第9話 支配からの卒業…
亜音「はい、ミッションコンプリート〜」
久音「はい、お疲れ様でした。卒業おめでとうございます!」
卒業式、襲撃による巻き添えを恐れて私は遅れていった。案の定、開式と同時に魔術士反応があったので、不意を突いて数人を倒した。
一応その後で卒業証書だけはもらって(その間、外で何度も姉さんの発砲音が聞こえたが)、無事に中学卒業だ。
マナ「お、亜音と久音姉様!こんちはっす〜」
久音「あ、マナさん、こんにちはぁ」
亜音「そういやマナ、大人しかったな。なんかやらかすかと思ってたよ。“支配からの卒業”とか、ブツブツ言ってたよな」
マナ「うん。もうやってきた。式の前に」
亜音「私等がちょいちょい戦ってた時にか……」
マナ「だぁね。3年の教室の窓ガラス、全部割ってきた。飛散防止フィルム剥がすの、地味にすげぇ大変だった」
久音「わ、古いタイプの不良ですね」
亜音「いいね。私は“大人たちの支配”から卒業する準備はしておいた」
スマホでパスコードを打って、送信っと。
『ドドォォーン!!』
マナ「お〜、職員室爆破か〜。やるねぇ」
久音「あの…… そんな爆発物、どこから……」
亜音「じゃあ無事に卒業もしたし、打ち上げしますかぁ」
マナ「うい〜、夕方にでも亜音ち行くわ〜」
亜音「姉さん、パーティーのための買い出し行くわよ!」
久音「はい〜」
***
『ドンッ』
テーブルの真ん中に、マナが“純米大吟醸”とラベルに直接筆書きされた一升瓶を置いた。
マナ「さて、今夜はとことんまで飲むぜ!!」
亜音「望むところ。私と姉さんの強さを甘く見ないでよね」
全員分のコップに注ぎ分けた。
久音「お酒は二十歳になってから……」
マナ「街なかでバンバンチャカってるヤツが!」
亜音「ガタガタ抜かしてんじゃねー!」
マナとグータッチ。
***
う……食い過ぎた。酔いもだいぶ回ったな。
久音姉さん、もう寝てる。あれ?マナは?
『パンッ』
姉さんのひたいに、穴が…… マナ?銃構えてる。え!?
亜音「マナ!何してんの!」
無表情のまま今度は私に銃口を向ける。
と、手刀で右手を叩かれ銃を落とした。いつの間にか後ろに姉さんが。そのままマナを羽交い締めにした。
マナ「どう、して」
久音「私でも多少の魔術は使えます。マナさんが撃ったのは幻影ですよ」
マナに撃たれたはずの姉さんは、煙のように消滅した。
マナ「くそっ、全然簡単じゃないじゃんか……」
とっさに私も銃を構えた。
呆然とした顔のまま、親友に照準を合わせた。
マナ「……はぁ~、なんだよ、も〜」
***
久音「マナさん、一体誰に命令されたんですか?」
マナ「それに応えるとウチ、即死なんで」
今はマナを後ろ手に縛って椅子に座らせている。姉さんが近づいていき、マナのひたいに手をかざす。
久音「 何かしらの呪いを掛けられているみたいです。発動条件は雇い主の告白でしょうか」
亜音「姉さん…… 知っていたの?」
久音「すみません…… 2人が通っていたあの学校の出資元に、間宮と並ぶ大きな財団が絡んでいたんです。それで……」
***
亜音「で?どういう事なのよ?」
マナ「さて、どうしたもんすかねぇ……」
久音「呪術を解くのはあまり得意じゃないんですが、このくらいのレベルなら……」
姉さんがマナに手の平をかざし、ギュッと握る。
久音「はい、解呪成功です」
マナ「え?そんな簡単に?」
目を開けたままガクッとうなだれるマナ。
マナ「ウチ、こんな簡単に解ける呪いに15年も縛られてたの?……」
久音「15年!?そんな事って……」
マナ「そう、ウチは生まれた時から、間宮亜音と、彼女の関係者を監視するように育てられてきたの」
亜音「……嘘でしょ」
マナ「だから、どんなに仲良くなって、心から親友だと思えるようになっても、その事を明かす事は出来なかった。だって、ウチはずっと亜音と一緒にいたかったんだもん!」
知らぬ間に、姉さんが縛っていたロープを解いていた。
マナ「ホントだ… ここまで言っても生きてる。
ウチは亜音にずっと黙っていた。2人の出会いは偶然じゃない、全部仕組まれた物なんだって!だからウチと一緒にいたら危険なんだって!」
亜音「マナ……」
マナは口元だけ自嘲気味に笑いながら、涙を流した。
マナ「ふぅ、全部言ってスッキリした。これってお決まりだと完全に死亡フラグだね。さようなら。大好きだよ。亜音」
久音「させません!亜音さん!部屋の灯りを!」
私は言われるがまま、部屋の壁に飛びついて電気を切る。と、同時に、姉さんが窓の外に向かってライフルを構えた。外は暗闇。
姉さんが小声で「見えた」と言い終わる前に、トリガーを引いた。
弾丸は我が家のカーテンのフチを焦がし、薄く開いた窓ガラスの隙間から、隣の家の窓から窓へ貫通し、遥か遠くへ。
何が起きたのか全く分からなかった。遮蔽物が多過ぎて見えるわけがない。
久音「命中です。周辺にも敵影無し」
マナ「へ?」
私もマナも、バカみたいにポカンと口を開けていた。姉さんが振り向いて笑顔で言う。
久音「ね?私は正義の味方ですから」
カーテンの隙間から刺す月の光に、世界最強のスナイパーのシルエットが浮かび上がっていた。
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