第5話 超イケてる初陣
亜音「この横断歩道を渡った先、商店街のアーケードの入り口が見えるでしょ?今もそいつは同じ場所にいるの?」
姉さんと一緒に、走って現場まで来た。
久音「はい、ずっと動きませんね。人が多いのでここでの戦闘は避けたいんですが…」
亜音「そもそも、相手の風貌も分からないわよね。人ごみに紛れて、目視できるところまで行く?」
姉さんがポケットから単眼鏡を取り出した。
久音「これで見ます。相手が魔術士でしたら取り巻く魔素で分かるので」
亜音「へぇ、便利ね。私にも貸してよ」
久音「あ、これは私が先輩から譲り受けた物で、ただの単眼鏡です。ちょっと魔術の訓練をしないと魔素を見ることは出来ません」
亜音「あ、そ。じゃあその方法もそのうち教えて貰わないとね」
姉さんは周辺を見廻しチェックして独り言を言う。
『人ごみの中…… アーケードという上からは狙えない地形…… スナイパー対策かも知れませんね。でも……』
亜音「ねえ、私が倒すってのはどう?」
久音「はいぃ!?いや、護衛対象が前に出ちゃいけませんって!」
亜音「アーケードの屋根は半透明でしょ?二手に別れて、姉さんが上から見て相手の大体の位置を教えてよ。そしたら私が直接アーケードの中で仕留めるわ」
姉さんは暫く考え込んでいた。そしてまた独り言。『まあ、何とかなるかなぁ』
久音「分かりました。やってみましょう。でも、お互い危険だと判断したら直ぐに撤退する事。これは絶対に守って下さいね」
***
私はアーケード入り口の手前で、インカムを付けて380オートを取り出した。
大丈夫だ。結界のおかげで周りの人は誰も反応していない。
久音『こちら久音お姉ちゃんです。聞こえますか?』
亜音「感度良好よ。姉さん」
久音『……じゃあ、行きましょうか。敵はほぼアーケードの中央。まったく動いていません。
アーケード天井の磨りガラス越しでは、全身黒尽くめの服装っぽいです。魔力レベルは中の下と言ったところでしょうか。
まずは腹部に撃ち込んで下さい。相手が怯んだらそのまま連続して撃ち切って下さい。確実に息の根を止めるんです』
亜音「了解」
まずは警戒しつつ、店の立て看板に隠れながらアーケードの中心を目指す。
久音『あと200mです。注意して下さい』
一度身近にあった店に身を隠し、じっくりと辺りを見渡す。黒尽くめの魔術士…… 駄目だ、まだ肉眼じゃ見えない。
亜音「もう少し近づくわ」
久音『はい、気を付けて下さいね』
……いた。人通りの真ん中に何もせずに両手をだらんと下に降ろしている長身のスーツの男。真っ黒なロングコートを羽織っている。
漂ってくる異様な雰囲気からコイツで間違いない。今はコチラに背を向けているため気付かれていないようだ。
亜音「どうしよう、姉さん……」
ここにきて、どうすればいいか分からなくなってしまった。今、手元にある銃。トリガーを引けばすぐにでも仕留められるはずなのに……
久音『いったん物陰に隠れて深呼吸して下さい。大丈夫、亜音さんなら出来ます!』
言われた通り深呼吸し、心の中で唱える……
『……私はプロの暗殺者 ……私はスペツナズ ……私は、伝説の殺し屋・間宮亜音だZE!!』
カチリっと音を立てて、私の脳内のスイッチが切り替わった。そしてゆっくりと魔術士に向かって歩き出す。
久音『あ!変なスイッチ入れちゃうと、きっといつか後悔することになりますよ!』
***
ヒュ〜と風が吹き枯葉が舞う。私は下を向きながら静かに魔術士の男に近づいていく。
そして……
「ひとつ、人の世にはびこる悪を討つ」
「ふたつ、不届き者は見逃さない」
「みっつ、見せてやる、これが私の生き様よ!」
顔を上げ銃を構える!
「お天道様が見逃しても、この私が見逃さない!この世に蔓延る悪を討つ!我が名は間宮亜音!この名を地獄の底まで持って行け!!」
久音『嫌ぁ!背中がゾクゾクしますぅ!』
***
1マガジンを全弾撃ち尽くし、スライドストップがかかる。硝煙の立ち上る銃口をフッと吹く。
亜音「どう?姉さん。相手の反応は」
久音『はい、見事にやりましたよ。でも亜音さん、永遠に消えない心の傷跡を残してしまいましたよ……』
数年前から考えていた口上を、まさか本当に言える時が来るなんて。
ふっ、我ながらかっこよすぎたかな。
亜音「怪我人なし。ミッション・コンプリート」
久音『まあ、15歳ですし…… そういうお年頃ですもんね…… 将来思い出した時のことを考えると可哀想ですが……』
私は380オートの空になったマガジンを落とし、フル装填したマガジンに差し替えスライドを戻す。
それを脇のホルスターに仕舞い、倒れた魔術士に背を向けて元来た道を引き返した。
そして一度振り向き……
亜音「私と戦うには、一億光年早いんだよ!」
久音『それは距離の単位ですよぉ…』
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