第8話 戦場(ガンショップ)のメリークリスマス
亜音「出掛けるわよ」
久音「え〜」
亜音「ちょっと、姉さんは引きこもり過ぎよ。少しは買い物とか出かけないと」
そう、姉さんはいつもネット通販で済ませてしまう。便利な世の中になったのはいいけど、陰キャはひたすら陰キャを極めていくのだ。
まあ、私も姉さんの事は言えないけど……
久音「だって、人ごみとか怖いですし、はぐれた時のこととか考えると……」
亜音「いや、スマホがあるでしょ」
久音「でも……」
亜音「まあ、私も人ごみは嫌いだから、繁華街に行くつもりは無いわ。ちょっとガンショップにね。クリスマスセールもやってるし」
久音「ああ、それなら大丈夫そうです!昔、ハラジュクとかシブヤでひどい目に遭ったんで……」
なるほど、外国人から見たら完全にカオスな街と、駅なんか完全にダンジョンだもんなぁ。
日本人としても結構厄介だもん。
亜音「よし!じゃあ決まりね。あ、マナも一緒に行くけど宜しく」
***
マナ「どーもー、亜音のお姉様。はじめまして!道明寺マヤで〜っす!メリクリ!」
全身迷彩柄の陸上自衛隊スタイルで登場してきた。一応秋葉原はヲタクの聖地とは言え、イベントじゃないんだからちょっとは……
『お姉さん!目線下さい!』
『こっちも、64式を構えているスタイルでお願いします!』
もう、撮影会になってるじゃないか……
ノリノリでポーズをとるマナ。陽キャの極みだな。
亜音「ちょっと!」
マナの手を引いて、すぐ近くのビルの化粧室に連れて行った。
亜音「せめて上着だけでも着替えて!それと64式、ケースに仕舞いなさい!普通に捕まるわよ!」
『え〜』というマナから全部剥ぎ取る。
上着の下は、ミリタリーベストとタンクトップだけかよ……
久音「あ、私の上着がありますよ」
いいね、ロングコートじゃん。でも姉さんは寒くないのかな。
久音「私は寒冷地訓練もしているので、このくらいは春先みたいなものです〜」
***
よし、今日の決戦の舞台のビル前に着いた。
亜音「よっしゃ、行きますかぁ」
マナ「うしっ!行こうぜ」
まずはBB弾とガス、CO2関連のフロアで消耗品を買う。今日は割り引き価格だから買い貯めしてカウンターで保管してもらう。
そして次のフロアへ。新作や中古の本体が大量に……
あ、CZ75 1stのブルーイングフィニッシュだ。
艶消しとシルバーは持ってるけど、ブルーイングもいいよなぁ。
ふとマナを見ると、コンバットコマンダーの前で腕を組んでいる。あれはたぶん新品だと4万円超えるんじゃないか?そりゃあじっくり悩んでおくれ。
姉さんは、と言うと…… 以外にも目を輝かせて店内を見て回っている。『うわぁ、美しいですねぇ』と感嘆の声を上げながら。
確かに、実銃ではあり得ない組み合わせとかもトイガンなら可能だからな。そのへんは姉さんもご満悦のようだ。楽しんでくれているようで良かった。
久音「あの、この子にこのドットサイトを乗せることは可能でしょうか?」
店員「20mmレールだから問題ないですよ」
久音「じゃあこっちのファイバーサイトは?」
店員「ああ、それはスライド側の小加工で……」
これは…… 姉さん、さっそくカスタムガンを組む気マンマンだな。
マナ「っしゃ〜!コンバットコマンダーの限定モデルの中古、12,000円でゲットぉ〜!」
久音「はい、では、こちらのパーツ一式もお願いします」
2人とも楽しんでるなぁ。ん?
