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「じゃあ、入ろっか?」
外壁のガラスの部分に可愛らしいデザインの文字やイラストが施された、一軒の介護施設の前に到着した。私は、葵ちゃんと理恵ちゃんにうまくいく自信があると見せるために、威勢よくここまで来たけれども、電話で問い合わせた先には怒った口調のところもあったし、こっぴどく𠮟られたりするんじゃないかと不安になってきていた。
でも、今さら泣き言なんて口にできない。移動中と変わらぬ堂々とした態度で受付に向かい、そこの職員であろう人に話しかけた。
「すみません。私たちデビューを控えたアイドルグループなんですが、こちらのお年寄りの方々に楽しんでいただきたいと思いまして、歌を歌って差し上げたいのですけれども、いかがでしょうか?」
「……」
目の前にいる、ユニフォームに違いない紺色のポロシャツを着た、細身でメガネをかけた中年の女性は、「あなたはいったい何を言っているの?」といった、ぽかんとした顔をしている。
「あの……」
「少々お待ちください」
女性は、私の言葉を遮り、席を外して、奥に引っ込んだ。
ちょっとして、立場が上なのだろう、頭の大部分は白髪でスーツ姿の、年配の男性が、さっきの女の人とともにやってきた。
「なーに、歌を歌ってあげたい? いいよ、そんなの」
手を横に振って拒否するのを示しながら、そうしゃべった。腹を立てたりなどはしていない様子だ。
「ですが……」
「プッシュすれば、あるいは」と考え、私は声を発しかけた。
「お嬢ちゃん、介護施設は忙しいんだよ。あなたは高校生? もうそれくらいのことはわかる年齢でしょう?」
それ以上食い下がると怒るよといった雰囲気を、その男の人は醸しだした。
「はい……。すみませんでした」
メンバーの二人に「やっぱり駄目じゃん」と思われていそうで、建物から出てすぐに、私は彼女たちに言った。
「じゃあ、別の施設に行こう」
そして、返事を聞かず、さっさと歩きだした。
「あ、はーい」
後ろから理恵ちゃんの声が聞こえた。
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