第4話 黒歴史とか、勘弁してよ

亜音「で、なんで間宮一族は、今さら命を狙われる羽目になったの?」


久音「それは……説明しないとですよね」と、小声で喋りつつ、言い淀む。



久音「世界の勢力の均衡って、今どうなっているかイメージ出来ますか?」


急に、何の話だ?



亜音「核保有国とか、NATOとか、そういう系の話?」


姉さんは少し考え込んでから話し出した。


久音「やっぱり、一般的にはそういった軍事力が1つの指標になりますよね。でも、本当に世界を裏で牛耳っているのは、いくつかの財閥なんです。亜音さんの間宮一族もその1つ」


亜音「え!?」



久音「間宮一族は世界有数の財閥と同じレベルの存在だったんです。でも、とある財閥……正確にはロシア方面の大きな組織なんですが、世界を破滅させるほどの力を手に入れたらしいんです。

それを公表したことで、財閥間の均衡が崩れ、潰し合う者が出てきたり、どさくさに紛れて、間宮一族も、因縁を持っている連中に狙われちゃったんです」


亜音「何よ、それ…… そんなの、全然知らなかったわよ。なんで私が巻き込まれているのよ」


姉さんは相変わらずもじもじして困っている。

姉さんに言ってもしょうがないんだけど、勝手に巻き込んで、家族が殺されて、なんなんだよ。


無性に腹が立ってきた。



亜音「……久音姉さん」


久音「はい…… なんでしょう」

泣きそうな顔だな。


亜音「取り敢えずメシ買ってこいや」


久音「え!?はい!何がいいですか?」


亜音「いや、冗談。お腹すいたから一緒にコンビニに行こう……」



姉さんは涙目をキラキラさせて、何か次の言葉を求めている。



亜音「コンビニ行こう…… 姉さん」


久音「はいっ!!」



もうすでに、家族の死は脳裏の奥に沈んでいた。

私ってドライ過ぎるのかもしれない。



***



亜音「姉さん、もし差し支えなければ、簡単に姉さんの生い立ちを教えてくれない?

そもそも、なんで今みたいなスナイパーの稼業をしているのかも知らないからさ」


コンビニ弁当を食べながら、話をする。


姉さんは、自分の町が家族を含めて全滅し、自分1人だけが生きのびた事、そこでクィンシーと名乗る女性に救われた事、クィンシーとは、良い言い方では傭兵、悪く言うと暗殺者である事を語ってくれた。



亜音「思っていたよりも壮絶な過去を生きてきたんだね…… ごめん、ちょっとバカにしてた」


久音「いえいえ、私なんか幸せな方かも知れません。私の先輩だって、同じような目に遭ったらしいですからね……」


亜音「私だって、姉さんがあの場にいてくれなかったら、きっと孤児になっていた。

今さらだけど、ありがとう……」



照れくさくて語尾は聞こえないほど小さくなってしまった。ちょっと顔が火照る。


久音「わぁ!ツンデレだぁ〜」

亜音「はぁ!?うるさいわよ!何よそれ!」


久音「うんうん、まあツンデレは可愛いからいいとして、今の亜音さんは“中二病”に気を付けたほうがいいかも知れませんけどね」


腕を組みながら、勝手に理解して納得して頷いている。



亜音「さすがに中二病は無いわ!」


久音「いや〜、エアガン好きってのは問題無いのですが、部屋に結構色々なホルスターとかソッチ系の衣類がありましたよね〜。あれ、絶対に鏡の前で早抜きとか、ジェームズ・ボ◯ドの真似事とかやっていましたよね?」


『うぐぐぅ……』



久音「いいんですよ。誰にでも黒歴史は付き物です。でも度が過ぎると大人になってから後悔することになりますので、ほどほどに」


恥ずい。

確かに、鏡の前でビシッとポーズを付けたり、家族不在の時は、家中のカーテンを閉めて一人スペツナズとかやってた……


あと、PPK持ってたらボ◯ドの真似事は絶対にやるでしょ!やらない方がおかしいわよ!



久音「まあ、自分設定とか作っていなければまだ大丈夫ですよ〜」


一時期考えた事があった……


『私は一見普通の女子中学生だが、実はパラレルワールドから来た暗殺者で、第三次世界大戦を未然に防ぐのが任務なのだ。まだ転移した時のショックで記憶が曖昧なだけ……』



亜音「あああああああああああああ!!!」


久音「え!?大丈夫ですか!?あ、駄目です!銃を口に咥えちゃ!死んじゃいますよ!」



***



久音「私の古い仲間にも色んな過去を持った人がいましたから、気にしないでいいと思います。眼帯とか包帯を意味も無くしていた人とか……」


亜音「……それ聞いて安心したわ。そこまで私の場合は痛くないから」



姉さんが淹れてくれたコーヒーを一杯もらって、少し落ち着いた。



亜音「おいしい……」


久音「あ、嬉しいです。これ、私の先輩に頂いたコーヒー豆なんですよ」


亜音「ホント、情報量が多いわ。これで姉さん以外の人の事も聞くとなったら、学校なんて行ってる場合じゃなさそうね」


久音「まあ、少しずつでいいと思いますよ。そう言えば亜音さんは受験生ですよね?そのへんは大丈夫なんでしょうか?」



亜音「ああ、もう推薦と面接でクリアしてるわ。というか、今の中学がそこの付属校だから、いわゆるエスカレーター式よ」


久音「はぇ~、優秀なんですね」


亜音「普通よ」


2人で無言でコーヒーを飲む。



と、その時、姉さんの持っていたスマホが震えた。

姉さんはすぐに画面をチェックして操作する。


久音「魔術士が結界内に侵入しました!ちょっと待ってて下さいね。行ってきますから」


亜音「いえ、私も行くわ。大丈夫。姉さんの傍を離れないようにするから」



姉さんは困り顔でオロオロしだした。



亜音「もし今分かっているヤツが陽動で、私が一人になるのを待ち構えているヤツがいたらどうすんのよ!」


姉さんは『なるほど』と呟いた。



久音「確かに、それはありえますね。では一緒に行きましょう。大丈夫、絶対に亜音さんは守ってみせますから」

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