第二十二話 留守番の問題
結局、依頼を引き受けることになった。
私は朝から荷物をまとめながら、どうにも落ち着かない気持ちでいた。
「……でも、冒険者ギルドで護衛を雇えばよかったんじゃ」
そう提案してみたが、ロンデールは首を振った。
「できる限り口外は避けたい。それに、信用できるかもわからん。
だからこそアリシア殿に頼みたいのだ」
「なるほど……」
確かに正論ではある。
となれば、ハマーさんやミレーネさんに頼むのも現実的じゃない。
「だが戦えぬお主たちを危険にさらすわけにはいかん」
ロンデールは私とサリィがついてくることに一度は難色を示した。
けれど、サリィが「行商人一行としてカモフラージュすれば安全に見えるでしょ?」と笑顔で言ったことで、最終的に納得したようだ。
(……私たちだって巻き込まれる可能性があるのに、姉さん軽いなぁ……)
私は胸の奥がまたキリキリしてきて、思わずため息をついた。
◇
支度を終えて、サリィとアリシアと合流する。
私は宿屋の制服を脱ぎ、動きやすい旅装に着替えていた。
落ち着いた色のチュニックに革のベルト、そして膝までの丈夫なブーツ。
一方、サリィは。
「旅はオシャレも大事よね」
とばかりに胸元が大胆に開いた軽装。
「……その格好、本当に旅をする気あります!?」
思わずツッコミを入れる私。
そしてアリシアは、制服ではなくシンプルな冒険者風の服に。
白いブラウスに黒のズボン、動きやすいブーツ姿。
眼帯は変わらないけれど、長身で凛々しい姿にどこか大人びた雰囲気が漂っていた。
「わ、私……似合ってますか?」
思わず私は声を漏らしていた。
「か、かっこい〜」
恥ずかしそうに頬を染めるアリシアに、私もサリィも思わず見入ってしまった。
◇
「で、結局、宿はどうするんですか」
私の問いに、サリィが胸を張って答えた。
「ハマーさんとミレーネさんが店番引き受けてくれるって!」
「ええっ!?」
その声と同時に、扉が開き──
エプロン姿のハマーさんとミレーネさんが現れた。
「詳しい事情はわからんが……この宿には世話になっているからな」
「私のペットたちも手伝ってくれるから大丈夫よ〜♪」
肩に乗るモモも「キュルッ♪」と可愛らしい鳴き声で返事をする。
ミレーネの隣には──。
お掃除スライムが床をぴかぴかに磨き、二人がかりの小妖精がシーツを運び、
ちびインプが料理をよちよちと運んでいる。
「え、衛生面大丈夫!? 絶対不安しかない!!」
「わあ、かわいい〜!」
サリィが早速スライムを撫でようとして、ぬるりとした感触に手を引っ込めた。
「ひゃんっ、なにこれ気持ちいい♪」
その横で。
ちびインプがスープを運ぶ最中、お掃除スライムの磨いた床で足を滑らせかけた。
どうにか踏ん張り、スープを盛大に揺らしながらもテーブルに到着する。
……心臓に悪い光景だ。
胸を押さえて座り込みそうになる私をよそに、
サリィは「スリル満点で楽しいじゃない」とケラケラ笑っていた。
とはいえ、他に頼める人なんていないのも事実だ。
「……すみません。一週間のあいだ、よろしくお願いします」
そう頭を下げると、ハマーさんとミレーネさんは笑顔で頷いてくれた。
◇
荷物を背負い、宿の前に立つ。
見慣れたリングベルを後にするのは、妙に胸がざわつく。
(嫌な予感しかしない……でも、もう進むしかない)
不安で胃がきゅうっと縮む。
けれど隣を見ると、サリィは「楽しみね!」と無駄にテンションが高く、アリシアは緊張で表情を硬くしていた。
三人それぞれの思いを胸に、私たちはロンデールとエリヴァス殿下を護衛し、
一週間の旅路へと踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます