第二十二話 留守番の問題

結局、依頼を引き受けることになった。

私は朝から荷物をまとめながら、どうにも落ち着かない気持ちでいた。


「……でも、冒険者ギルドで護衛を雇えばよかったんじゃ」


そう提案してみたが、ロンデールは首を振った。


「できる限り口外は避けたい。それに、信用できるかもわからん。

だからこそアリシア殿に頼みたいのだ」


「なるほど……」


確かに正論ではある。

となれば、ハマーさんやミレーネさんに頼むのも現実的じゃない。


「だが戦えぬお主たちを危険にさらすわけにはいかん」


ロンデールは私とサリィがついてくることに一度は難色を示した。


けれど、サリィが「行商人一行としてカモフラージュすれば安全に見えるでしょ?」と笑顔で言ったことで、最終的に納得したようだ。


(……私たちだって巻き込まれる可能性があるのに、姉さん軽いなぁ……)


私は胸の奥がまたキリキリしてきて、思わずため息をついた。



支度を終えて、サリィとアリシアと合流する。


私は宿屋の制服を脱ぎ、動きやすい旅装に着替えていた。

落ち着いた色のチュニックに革のベルト、そして膝までの丈夫なブーツ。


一方、サリィは。


「旅はオシャレも大事よね」


とばかりに胸元が大胆に開いた軽装。


「……その格好、本当に旅をする気あります!?」

思わずツッコミを入れる私。


そしてアリシアは、制服ではなくシンプルな冒険者風の服に。

白いブラウスに黒のズボン、動きやすいブーツ姿。

眼帯は変わらないけれど、長身で凛々しい姿にどこか大人びた雰囲気が漂っていた。


「わ、私……似合ってますか?」


思わず私は声を漏らしていた。


「か、かっこい〜」


恥ずかしそうに頬を染めるアリシアに、私もサリィも思わず見入ってしまった。



「で、結局、宿はどうするんですか」


私の問いに、サリィが胸を張って答えた。


「ハマーさんとミレーネさんが店番引き受けてくれるって!」


「ええっ!?」


その声と同時に、扉が開き──


エプロン姿のハマーさんとミレーネさんが現れた。


「詳しい事情はわからんが……この宿には世話になっているからな」


「私のペットたちも手伝ってくれるから大丈夫よ〜♪」


肩に乗るモモも「キュルッ♪」と可愛らしい鳴き声で返事をする。


ミレーネの隣には──。

お掃除スライムが床をぴかぴかに磨き、二人がかりの小妖精がシーツを運び、

ちびインプが料理をよちよちと運んでいる。


「え、衛生面大丈夫!? 絶対不安しかない!!」


「わあ、かわいい〜!」

サリィが早速スライムを撫でようとして、ぬるりとした感触に手を引っ込めた。


「ひゃんっ、なにこれ気持ちいい♪」


その横で。

ちびインプがスープを運ぶ最中、お掃除スライムの磨いた床で足を滑らせかけた。

どうにか踏ん張り、スープを盛大に揺らしながらもテーブルに到着する。


……心臓に悪い光景だ。


胸を押さえて座り込みそうになる私をよそに、

サリィは「スリル満点で楽しいじゃない」とケラケラ笑っていた。


とはいえ、他に頼める人なんていないのも事実だ。


「……すみません。一週間のあいだ、よろしくお願いします」


そう頭を下げると、ハマーさんとミレーネさんは笑顔で頷いてくれた。



荷物を背負い、宿の前に立つ。

見慣れたリングベルを後にするのは、妙に胸がざわつく。


(嫌な予感しかしない……でも、もう進むしかない)


不安で胃がきゅうっと縮む。

けれど隣を見ると、サリィは「楽しみね!」と無駄にテンションが高く、アリシアは緊張で表情を硬くしていた。


三人それぞれの思いを胸に、私たちはロンデールとエリヴァス殿下を護衛し、

一週間の旅路へと踏み出した。

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