第2話 魔王キキョウ

 撫で心地満点の黒く艶やかな猫っ毛のショートヘア。

 本気で抱きしめると折れてしまうのではないかと思えるほど華奢な体躯。

 きめの細かい小麦色のなめらかな肌に纏うのは、マイクロビキニも真っ青な、色とりどりの宝石をちりばめた、際どい踊り子の衣装。

 腰にはエスニック柄の色鮮やかなパレオを巻き、靴は履かず素足のままだ。

 そして一番目を引くのは、まるで夜の海のようなアイオライトの瞳。

 じっと見つめてると引き込まれそうな、危うい美しさがある。

 そんなどこを見ても、触っても最高なクロは、ちょっとエッチないい匂いのするジト目系美少女だ。もちろんクンクンしても最高である。


 クロが千年もの間、私の転生を待っていたという事は、見た目通りの娘ではないのだろう。でもこの子が私のモノって……家族にしてもいいって事?

 キョウカの言葉を思い出し、少々いかがわしい気分になりかけるも、ふいに家族の事を思い出し、胸の奥がギュッとなった。


 思わずクロをギュッと抱きしめる。


「クロ……ちゃん……私とずっと一緒に居てくれる?」

「はい、ずっとずっと一緒に居りますよ。私はあなたのものですから」


 一見、無口キャラな雰囲気のクロが再び私の唇を塞いだ。

 初めて聞いたはずのクロの声は、涼し気なのに暖かく、とても懐かしい……


「おやおや、まだ続いてたのかい。ヒッヒッ若いっていいねぇ」


 うわ~気付いたら結構なお時間イチャコラしてたわ。お恥ずかしい。

 


「キキョウ陛下、おかえりなさい。ご転生おめでとうございます!」


 周囲に目配せして、照れくさそうにピンク髪の巨乳さんが祝福してくれた。


「ちょっ、全員で言うんじゃなかったの?」

「ヒッヒッヒッ」


 どうやら担がれたらしく、顔を真っ赤にする巨乳さん。

 みんな笑顔で、とても家庭的な感じがして、なんか妙に懐かしい。

 ともかく、まずみんなで簡単な自己紹介をする事にした。


 一人目。とても小柄で、超ロリ声なのにお婆さんっぽい笑い方をするのは、宰相のハイベル。魔法使いのローブ姿で顔は見えないけど、宇宙鉄道の車掌さんのような目がフードの奥に見え、ただ者じゃない感がすごい。種族名を訊ねたが、笑ってはぐらかされたわ。


 二人目。ロリ巨乳のヴァルバロッテ。

 この国の将軍で、紅の勇者という二つ名持ち。尖った耳とだっちゃ口調が似合いそうな双角、桃色から紅色へとグラデーションするロングヘアが非常に美しい小柄な美少女だ。

 父がエルフ族、母が鬼人族という珍しいハーフエルフで、属性てんこ盛りすぎる。

 なんかヒロイン感がすごいんですけど。そして私への視線が妙に熱い? 


 なんだろう。相手の視線から感情を薄っすら感じる。何ぞこれ。

 

 三人目。頭頂の短角に青のロン毛で長身の美青年は、ソウイチ。

 文官のトップで、この人が国家運営の要。彼も勇者だけど戦闘は苦手らしい。

 とても苦労してそうなオーラが出ている気がする。ちゃんと睡眠とってる?


