第17話:崩壊する太陽

『アルカディア』の伝説的な活躍の噂は、当然、Aランクに降格した『太陽の剣』のメンバーの耳にも届いていた。

 彼らが根城にしていた安酒場。

 そこには、見る影もなく落ちぶれた三人の姿があった。


「……聞いたか。『アルカディア』とかいう新しいパーティが、『嘆きの迷宮』を半日で攻略したそうだ」


 賢者グレンが、生気のない目で呟く。


「ええ、聞いたわ。そのリーダーが、アルノ……なんでしょ」


 聖女セラフィナは、テーブルに突っ伏したまま、力なく応えた。

 その美しい顔には、もはや慈愛の光はなく、深い隈が刻まれている。

 リーダーであるはずの勇者レイドは、何も答えず、ただひたすらに安酒を呷っていた。

 彼の金髪は輝きを失い、自慢だった体も少しだらしなくなっている。


 アルノが築いた『辺境の楽園』の噂だけでも、彼らのプライドはズタズタだった。

 それに追い打ちをかけるように、今度は冒険者として、自分たちが決して届かなかった領域に、アルノが到達したというニュース。

 それは、彼らの心を完全にへし折るには十分すぎた。

 心に渦巻くのは、アルノへのどす黒い嫉妬。

 そして、自分たちの愚かな選択に対する、どうしようもない後悔だけ。


「……なんで、あいつが……」


 レイドが、絞り出すように言った。


「俺は勇者だぞ……! 神に選ばれた、特別な存在のはずだ……! なのに、なんであんなゴミスキルの男に、俺が……!」

「ゴミスキル、ね……」


 セラフィナが、冷たく笑った。


「本当にそうかしら? ゴミだったのは、彼の価値を見抜けなかった私たちの方じゃないの?」

「なっ……セラフィナ、お前!」

「だってそうでしょう!? あなたが脳筋で突っ込んでいくのを、彼がどれだけフォローしていたか! グレンの魔法が安定していたのも、私の回復が間に合っていたのも、全部彼の補助があったからじゃない! それに気づかず、彼を追い出したのは誰!?」

「うるさい! 俺だけのせいじゃないだろう! お前たちも賛成したじゃないか!」

「あなたの横暴を止められなかったのは悪かったわ! でも、もううんざり! あなたについていっても、未来なんてない!」


 ついに、溜まりに溜まった不満が爆発した。

 仲間割れは、もはや日常茶飯事だったが、この日の口論は決定的なものだった。


「僕ももう限界だ。責任をなすりつけ合うのは、もうやめにしよう。……いや、そもそも、このパーティにいる意味が、もうない」


 グレンが静かに立ち上がる。


「グレン、お前、まさか……」

「僕は抜ける。一人で研究にでも没頭した方が、まだ有意義だ」


 そう言って、グレンは荷物をまとめ、一度も振り返らずに酒場を出て行った。


「あっ……待って、グレン! 私も行くわ!」


 セラフィナも、レイドに見切りをつけたように、グレンの後を追って出て行ってしまった。

 一人、酒場に残されたレイド。

 仲間は去り、栄光も、称号も失った。

 手元に残ったのは、中身の減った酒瓶と、虚しさだけ。


「……なんで、こうなったんだ……」


 ぽつりと呟いた彼の言葉に、答える者は誰もいない。

 かつて大陸最強と謳われた勇者パーティ『太陽の剣』は、その日、誰に看取られることもなく、静かに解散した。

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