隣の陰キャが世界征服に誘ってきたので参加してみた

くろ

第一章 ハッキングはじめました

第1話

たとえば、電車で君の前に座っている人。

学校で隣の席のやつ。

呑気に街中を歩く人。


そいつの顔をよく見てほしい。

もしかするとそいつが世界の理を握っているかもしれない-。


***


「ごめん。池田さんが彼女と別れた件、原因は俺のせいだ。」


名前も知らないクソ陰キャにそんなことを言われるまで、ことは一ヶ月遡る。


***


2825年 高校2年 12月25日


俺は付き合って2年になる彼女といわゆるデートに行った。


付き合った当時、彼女は大学1年生だった。俺より3つ上のバイト先の先輩で、なんというかこう...。良い体型をしている。


コンビニバイトのユニフォームって、意外とサイズのバリエーションが少ないようで。俺はまじまじと強調されるそれを食い入るように見つめていた。


身長が低いせいで、袖や丈はSサイズでぴったりだ。彼女が言うにも、最初にMサイズを着たときにブカブカだったらしい。


そんなこんなで上半身だけやたら主張の強い着こなしをしていて、俺はいつかボタンがはち切れるのではないかといつも心配だった。


「洋介くん。どこ見てるの?」


ある日、バイトの休憩中に俺は彼女にそんなことを言われてしまったので俺は我に返って首を横に降った。


「すみません。別にそういう…。」


露骨に赤面したせいか、先輩も薄々気がついていたのか、彼女はこの流れで突拍子もないことを口にした。


「洋介くん。わたし今、彼氏ほしいんだ。」


彼女はいたずらっぽく笑った。


「そんな。俺なんかよりいい人が…。」


彼女は遮るように首を横に降った。


「洋介くんみたいな素直でかわいい子、タイプなんだよね。それにバイト頑張ってるし。」


グッと俺の横に近づかれ、俺は身動きがとれなくなる。


「付き合ってよ。」


完全に身体目的だったが、自然と俺は首を縦に振っているのであった。




厳密にはあれから一年間と7ヶ月が経ち、俺たちは健全に付き合っていた。


高校生のうちに卒業したいかくかくしかじかは、彼女が意外とガードが固いせいか、そのような雰囲気には一度もならなかった。俺が高校生ってこともあるし、先輩も気を遣っているのもあるだろう。


もの足りない気もするが、彼女と映画を観たり美味しいものを食べたりと一緒に過ごす時間は好きだった。



だから、夢の国にクリスマスデートに行ったのが最後の思い出になるなんて思いもしなかった。


ちょっと良いレストランに入って、二人でランチをした。


彼女がお手洗いに行くと席を立ったタイミングで、俺はいつも通り会計を済ませようとした。


今思い返せばデートの飯代はいつも俺持ちだったのだが、彼女が美味しそうに食べる姿が好きだったし、恋は盲目という言葉のように気が付けないでいたのだろう。


いつも通りバイトで貯めたお金が入っているクレジットカードを出すと、店員さんは申し訳なさそうにカードを俺に返した。


「申し訳ありません。一時間ほど前からカード類全般ご使用が不可能な状態でして…。」


そうなんだ。


仕方なく現金で支払いを済ませようとしたが、俺の財布の現実に目を疑った。


千円札が一位枚しかない。


これはATMに行って下ろすしかないかと思ってい急いで店を出ようとした瞬間に、不幸にも彼女は戻ってきてしまったのだ。


「洋介くん…?」


逃げるように店を出ていくと思われたに違いない。やってしまった…。


「あー…。」


俺が仕方なく事情を説明すると彼女は納得してくれらしくお昼代は払ってくれた。


だが、店を出た瞬間に彼女は首に下げていたネズミのカチューシャを俺に押し付けた。


「私、お金持ってない人は嫌いなんだ。今までありがとね。」


最初、俺は彼女が何を言っているのか理解できなかった。しかし徐々に小さくなっていく彼女の姿を見て納得した。


俺、フラれたんだ。


あの後俺は、比較的空いている「ディス・イズ・ワールド」みたいなアトラクションを負のオーラを漂わせながらひとりで周遊した。


そうだよな、これが世の中ってもんだよな。


おぼつかない足でひとり家に帰った俺は、ショックでそのまま自分の部屋で寝込んだ。


所詮は金銭目的だったんだな。俺もクズだったとは思うが、かわいい顔して先輩の方がよほど酷かったのは人生の教訓として胸に刻み込んだ。



次の日の午前4時くらいに腹がへって目覚めた俺は、冷蔵庫の中の余り物を取り出して空腹を誤魔化した。


静寂もやけに虚しく感じられ、とりあえずテレビをつけると、ちょうど流れてきたニュースに目と口をかっぴらいて釘付けになる。


「クリスマスに大手銀行を襲ったシステム障害ですが、国際的ハッカー組織『オメガ』が関与している可能性があるとの見解が浮上しています。」


両手をから箸が滑り落ちて、俺の中で憎悪の対象がこだました。


オメガ…。


俺が先輩と別れた原因人災にあったわけか…。そして単純な脳ミソは悪者を退治しようと思い立つ。ハッカー集団なんて、報復を受けて当然だよな。


それにハッカー集団を殲滅せんめつさせることができれる能力があれば、俺はそこそこ腕の立つエンジニアくらいになれるだろう。

エンジニアになれば、お金持ちになる。

お金持ちになれば、先輩を見返せる。


マジカルバナナ形式で俺の目標が思い立ち、俺は即行でパソコンを開くのであった。


パソコン一台で人生変えてやる。っていうか変われ、頼むから!

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