第4話:呪われたエルフとの出会い
商業都市ザイオンを出発し、ミモザ村へと続く街道をのんびりと歩いていた。
春の柔らかな日差しが心地よく、鳥のさえずりが耳に優しい。
追放されたばかりだというのに、俺の心は驚くほど晴れやかだった。
『太陽の剣』にいた頃は、常に時間に追われ、こんな風に景色を楽しむ余裕などなかった。
これが自由か、と噛み締めていると、前方から金属がぶつかる甲高い音と、少女の悲鳴が聞こえてきた。
「きゃあっ!」
「グギギ……オンナ、ウマソウ……」
森の中から現れたのは、醜悪な緑色の肌をしたゴブリンの群れ。
その数、十体以上。
そして、彼らに囲まれて必死に応戦しているのは、一人のエルフの少女だった。
長い銀髪をポニーテールにし、緑を基調とした軽装に身を包んでいる。
手には美しい装飾が施された弓。
しかし、彼女の放つ矢は、ことごとく明後日の方向に飛んでいき、ゴブリンの体に当たる気配がなかった。
「くっ……なんで、当たらないの……!」
少女は悔しそうに唇を噛む。
本来なら、エルフの弓使いにとってゴブリンなど敵ではないはず。
それなのに、彼女は明らかに苦戦していた。
じりじりと追い詰められ、ついにゴブリンの一体に腕を掴まれてしまう。
絶体絶命。その時だった。
「――そこまでだ」
俺は少女とゴブリンたちの間に割って入る。
「グギッ? ニンゲン、ジャマスルナ!」
ゴブリンの一体が、錆びた剣を振りかざして襲い掛かってきた。
俺は冷静に相手を【万物鑑定】する。
【ゴブリン:筋力12、敏捷15。攻撃パターンは単純な振り下ろしのみ。右足の重心移動が甘い】
すべてお見通しだ。
俺は最小限の動きで攻撃をひらりとかわし、すれ違いざまに腰に差していたただのナイフで、ゴブリンの首筋を的確に切り裂いた。
一撃で絶命した仲間の姿に、他のゴブリンたちが怯む。
俺はその隙を逃さず、懐から取り出した魔力結晶の原石に魔力を込めた。
「光よ」
先日のシャドウパンサー戦で使ったのと同じ、簡易的な光魔法。
しかし、ゴブリンのような闇を好む魔物には効果てきめんだ。
強烈な閃光にゴブリンたちは目を焼かれ、苦しみもがく。
「今です! 弓で!」
俺の声に、エルフの少女ははっと我に返り、矢をつがえる。
しかし、やはりその矢は狙いを大きく外れ、近くの木の幹に突き刺さった。
「だ、だめ……やっぱり……」
仕方ない。
俺はため息をつき、今度は足元の石ころを数個拾い上げると、怯んでいるゴブリンたちの額に、寸分違わぬ精度で投げつけた。
ゴッ、ゴッ、と鈍い音が響き、ゴブリンたちは次々と地面に崩れ落ちていく。
あっという間に、十数体の群れは無力化されていた。
「あ、あの……助けていただき、ありがとうございます……。私、ルナと申します」
少女は深々と頭を下げた。
震える声には、安堵と、自分の不甲斐なさに対する悔しさが滲んでいる。
「俺はアルノだ。怪我はないか?」
「は、はい……。でも、すみません、足手まといになってしまって……。本当なら、私一人で……」
うつむく彼女の視線の先にある、美しい弓。
なぜ、エルフである彼女の矢が当たらなかったのか。
俺は、その弓に鑑定の視線を向けた。
そして、そこに浮かび上がった文字に、思わず目を見開く。
【呪怨の弓】
【効果:装備者の命中率を著しく下げる呪いがかかっている。矢を放つたびに、狙いとは逆の方向に軌道が強制的に補正される】
【備考:古代の邪悪な魔術師によって作られた呪いの装備。見た目の美しさで装備者を欺く】
「……なるほどな」
俺はルナに尋ねた。
「その弓、手に入れてから調子がおかしいんじゃないか?」
「えっ!? なんでそれを……。はい、そうなんです。父の形見の弓が壊れてしまって、最近これを買ったんですけど、それから全く矢が当たらなくなって……」
やはりそうか。
彼女は呪いの装備とは知らずに、これを使っていたのだ。
「少し、その弓を見せてくれないか?」
「は、はい……」
ルナから弓を受け取り、俺はさらに鑑定を深める。
ただ呪われているだけではないはずだ。
どんな物にも、その成り立ちや解除法が隠されている。
【呪い解除条件:聖なる力を持つ『月光草』の夜露で弓全体を清めること】
【真名解放:呪いが解かれた時、この弓は本来の姿『星霜の神弓』としての力を取り戻す】
「……!」
衝撃の事実。
これはただの呪われた弓ではなかった。
本来は、とてつもない力を秘めた伝説級の武器だったのだ。
俺は顔を上げ、不安そうにこちらを見つめるルナに、にっこりと微笑みかけた。
「大丈夫だ。その呪い、俺が解いてやる」
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