第12話 姉さんの目的
昼過ぎ、我が家のリビングで私とマナは姉さんの話を聞いている。
久音「前にも少し話をしましたけど、今世界はロシアの、とある一大勢力の為に、完全に均衡が失われてしまったんです。
私の先輩が今、密かにその勢力について情報を集めているところなんです」
そう言えば前に、世界を滅ぼす力を手に入れたとか何とか、話していたな。
亜音「ロシアっていうと、やっぱ核?世界最大のツァーリ・ボンバとか?」
半世紀以上昔の、冷戦時代の産物だ。確か、当時の北極圏の実験では、モスクワの都市部にまで被害が及ばないように、威力を半分に抑えて行ったとか。それをフルパワーで使ったら……
姉さんはいつになく真顔で応える。
久音「ツァーリなんて生易しいものじゃありませんよ」
え……
久音「まだ不確定な情報ですが、冷戦時代後に密かに開発を続けていた研究機関があったらしいんです。そこで作られたのが、科学と魔術を使った兵器、インペラトール・ボンバ……TNT換算で推定15ペタトン」
聞いたことない単位だ。よく分からない。
亜音「それって……」
久音「ヒロシマ型原爆のおおよそ1兆倍の威力です」
亜音「1兆って……ヤバいって事は分かるけど、そんなものを使ったら、敵対勢力どころか自分たちまで駄目になっちゃうんじゃないの?」
私が言うと、姉さんが達観したような、悲しい笑顔を作って言った。
久音「そこまで考えていたら、人類は核兵器なんて作っていませんよ……」
まあ、確かに。でも、それを使うかどうかは別の話じゃないのか?まさか、使おうとしているバカなんていないだろ。
亜音「…で、話を戻すけど、私達はこれから先どうすればいいの?姉さんも、なんで先輩って人と一緒にいないで、日本にいるのよ。それに、そのインペラトールはどうするの?」
姉さんは黙ってしまった。
何か、私達に言えない事情があるのか。
亜音「…まあ、色んな事情があるんだろうから、言いにくいことは言わなくていいけどさ」
久音「あ…ゴメンナサイ。いっぺんにたくさん質問されて、頭がフリーズしてました」
ズコーー
久音「まずは日本に私がいる理由からですが、インペラトールの起動に必要な“鍵”が、どうやら東京にあるらしい、という情報があったんです」
え……
久音「なので、私はそれを見つけて葬り去る為に、ここに来たんです」
亜音「……まあ、なんで東京に?とか、聞いてもしょうがない事は聞かないわ。じゃあ、元々この町の魔術結界ってのも、私を守るためじゃなくてその“鍵”のためだったのね」
姉さんはまた申し訳なさそうな顔をしている。
亜音「気にしないで。それで合点がいった。出会えたのは偶然だったとしても、そういうのって、目的がはっきりしてないと気持ち悪かったからさ」
久音「そう言って頂けると助かります」
マナ「じゃあさ、久音姉様はウチらが学校行ってる間とかに、その“鍵”ってのを探したりしてたんすね。実際、見つかりそっすか?」
また困り顔。
言いにくそうに唇を触っている。まあ、理由は何となく分かる。
久音「それが……なかなか捜索が進まなくって」
亜音「私達が足手まといになっているって事よね?別に、返答に気を使わなくていいわよ」
姉さんは驚いた顔で両手をパタパタ振って応えた。
久音「違います、違います!私は私自身のやるべき事を優先しているだけなんです。だから決して、お2人のせいなんかじゃありませんよ!」
うん、間違いなく私達のせいなんだろうな。
亜音「ねえ、私達に手伝える事はないの?成り行きとは言え、姉さんは私の命の恩人よ」
マナ「ウチの命もなー」
久音「……では、マナさん。魔術の練習をお願いしたいのですが。道明寺も魔術師の家系なので、当然魔術は使えますよね?」
なんでマナ?
マナ「へい。たぶんいけるっすよ。身近で見てきたし、殺人術とか教わっているんで」
亜音「私は?」
姉さんは指を口に当てて少し考えたあと……
久音「亜音さんは、銃の腕を磨いてください。見たところ、クィンシーの素質がありそうですし、私の見立てでは魔術の才能は皆無ですから」
なかなか酷いことを言う。まあ、確かに魔術なんて姉さんに出会うまでファンタジーの話だと思っていたし、しょうがないか。
久音「では、お2人には、まずは今までどおりの日々を過ごしていただく、と言うことで」
今までどおり、か。
JKと暗殺者の生活……不安しかないな。
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