第15話:新パーティ結成、その名は『アルカディア』

 ミモザ村の統治者としての俺、アルノ・アードラーの名声は、悪徳代官の断罪という一件を経て、ついに国王の耳にまで明確に届くことになった。

 先日、王都から正式な使者が訪れ、国王からの親書が手渡された。

 そこには、俺の功績を称え、ミモザ村を中心とした一帯の土地を、俺の自治領として正式に認めるという旨が記されていた。

 つまり、俺は一介の村のリーダーから、一角の領主になったのだ。

 スローライフを求めてやってきたはずが、随分と大事になってしまった。

 だが、この村と、ここに住む仲間たちを守るためには、この立場はむしろ好都合だった。


 領主としての最初の仕事は、組織作りだ。


「――というわけで、エリザには、俺の補佐官として、この領地の内政全般を任せたい」


 俺の家の広間に、仲間たちを集めて俺は告げた。


「お任せください、アルノ様。必ずや、大陸一豊かな土地にしてみせます」


 エリザは、自信に満ちた笑みで応じる。


「ルナとフィーには、この領地の平和を守る、護衛隊の隊長をそれぞれお願いしたい。ルナは警備の要となる弓兵部隊を、フィーは緊急時に動く精鋭部隊を率いてほしい」

「はいっ! アルノさんの領地は、私が守ります!」

「アルノ様のため、この身命を賭して」


 二人も、力強くうなずいてくれた。

 シロは、俺の足元で嬉しそうに尻尾を振っている。

 君は、俺の専属護衛だな。


 領地の基盤は、これで固まった。

 だが、俺たちにはもう一つ、やるべきことがある。

 俺たちの力は、この領地の中だけで完結させるべきではない。

 世の中には、理不尽な苦しみに喘いでいる人々が、まだたくさんいるはずだ。

 かつてのルナやフィーのように。

 俺たちの力は、そういう人たちのためにこそ、使うべきだ。


「みんな、聞いてほしい。俺は、もう一度冒険者パーティを作ろうと思う」


 俺の言葉に、三人は顔を見合わせた。


「もちろん、領主としての仕事が第一だ。だが、俺たちの原点は、困っている人を助けることにあるはずだ。この領地を拠点に、俺たちの手でしか解決できないような事件に挑んでいきたいんだ」


 俺の思いに、真っ先に賛同してくれたのはルナだった。


「いいですね、それ! アルノさんとまた冒険ができるなんて、最高です!」


 フィーも、エリザも、異論はないようだった。


「アルノ様の行くところなら、どこへでも」

「ふふ、合理的だわ。領地の安全は、領外の脅威を取り除くことにも繋がる。私も賛成よ。パーティとして動けば、より大きな問題を解決できる」


 仲間たちの同意を得て、俺は宣言した。


「よし、決まりだ! 新しいパーティを結成する!」

「パーティ名はどうしますか?」とルナが尋ねる。


 俺は、この愛すべき領地の未来に想いを馳せながら、答えた。

 誰もが笑って暮らせる、理想郷。

 その名を、俺たちのパーティに冠しよう。


「パーティ名は、『アルカディア』だ」


 理想郷の名を冠したパーティは、後日、ザイオンの冒険者ギルドに正式に登録された。

 メンバーは、鑑定士兼リーダーのアルノ、弓使いのルナ、槍使いのフィー、そして魔法剣士(ということになっている)エリザの四人と一匹。

 ギルドマスターは、俺が引退を撤回し、謎の美女たちを引き連れて現れたことに腰を抜かさんばかりに驚いていたが、その話はまた別の機会に。

 こうして、伝説となるパーティ『アルカディア』が、静かに産声を上げたのだった。

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