亜音「ちょっと姉さん!そっちのでっかい箱も?」
久音「はい~。本物じゃ買えないヤツでもエアガンなら手に入るから楽しいですよね」
M134ミニガン、ブローニングM1919、買ってやがる……
亜音「あとその大量のパーツなんだけど、なに?」
久音「ガバメントと〜、グロックと〜、それらに付けるカスタムパーツですよ〜」
ガバメント沼、グロック沼に同時にハマってやがる。これは重症だな。
マナ「わぉ!久音姉様すげぇ〜、やっぱ出来る大人は稼ぎが違うね〜」
暗殺者だけどな。
久音「亜音さんは、いいのありましたか?」
亜音「私は…… これ!S&W M945 スーパーフルハウス ハーフシルバーよ!!」
久音&マナ「おお〜、うつくしひ〜!!」
欲しかったんだよね〜。でもいつの間にか生産終了でプレ値になってて諦めかけてたけど、ついに買っちゃったわ。
亜音「じゃあ、シューティングレンジフロアに行こうか!」
***
久音「えっと、これは…… こうやって…… バッテリーを入れて、と…… マガジンはアモ缶直結なんですね〜、面白いな〜」
いつもはポンコツだけど、銃器の扱いになるとテキパキしてるな〜。どんどん巨大なM1919が形になっていく。
さすがはプロのスナイパー。
久音「……大きい……重い……」
亜音「そりゃそうよ。どーすんのよ、持って帰るの」
マナ「あとミニガンはもっと重いよん♪」
久音「……1人はみんなの為に、みんなは1人の為に……」
亜音「いや、お前1人だけの為だろがい!」
取り敢えず帰りの事は置いておき、試射する。
マナ「いやぁ、スライド短いとブローバックのキレがいいねぇ!」
久音「グロックもビシビシ来ますよ!18Cも買っておいて良かったです〜、フルオート楽しい〜」
“18Cも”って…… ああ、姉さんの前に沢山のグロック…… 17だけで4丁…… 沼ってんなぁ。
久音「パーツを換えると全く別の銃になるから楽しいですよね!シルバースライドとかもオシャレですし。下手に組み合わせても、暴発の危険も無いですしね〜」
確かにな。実銃だと普通に怖いもんな。
マナ「じゃあガンスミスにやって貰うとかは?」
久音「うーん、私、ガンスミスの方ってあまり信頼してなくて…… と、言うか、自分好みにする為には自分でやっちゃうのが一番早いんですよ〜。
マズルブレーキ切ったりとか、基部に影響が無い範囲だけなんですけどね」
あ〜、車で足回りだけ換えて他は純正で頑張るタイプだな。腕でカバーってか。
亜音「まあ、趣味は人それぞれだしね」
マナ「うんうん、そこが面白いところなのよ」
さて、じっくり堪能したし、姉さんのミニガンとブローニングは宅配して貰うことにしたし、帰りますかぁ。
***
3人でビルを出ると、もうすっかり辺りは暗くなって、クリスマスのイルミネーションが街路樹を飾っていた。
久音「あ、」
雪だ。ホワイトクリスマスかぁ。
マナ「久音姉様は恋人とかいないの?」
ド直球だな。
久音「え〜と…… 好きな人はいるんですけど、任務中に仲良くなった大切な仲間でもあり、恋人か?って言われると、そうではなくて…でも心の中では繋がっているっていうか……」
亜音「極限状態で生まれた恋は実らない」
久音「ヒドイ!2人の方こそどうなんですか?」
マナ「今日からウチの恋人は、このコンバットコマンダー様よん♡」
頬をスリスリしてる。街なかで出すな出すな。
亜音「私は…… 今はまだマナとつるんでるのが1番楽しい、かな……」
久音「それって…… もしかして……」
マナ「愛の告白だわな。イヤン♪」
亜音「ちゃうわ!!」
バカな話をしながら、女子3人でクリスマスの喧騒に満ちた街の中を歩く。
みんなの手には、プレゼントがたっぷり入った紙袋(全部エアガンだが)。
こんなクリスマスも悪くないな。
亜音「姉さん、楽しかった?」
久音「はい!とっても!」
マナ「お年玉が入ったらまた3人で来ようぜ〜」
ふと振り向くと、まだ積もり始めたばかりの雪の上に、うっすらと3人の足跡が残っていた。
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