第3話 Weapon
2人で1階のリビングに降りる。
リビングには迷彩柄の大きなバッグが2つ置いてあった。ふと、クィンシーがずっと背負っているハードケースが気になった。
亜音「それ、ライフルよね」
クィンシー「あ、はい。こちらは私のメインです」
亜音「見せなさいよ」
クィンシー「え?あ、はい。構いませんよ」
クィンシーはケースのロックを外して開けてみせ
た。
美しいグリーンのウッドストックのボルトアクションライフルだ。
艷やかな杢目のあるストックと、指紋一つない美しいロングバレルに、思わず惹きつけられてしまう。
ベースはM700系のようだが、間違いなくカスタムしてある。バレルがやけに長い。
そこに、見たことのない大型のスコープが括り付けられていた。
クィンシー「あ、スコープは触らないで下さい。ゼロインがめんどくさいので……」
ミリタリー専門誌でも見たことがない。 中華のパチモン…… な、わけなさそうだし。特殊部隊用の試作品とかか?
亜音「これ、メーカーは?倍率も教えてよ」
クィンシー「企業秘密です。というか、知り合い経由で作ってもらった特注品なので、メーカーとかないんですよ。
倍率も厳密には分からなくて…… ただ、有効射程にちょうどいい倍率にしてもらっています」
気になる。ミリオタとして物凄く気になる。
亜音「有効射程距離って、いくつなのよ」
クィンシー「えーと、いちおう4,000mで、コンディション次第で5,000mいけます……」
おい、待て。東京タワーに陣取れば、新宿、渋谷、品川、お台場も狙えるのかよ。長距離射撃の世界記録を大幅に超えてるじゃんか。
亜音「アンタ、一体何者なのよ」
クィンシー「正義の味方です!」
『えっへん』と胸を張ってドヤ顔でこっちを見る。頭は弱そうだ。
本当なのか。それともただのハッタリか……
クィンシー「あ、亜音さんの護身用の銃ですよね。こちらのバッグにいくつか持ってきたのですが……」
先ほどの大きなバッグの1つを引き摺り出し、ファスナーを開けると、ゴロゴロと拳銃が転がり出てきた。
ヤクザ映画は好きだが、もうリアルでは裏社会をとっくに超えているのだと思い知らされた。
クィンシー「これ、結構私の好みに寄っちゃっているんですが、亜音さんの好みに合うようなものがあれば……」
リボルバーばっかりだ。しかも古い。
実用性よりも見た目重視のものばかりだ……
中折式のエンフィールドなんか、現代社会の実戦に通用しないだろう。ム◯カかよ。ギリギリでコルト・キングコブラ4インチか…… パイソンじゃないあたり、相当のマニアだと思う。
クィンシー「あ、キングコブラよりトルーパーの方がステキですよ……」
その基準はなんなんだ。
亜音「オートマチックは無いの?趣味とは別に、実用性で考えたらオートのほうが安心なんだけど」
クィンシーは渋々と、もう1つのバッグを取り出す。
クィンシー「私の趣味じゃないんですけど、先輩に言われて持って来ました。初心者の護身用にいくつか選んでもらって……」
ファスナーを開ける。
グロック、SIG、ベレッタ、S&W、コルト…… なんだ、ひと通りあるじゃないか。
実用性を考えるとグロック19かな。でも実はそんなに趣味じゃない。
亜音「これね」
私は一丁のコンパクトオートを手に取った。
コルト380オートのハーフシルバーモデル。
装弾数7+1発の割と古いモデルだ。何故か知らないが、コイツだけ木製グリップが付いていた。
クィンシー「あ」
亜音「どうしたのよ」
クィンシー「それ、私がちょこっといじったヤツなんです。普通のミリガバと比べると、スゴイかわいいですよね。とくにこのハーフシルバーなんかがオシャレで!」
亜音「アンタの調整済みって事?トリガーフィーリングとか、さっきのM66みたいに滑らかなの?」
クィンシー「はい、いちおう私の好みで調整していますので」
と、5発380acp弾を手渡されたので、そのままマガジンに装填する。
亜音「さっきもそうだったけど、もう撃っちゃってもいいの?」
クィンシー「はい、もうすでにこの街には結界を張っていますので、どこに撃とうが誰も気にしないはずですよ」
急に異世界に飛ばされたみたいな感覚だ。
まあいい、私はマガジンを差し込みスライドを引いて初弾を装填した。道路に面した窓を開けて、道の先に見える横断歩道の標識を狙う。
『パンッ』
見事に、子供の手をつないだ帽子の男の頭部に穴が空いた。シングルアクションとは言え、程よいトリガーのクリック感。ただ軽いだけじゃない。なんて撃ちやすいんだ……
続いて、少し離れた他の道路標識を狙い5発撃ち切った。全弾命中。
クィンシー「すごいです!亜音さん、クィンシーの素質がありますよ!」
この銃の調整が完ぺきなのが一躍買ってるが。
亜音「そもそも、そのクィンシーってなんなのよ。魔術とか正義の味方とか、そもそも私は一般人の女子中学生なのよ。いきなり情報量が多過ぎるわ」
クィンシーは暫く顎に手を添えて難しい顔で考え込んだ。
クィンシー「説明が凄くめんどくさいので、フィーリングで理解して貰えませんか?」
真顔で言った。とんでもないやつだ。
亜音「じゃあ、クィンシーは、悪の組織と戦う正義の味方。で、私を含む間宮家は、その悪の組織に命を狙われている。そんな中で、偶然私の家族の襲撃現場に鉢合わせて、そのまま私を護衛することになった、って感じ?」
クィンシーは『おー』と言って拍手した。
亜音「じゃあさ、取り敢えずクィンシーは私を護衛しつつ、その悪の組織と戦うってことになるんだよね?どこに住むつもり?」
クィンシー「……いちおう駅前のホテルに泊まるつもりなんですけど……」
亜音「私が襲われた時に対応できるの?駅前って、近いとは言えダッシュでも5分はかかるわよ。その間、ハチの巣にされるのは私なんだけど」
クィンシー「……ええと ……どうしましょう」
また泣きそうな顔になる。大丈夫かよ。
亜音「いっそ、うちに泊まり込んだら?
それが一番安全でしょ?魔術でも何でも使って、家族って事にしちゃえば近所の目も誤魔化せるでしょ?」
なんで私がここまで段取って上げてるんだろ……
クィンシーは目をキラキラさせて『いいですね!』とはしゃぐ。
亜音「はぁ〜、じゃあ名前はどうすんの?クィンシー、じゃあ姉妹って言うにはおかしいし、日本語の名前を名乗るべきよね」
クィンシー「……はい、なにかいい案はありませんかね?」
こいつ…… 考える気が全くないな。
亜音「じゃあ久音(くいん)でどう?姉妹っぽいでしょ?」
クィンシーは目を輝かせた。
クィンシー「素敵な名前ですね!では、これからは私は久音と名乗ります!是非ともお姉ちゃんって呼んでください!」
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