第13話:鮮やかな逆転劇と、王女の告白
三日後。
予告通り、代官バルトロが武装した騎士数名と、悪徳商会主モーガンを引き連れてミモザ村に乗り込んできた。
「この村の統治者はアルノ・アードラーと聞いている! 出てこい!」
バルトロは、村の広場に集まった村人たちを威圧するように叫んだ。
そこへ、俺はエリザ、ルナ、フィー、そしてシロを伴って、悠然と姿を現す。
「お呼びでしょうか、代官様」
「ふん、貴様がアルノか。単刀直入に言おう! この村は、温泉の利用税、及び特産品に関する税を不当に滞納している! よって、過去三年分に遡り、追徴課税として金貨五千枚を即刻納めてもらう! 払えないのなら、この村のすべてを差し押さえる!」
バルトロが、事前に用意していたであろう言い分を高らかに告げる。
村人たちの間に、不安と動揺が広がった。
金貨五千枚など、今の村でもすぐに用意できる額ではない。
しかし、俺は落ち着き払っていた。
俺の隣に立つエリザが一歩前に出る。
「お待ちください、代官様。その要求には、いくつか法的な問題点がございます」
傭兵の姿をしているが、その凛とした声と佇まいは、まるで法廷に立つ弁護士のようだ。
「まず第一に、ミモザ村の温泉とゴールデンポテトによる収益が発生したのは、ここ三ヶ月以内のこと。三年分遡っての課税には、根拠がありません」
「な、なにを……!」
「第二に、辺境の未開拓地における新規事業に関しては、王国の法律により、最初の二年間は免税措置が適用されると定められております。あなた様が徴収しようとしている税は、存在しないものです」
エリザは、俺が事前に鑑定で調べ上げた王国の法律を完璧に暗記し、澱みなく突きつけていく。
バルトロの顔が、みるみるうちに青ざめていった。
「こ、こしゃくな女め! 法がどうだろうと、この地の統治者である俺の命令は絶対だ! 逆らうというなら、力ずくでも徴収するまで!」
追い詰められたバルトロが、騎士たちに命令を下そうとした、その時だった。
「力ずく、ですか。それは脅迫罪にあたりますね。それに、代官様。あなたにそんな権限があるのでしょうか?」
エリザが冷ややかに笑い、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
「これは、あなたが『黒蛇商会』から多額の借金をしている証拠の借用書の写しです。商会のモーガン殿に脅され、便宜を図らされているのではありませんか?」
「なっ、なぜお前がそれを!?」
「さらに、モーガン殿。あなたが扱っている数々の密輸品の取引帳簿、あなたの屋敷の隠し金庫にありますね。確か、解除番号は奥様の誕生日だったかと。これもすでに、王都の騎士団に通報済みです」
モーガンは、血の気が引いた顔でへなへなと座り込んだ。
すべての不正の証拠は、俺の【万物鑑定】によって完全に握られていた。
エリザの知略と弁舌が、彼らの逃げ道を完璧に塞いでいく。
「もはや、これまでか……! ええい、こうなれば、この村をめちゃくちゃにしてくれるわ!」
逆上した騎士の一人が剣を抜き、俺に襲い掛かってきた。
しかし、その剣が俺に届くことはない。
ルナが放った矢が騎士の手甲を弾き、フィーが振るった槍の石突が鳩尾にめり込み、気絶させる。
そして、巨大化したシロの威圧的な咆哮が、残りの騎士たちの戦意を完全に喪失させた。
陰謀は、完膚なきまでに打ち砕かれた。
その夜。
一件落着を祝して、俺の家ではささやかな宴が開かれていた。
宴が落ち着いた頃、エリザが俺を月明かりが差し込む庭へと誘った。
「アルノ。今日はお見事だった」
「君のおかげだ。ありがとう、エリザ」
しばらくの沈黙の後、エリザは意を決したように口を開いた。
「……君に、話しておかなければならないことがある。私の本当の名は、エリザベート・フォン・アルトリア。数年前に滅びた、アルトリア王国の最後の王女だ」
彼女は自らの正体を、静かに、しかしはっきりと告白した。
「国を追われ、力を求め、一人で生きてきた。だが、この村に来て、君を見て、考えが変わった。富でも、力でもない。人々が笑顔で暮らせる場所……それこそが、本当に価値のあるものなのだと」
エリザは、俺の目を真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、いつものクールな光ではなく、熱い決意が宿っている。
「アルノ・アードラー。私は、あなたの作る国が見たい。どうか、この私を、あなたの右腕として使ってほしい。私の知略のすべてを、あなたのために捧げることを誓おう」
彼女は、王女として、騎士のように片膝をついて忠誠を誓った。
俺は彼女の手を取り、優しく立ち上がらせる。
「顔を上げてくれ、エリザ。君はもう、一人じゃない。ようこそ、俺の最高の仲間へ」
エルフの弓使い、白狼族の槍使い、伝説の聖獣、そして亡国の王女にして最高の知恵者。
ここに、後に大陸の歴史を塗り替えることになる、最強のパーティの原型が完成した。
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