第14話:ざまぁ、そして墜ちた英雄

『太陽の剣』の凋落は、誰の目にも明らかだった。

 度重なるクエストの失敗。

 ダンジョン攻略中に仲間割れを起こし、命からがら逃げ帰ってくることもしばしば。

 ギルド内での彼らを見る目は、かつての尊敬から、今や侮蔑と憐みに変わっていた。

 Sランクの称号も、もはや風前の灯火。

 彼らは起死回生を狙い、無謀にも高難易度として知られるドラゴンゾンビの討伐クエストに挑んだ。


「レイド! 後ろ!」

「うるさい! わかっている!」


 戦場には、怒号と悲鳴が飛び交っていた。

 しかし、それはかつてのような、勝利への咆哮ではない。

 焦りと不信が渦巻く、不協和音だった。

 レイドは自慢の聖剣を構え、ドラゴンゾンビに斬りかかる。

 しかし、

 ――キンッ!

 甲高い音を立て、聖剣はドラゴンゾンビの腐った骨に弾かれた。

 聖剣が放つ神聖な輝きは、以前よりも明らかに弱々しくなっていた。


「なっ……なぜだ!? 俺の聖剣が……!」


 レイドが愕然とする。

 アルノによる日々のメンテナンスを失った聖剣は、その本来の力を発揮できなくなっていたのだ。

 それはまるで、主であるレイドたちの現状を象徴しているかのようだった。


 その一瞬の隙が、命取りとなった。

 ドラゴンゾンビが吐き出した猛毒のブレスが、パーティを直撃する。


「ぐわああああっ!」

「きゃあああっ!」


 聖女セラフィナの張った防御結界は、アルノが選んだ触媒がないため威力が足りず、いとも簡単に打ち破られた。

 賢者グレンも詠唱が間に合わず、吹き飛ばされる。

 パーティは半壊。

 クエストはもちろん失敗。

 命があっただけ、幸運だった。


 ギルドに戻った彼らを待っていたのは、ギルドマスターからの非情な通告だった。


「――以上を以て、本日付でパーティ『太陽の剣』のSランク認定を取り消す。Aランクへの降格を命ずる」

「そ、そんな……!」


 レイドが絶句する。

 ギルド最強の証であったSランクの称号。

 それが、自分たちの手から滑り落ちていく。


「不服か? ならば問うが、貴様たちがアルノ・アードラーを追放して以降、成し遂げた成果は何かあるか? 失敗、仲間割れ、そして今回の醜態。これ以上、ギルドの看板に泥を塗るのはやめてもらいたい」


 ギルドマスターの言葉は、正論だった。

 ぐうの音も出ない。


 彼らは、ようやく気づいた。

 気づかされてしまった。

 失ったものが、ただの「ゴミスキル」を持つ鑑定士ではなかったことに。

 罠を避け、敵の弱点を的確に見抜き、装備を最高の状態に保ち、魔法の効果を最大限に引き出す。

 アルノの存在こそが、このパーティの生命線そのものであったのだと。

 自分たちがSランクでいられたのは、自分たちの力が優れていたからではない。

 アルノという、最高のサポーターがいてくれたからなのだと。


「……アルノは、今頃どうしているんだ」


 誰かが、ぽつりと呟いた。

 その名前は、もはや彼らにとって禁句のようになっていた。

 すると、ギルドの掲示板を見ていた他の冒険者が、噂話をするのが聞こえてきた。


「おい、聞いたか? 最近話題の『辺境の楽園』ミモザ村の話だよ」

「ああ、知ってるぜ! どんな病も治す温泉と、黄金の芋で大儲けしてるらしいな! なんでも、その村を作り上げたのが、アルノって名前の若い男らしいぞ!」

「え!? あのアルノって、まさか元『太陽の剣』の……?」


 その会話を聞いた瞬間、レイドたちの顔から表情が消えた。

 自分たちが追放した男が、自分たちが転落していく一方で、楽園を築き、英雄として讃えられている。

 その事実は、どんな強力な魔法よりも、彼らの心を深く、深く抉った。

 後悔するには、あまりにも遅すぎた。

 彼らの栄光の時代は、完全に終わりを告げたのだ。

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