうなんだよ。分かってはいるんだけど、私はAKが好きなの!スチールとウッドの奏でるハーモニーが最高なのよ!というか、最近の樹脂フレームが苦手なのよ!(偏見ヒドイな)
亜音「確かに45ACPとか9パラは汎用性高いけど、5.56の方が絶対に戦場では有利でしょ。
一般的に考えれば、私設軍隊を持っているような大きな組織だったら、M4系のアサルトライフルを使うんじゃない?だったら弾切れの心配も無くなる」
どうだ。言い返せまい。
久音「……じゃあ、このCAR-15が良いんじゃないですか?それならM4のマガジンもそのまま使えて便利ですよね!」
亜音「どうせ“可愛いから”とかいう理由なんでしょ?固定式のキャリハンなんてガサ張るだけじゃない。
それにこのAKSはM4マグ用のアダプターも付いているのよ。姉さんの先輩、絶対にコレを私に使わせたかったんだって断言出来るわ」
ミリオタの知識で論破してやる!
亜音「ズバリ!先輩さんの使っているライフルは、SV−98と見た!」
『ガガーン!』と後ろに仰け反る姉さん。
亜音「今度、その先輩さんとサシで飲みたいわ」
***
早朝5時……
久音「では、行きましょうか……」
亜音「ええ、こっちは準備オーケーよ」
玄関前で少し固まった。
亜音「この車は何よ」
我が家の玄関前に、1台の車が停まっている。
姉さんが近くのレンタルガレージから持ってきたというが。
久音「あの……知り合いが、メイドインジャパンの4WDの車が一番信頼出来る、とのことで、日本に来る時に手配してくれたんですが……」
で、“スカイライン GT-R Vspec ⅱ Nur”なのか?
今だとプレミア価格で1,000万円を軽く超えるんじゃなかろうか……
亜音「R35じゃ駄目だったの?」
久音「峠バトルはマニュアル車じゃないと、ってアニメで見たので……」
いや、これから向かうところは峠じゃないし、バトルする気もさらさらないんですけど……
亜音「分かった。うちのエルグラで行くよりもずっと速いし、飲み込むわ。そのかわり運転は私にさせて」
姉さんが意味が分からない顔をしている。
久音「良いですけど、どうしてですか?」
亜音「どうしても!よ」
実は、ミリオタ以外に車オタでもある。さすがに運転出来る年齢でもないから、大っぴらに言ってはいないが……
それにしても、現代でR34に乗れる機会なんて、なかなか無いだろう。
久音「別に良いですけど…… 免許、ありませんよね?」
亜音「細かいこと言ってんじゃ無いわよ。峠攻めなんて13の時から垂水峠で叩き込んでるっつうの」
久音「え!まさか藤原と◯ふ店の方よりも若い時から!」
亜音「ナメないで!こちとら垂水の下りで、父さんのエルグラでFDをぶっちぎってたんだから!」
姉さんはポカーンとしていた。車には疎いのだろう。
亜音「で?このR34、結構いじってるぽいけど」
久音「……はい、私はよく分かりませんけど、パワーは上げてあるって聞いてます」
馬力だけの話じゃないんだけどなぁ……
足回りとか冷却系も、それに合わせないとバランスが崩れちゃう。
久音「たぶん大丈夫です。機械とかそういうのに、何にでも詳しい知り合いが“完ぺき”って言ってたレベルですから!」
真剣な表情の姉さんを見るとわりと安心できる。姉さんの知り合い……クィンシー仲間か。メカニック担当もいるんだな。
***
マナ「いってら〜」
半分寝てるマナが、ようやく起きて玄関先に見送りに来た。目は閉じているが……
荷物を全て積み込んだのを確認して、私はイグニッションキーを回してクランキングする。
『キュン、ヴォン!!』と、新品のバッテリーに変えた直後のように、軽々とRBエンジンが咆哮を上げた。
そのままニュートラルで軽くアクセルを煽る。
『フォン!フォン!』と、軽々と6,000rpm以上まで吹け上がる。これはフライホイールも交換済みか…… 早速1速に入れてクラッチを繋ぐ。
『ガコンッ!』エンスト……
助手席の姉さんは笑いを堪えている。
くそう、軽量フライホイールにメタルクラッチなんだからしょうがないじゃんか!
ムカついて3,000rpmまでアクセルを開けてからクラッチペダルから即座に足を離す。
『キューーーーー!!!』という激しいスキール音と共にR34は旅の一歩を駆け出した。
車内の追加メーターを見たあと、リアに貼ってあった意味不明のステッカー『TB26 RB34』を思い出した。
ああ、これって過給圧2.6kで排気量3.4Lって事なのね……
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