第5話:神弓と、村の再生計画
「呪いを……解いてくれる、ですか?」
ルナは信じられないといった表情で俺を見つめる。
無理もないだろう。
出会ったばかりの男が、いきなり呪いを解くなどと言い出したのだから。
「ああ。この弓の呪いを解くには、『月光草』という薬草が必要らしい。この辺りに生えているはずだ。一緒に探そう」
俺は【万物鑑定】で、すでにこの森の生態系と薬草の分布を把握していた。
月光草が群生している場所は、ここから歩いて三十分ほどの、小さな泉のほとりだ。
俺の自信に満ちた態度に、ルナは半信半疑ながらもこくりとうなずいた。
道中、俺は彼女から詳しい話を聞いた。
ルナは故郷の森を出て、冒険者として生計を立てようとしていたらしい。
しかし、この呪いの弓のせいでクエストは失敗続き。
所持金も底をつき、途方に暮れていたところだったという。
「もし、本当に呪いが解けたら……アルノさんは、私の命の恩人です」
「大げさだな」
そんな会話を交わしているうちに、俺たちは目的の場所にたどり着いた。
泉のほとりには、月の光を浴びて青白く輝く、神秘的な草が群生している。
「これが、月光草……!」
ルナが感嘆の声を上げる。
俺は葉に溜まった夜露を丁寧に集めると、彼女から受け取った呪いの弓に、ゆっくりと塗り込んでいった。
すると、どうだろう。
弓から立ち上っていた禍々しいオーラが、まるで霧が晴れるように消えていく。
そして、弓全体がまばゆい光を放ち始めた。
光が収まった時、そこに現れたのは、先程とは比べ物にならないほど神々しい輝きを放つ弓だった。
黒ずんでいた木の部分は白銀に、くすんでいた宝石は星のように煌めいている。
【星霜の神弓】
【効果:装備者の集中力を極限まで高め、放たれた矢に自動追尾(ホーミング)能力を付与する。魔力を込めれば、矢の威力を増幅させることも可能】
「すごい……これが、この弓の本当の姿……」
ルナは呆然としながら、生まれ変わった弓を手に取る。
その手には、まるで最初からそうだったかのように、しっくりと馴染んでいた。
「試してみるといい」
俺が促すと、ルナはこくりとうなずき、近くの木の枝に止まっていた小鳥――の、さらにその先の、小さな木の葉を狙って矢をつがえた。
ひゅん、と静かな弦音と共に放たれた矢は、美しい光の尾を引きながら、寸分の狂いもなくその葉の中心を射抜いた。
「……当たった」
信じられない、というように目を見開くルナ。
彼女は次々と矢を放つ。
一本はS字を描いて木の裏側に回り込み、もう一本は急上昇してから落下し、地面の小石を正確に弾き飛ばした。
百発百中。
いや、もはや神業と呼ぶべき領域だ。
「すごい……すごい! 私の力が、全部……!」
涙を浮かべて喜ぶルナ。
彼女は振り返ると、俺に向かって勢いよく頭を下げた。
「アルノさん! 本当に、本当にありがとうございます! この御恩は一生忘れません! どうか、私をあなたの旅に同行させてください! この力、あなたのために使いたいです!」
その瞳には、尊敬と、そして明確な好意の色が宿っていた。
真っ直ぐな彼女の申し出を、俺は断る理由もなかった。
「わかった。よろしくな、ルナ」
「はいっ!」
太陽のような笑顔を浮かべるルナ。
こうして、俺の旅に最初の仲間が加わった。
二人でミモザ村を目指して数日。
ようやくたどり着いたその村は、俺が鑑定で見た通り、活気がなく、寂れた場所だった。
家々は古びて所々壊れており、道行く村人たちの表情も暗い。
畑は痩せ細り、作物は元気に育っていなかった。
しかし、俺の【万物鑑定】は、この村に秘められた輝かしい未来を映し出していた。
【ミモザ村:土地の評価D。潜在的価値S+】
【地下30メートル:高品質なアルカリ性単純温泉の源泉あり。神経痛、筋肉痛、美肌効果が期待できる】
【土壌:マグネシウムが欠乏しているが、リン酸とカリウムが豊富。特殊な栄養素を求める『ゴールデンポテト』の栽培に最適。ゴールデンポテトは貴族の間で高値で取引される高級食材】
「ルナ。この村は、生まれ変わるぞ」
「え?」
きょとんとするルナに、俺は自信満々に微笑んだ。
温泉と、特産品。
村を再生させるための計画は、すでに俺の頭の中に完璧に出来上がっていた。
俺のスローライフの拠点とするには、最高の場所になりそうだ。
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