エピローグ:アルカディアの食卓

 災厄竜将との大戦から、数年の月日が流れた。

 俺、アルノ・アードラーが領主を務める自治都市『アルカディア』は、今や大陸で最も豊かで、平和な場所として知られていた。

 エリザの卓越した政治手腕によって国の基盤は盤石となり、ルナが率いる警備隊がその平和を完璧に守っている。

 フィーの一族である白狼族も完全にアルカディアに溶け込み、もふもふの獣人たちと人間が笑顔で共存する、まさに理想郷が実現していた。


 俺は今、自宅のダイニングテーブルで、少し照れくさいような、それでいて幸せな時間を過ごしている。


「アルノさん、あーん」

「もう、ルナったら。アルノ様が困っているでしょう」

「あらあら、二人とも。食事は静かに楽しまないと」


 俺の右にはルナ、左にはフィー、そして向かいにはエリザが座り、賑やかに食卓を囲んでいる。

 俺が追放された日には、想像もできなかった光景だ。

 いつの間にか、俺はこの三人と、家族同然……いや、それ以上の関係になっていた。

 誰か一人を選ぶなんて、俺にはできそうにない。

 そして幸いなことに、彼女たちもこの関係を受け入れてくれているようだった。


 庭では、すっかり大きくなったシロが、村の子供たちを背中に乗せて、優しく遊んであげている。

 その姿は、伝説の聖獣というよりは、気のいい大きな犬のようだ。


 今夜の食卓には、フィーが腕によりをかけて作った、白狼族の郷土料理と、アルカディアで採れた新鮮な野菜のサラダ、そしてルナが焼いた香ばしいパンが並んでいる。

 何気ない会話。

 仲間たちの笑顔。

 美味しい料理。

 俺は、万物を見通す鑑定士として、期せずして世界を救う一助となった。

 そして今、この手の中には、世界そのものよりも価値のある、かけがえのない家族と、最高のスローライフがある。


 窓から差し込む月明かりが、俺たちの食卓を優しく照らしていた。

 俺の人生は、追放から始まったかもしれない。

 だが、あの日は決して不幸の始まりではなかった。

 最高の幸せに続く、始まりの一日だったのだ。

 物語は、温かな光の中で、穏やかに幕を閉じる。

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無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!? 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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