第18話:王都の危機と、再会

『アルカディア』が結成されてから半年。

 俺たちは領地の運営と冒険者稼業を両立させ、数々の難事件を解決していた。

 俺たちの名声は不動のものとなり、人々からは「理想郷の守護者」と呼ばれるようになっていた。


 そんなある日、王都から緊急の救援要請が舞い込んだ。

 魔王軍の最高幹部の一人、『災厄竜将』バハムートが、突如として大軍を率いて王国南方の最重要拠点である『鷲ノ巣砦』に侵攻してきたというのだ。

 王国の精鋭騎士団と、ギルドに残っていたSランク、Aランクのパーティが総出で迎撃したが、竜将の圧倒的な力の前に、戦線は崩壊寸前。

 このままでは砦が陥落し、王都への道が開かれてしまう。

 国王は、最後の切り札として、俺たち『アルカディア』に救援を要請してきたのだった。


「行くぞ。俺たちの楽園を脅かす者は、誰であろうと許さない」


 俺たちはシロの背に乗り、空を駆けて戦場へと急行した。

 眼下に広がるのは、まさに地獄絵図だった。

 燃え盛る砦、無数にひしめく魔物の軍勢、そして、それらに蹂躙される王国軍の兵士たち。

 その中心で、漆黒の巨大な竜人が、業火のブレスを吐き散らしていた。

 あれが『災厄竜将』か。


「まずは、雑魚を一掃する!」


 俺の指示で、仲間たちが動く。

 ルナの矢は雨のように降り注ぎ、魔物の指揮官クラスを次々と射抜いていく。

 フィーは地上に降り立ち、白狼族の部隊を率いて、嵐のように戦場を駆け巡り、魔物の群れを切り裂く。

 エリザは上空から広範囲の支援魔法を放ち、味方の士気を高め、敵の動きを的確に阻害する。

 俺たちの介入で、混乱していた戦況は、明らかに好転し始めた。


 そして、俺は砦の崩れた壁際で、必死に戦う兵士たちの中に、信じられない顔ぶれを見つけた。

 ボロボロの鎧を身につけ、生気のない目で剣を振るうレイド。

 もはや聖女の面影はなく、ただの衛生兵のように負傷者の手当てに追われるセラフィナ。

 杖を頼りになんとか立っているだけの、憔悴しきったグレン。

 彼らは、パーティ解散後、日々の糧を得るために、傭兵としてかき集められた兵の中にいたのだ。


「……レイド!」


 俺が思わずその名を呼ぶと、彼ははっとしたように顔を上げた。

 そして、空を飛ぶシロの背に乗り、仲間を指揮する俺の姿を認め、驚愕と、そして屈辱に顔を歪ませた。


「……アルノ……! なぜ、お前が、そんなところに……!」


 彼らが、かつて自分たちが立っていたはずの「英雄」の立ち位置に、自分たちが捨てた男が立っている。

 その事実が、彼の壊れかけたプライドを再び刺激した。

 その時、災厄竜将が、俺たちの存在に気づき、こちらに敵意を向けた。


「ほう……。面白い余興だ。貴様らが、噂の『アルカディア』か。ここでまとめて始末してくれるわ!」


 竜将が、俺たちに向かって巨大な爪を振り上げた。

 その絶望的な光景を前に、レイドが何を思ったのか、叫び声を上げた。


「俺が……俺が、勇者だ! こんなところで、お前に手柄をくれてやるものか!」


 彼は、再会した俺の前で、過去の栄光を取り戻そうとでもいうように、無謀にも、一人で竜将へと突撃していった。

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