安楽椅子傭兵とヤンデレ妖精 

アカアオ

安楽椅子傭兵とヤンデレ妖精 

 「ねぇヤグカ……私の事、好き?」


 金属のこすれる音。

 ふわりと全身を包む生暖かい体温。

 カサカサとなる羽の音。

 異様に乾いた喉。

 耳を溶かす様な声。


 それを全身で感じ取り、俺は確信した。

 あぁ、今は朝なんだなと。


 「おはようベルゼブブ……愛しているよ」

 「えぇ、おはようヤグカ。私も愛しているわ」


 俺の使い魔である妖精ベルゼブブの声が聞こえる。

 それと同時、俺につけられていた目隠しがそっと外される。


 「目隠しと服とおむつの変えを用意してきたから着替えようね」


 土臭い地下室。

 窓一つないここを照らしているのは天井に括り付けたランプだけ。


 この部屋でベルゼブブにお世話される生活を続けてもう何年だろうか?

 もはや実家で過ごした時間よりこの地下で過ごした時間の方が長いだろう。


 「ねぇヤグカ……私ね、確認したいことがあるの」

 

 俺の体を濡れたタオルで拭きながらベルゼブブは質問する。


 「もう、魔法の練習をする気は失せた?」

 「あぁ」

 「じゃぁ、今でも剣を振り回す事にあこがれたりしてない?」

 「あぁ」

 「他の使い魔と契約したいとかは考えてない?」

 「俺が契約するのは生涯お前だけだ……俺はお前だけと契約するテイマーだ」


 最初は復讐の為だった。

 魔族に魔族を殺された力なき少年が無茶してまで力を手に入れて復讐する。

 そんな良くある話だった。


 人生の全てを懸けた。

 復讐が終わった後、自分の体がどうなっても良いとすら思っていた。


 しかし、復讐はたったの3日で終わってしまった。

 復讐が終わった後、俺の心は空っぽだった。


 そんな心にすぅっとベルゼブブの愛が差し込んでいく。

 誰よりも重い愛。

 普通の精神なら、とっくに限界を迎える愛。


 「ヤグカ、今日は何を食べる?」

 「豆のスープが良い。緑色で、どろっとしていて、それで暖かいやつ」


 でも、そんな愛が今の俺が生きる唯一の理由だった。

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安楽椅子傭兵とヤンデレ妖精  アカアオ @siinsen

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