第20話:決別と、新しい世界
戦いは終わった。
災厄竜将を失った魔王軍は、蜘蛛の子を散らすように敗走していった。
王国の兵士たちは、『アルカディア』の名を讃え、勝利の雄叫びを上げていた。
俺は仲間たちのもとに駆け寄り、互いの無事を確かめ合う。
その光景は、温かい信頼に満ちていた。
その時、瓦礫の中から、よろよろとレイドが姿を現した。
セラフィナとグレンも、彼に肩を貸している。
レイドは、俺たちの前にまで来ると、突然、その場に膝から崩れ落ちた。
「……アルノ」
彼は、泥と血にまみれた顔を上げ、涙を流していた。
「俺が……俺が、間違っていた……。お前の力は、ゴミなんかじゃなかった。お前こそが、本物の英雄だ……」
彼の口から出たのは、紛れもない本心からの謝罪だった。
プライドの高い彼が、土下座までしている。
「頼む……アルノ。もう一度、俺たちを仲間に入れてくれ……! もう一度、お前の力で、俺を……俺たちを、勇者にしてくれ……!」
それは、あまりに身勝手で、情けない懇願だった。
セラフィナとグレンも、何も言えず、ただ俯いている。
もし、これが追放された直後の俺だったら、少しは心が揺らいだかもしれない。
だが、今の俺には、守るべきものがある。
かけがえのない仲間たちがいる。
俺の居場所は、もうここにあるのだ。
俺は、ひざまずくレイドを、冷たく一瞥した。
そこには、同情も、憐みも、怒りすらもなかった。
ただ、無関心があるだけだった。
「……もう君たちと俺の道が、交わることはない」
俺は、たった一言、そう告げた。
その言葉は、どんな罵倒よりも、レイドの心を深く抉っただろう。
「そん……な……」
絶望に顔を歪める彼らに、俺は背を向けた。
そして、心配そうにこちらを見守るルナ、フィー、エリザ、そしてシロのもとへと、ゆっくりと歩いていく。
「帰りましょう、アルノさん。みんなが待ってます」
ルナが、俺の手にそっと触れた。
「アルノ様、お疲れ様でした。夕食は腕を振るいますね」
フィーが、優しく微笑む。
「見事な采配だったわ、アルノ。これで、当分はこの国も平和ね」
エリザが、誇らしげに言う。
シロが、俺の足に頭をすり寄せてきた。
そうだ、これが俺の世界だ。
俺が手に入れた、本当の居場所だ。
俺は、かつての仲間たちを振り返ることなく、新しい仲間たちと共に、未来へと歩き出す。
ちょうどその時、東の空から朝日が昇り始めた。
戦火の傷跡を優しく照らし出し、新しい時代の始まりを告げるかのように、世界はまばゆい光に満ちていた。
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