 四人目は、この場を優雅に素早く整え、香り立つお茶とお菓子を用意してくれたメイドさん。灰と黒のシックなメイド服が似合う総メイド長、人族のマリーメイ。

 城に四百人以上いる“城メイド”のトップで、ソウイチの奥さん。

 しかも勇者メイド。


 キョウカも勇者だと言ってたが、ここに三人もいる。

 この世界って勇者が何人いるのだろうか。


 独り言で軽くツッコミ入れたら、すかさずクロが答えてくれた。


「この世界の勇者の数ですが、現在およそ五百人ですね」

「は……?」


 私は一旦考えるのをやめて周囲を見渡した。

 素人目に見ても明らかに高級な西洋風の部屋と調度品。

 美しい装飾の格子窓の先には、自然豊かな風景が広がっている。

 ここ、お城の中じゃないのかな……転移してきた時見た城の周囲は街だったのに。


 などと考えながら深呼吸し、にこやかに会話を続けた。 


「ツノのある人を初めて見ましたよ。私の生まれ育った世界は、人間ばかりでしたから」

「あのぅ……今は陛下にもツノ、ありますよ?」

「ええっ!?」


 ヴァルバロッテの指摘に、私は彼女と同じツノの位置を両手で押さえた「ない」

 次にソウイチと同じ頭頂を左手で押さえる「ない」

 そしてオデコと頭頂の間付近を右手で触ると「あった」

 なんと、私にも十センチ程の立派なツノが一本生えていた。


「うはぁ~私も鬼人族だったのね」


 全員に笑われた。


「そういえばこの体、キョウカの体だものね」


 今思えば魂同士が交差するとき、確かにキョウカの頭にルビーのようなツノがあった。ような気がする。


「いいえ、キキョウ様は元々鬼人族ですよ。そのお体も間違いなくキキョウ様のものです。キョウカとあなたは瓜二つですが、魂が乗り移ったとき魔力が変質し、髪や瞳が前世と全く同じ色になりましたから」

「じゃあ、あっちの世界に行ったキョウカも?」

「あちらのキキョウ様の体も、キョウカの魂に合わせ最適化してるはずです」

「よかった……なら無事だよね。あれ、私の髪……」


 あれ、今気付いた。私の髪……真っ白になってる。


「ねぇ鏡あるかな」「どうぞ」


 クロはまるで初めから用意していたかのように、さっと金の装飾が施された卓上鏡をテーブルにコトリと置いた。

 

「うわぁ……この顔、私だわ……髪は白いし、瞳も紫色だけど、間違いなく私だわ。ツノが紫水晶で出来てるみたいに綺麗……髪がすごく長いのは嬉しいな、入院中は面倒だから切っちゃってたの」

 

 腰まであるシルクのような艶やかな白い髪に私は心躍った。

 うわ、口の中が紫色だ。ひょっとして私の血液って紫色?

「む……」両乳房を下から掴んで、ぽゆんと持ち上げ、揉んでみる。


「おっぱいのサイズも同じだわ……いや、こっちの方が健康的な弾力があるわね」


 ぽゆん、ぽゆんぽゆんぽゆん。

 ソウイチがサッと視線を逸らした。紳士だわ。奥さんは「遅い!」と睨んでるけど、男だものそのくらいゆるしたれ。ちなみにヴァルバロッテの胸の方がふた回りは大きい……あとで触らせてほしい。一緒にお風呂入りたい。


 体を確認しながら気付いたのだけれど、何よこの衣装……

 それは胸が強調されたハイレグ風の白いぴっちりスーツだった。

 所々に施された紫の飾り模様が白地にとても映えて美しい。

 そして色々と際どい付近が透けている。

 肩を露出させたショール風のマント。太もも半ばまであるロングブーツ……そう、例えるならこれは悪の組織の女幹部? 黒くしたらきっとそんな感じだろう。


「クロちゃん? この服だけど、キョウカのだよね?」

「いえ、それは魔装という神より賜った衣装です。魂が乗り移った時に服も変化しましたよ。前世のものに似てますが、色は黒から白へと変わりましたね。キキョウ様にとてもお似合いです」

 

 まるでブティックの店員みたいにニコニコと説明してくれるクロに、この服を変更できないかと訊ねたが、答えは否だった。なんでも武器の神様が個人の資質に合わせて選んだもので、返品不可なのだという。でもこれ絶対に男達の視線くぎ付けだよ。ちなみにキョウカの魔装は紅白のぴっちりスーツらしい。めでたそうな色ね。というか、武器の神様って絶対に男神だと思う。


 あれ。そういえば私、まだ自己紹介してない。


 冷えた緑茶を淹れ直してもらい、お茶請けのお饅頭をひとくち、ふたくち。これ高級店の上品な味がする。そんなお饅頭を食べながら、私のこれまでの病弱人生の事、亡くなった家族の事を語った。すると「亡くなったご家族の為にも、絶対幸せになりましょう!」みんな真顔で激励してくれた。うん、是非そうなりたいものです。


 二つ目のお饅頭に手を伸ばしながら、先程の話題でとても気になる事を質問してみた。

 勇者と魔王の事だ。

 私の知る物語の勇者は、魔を成す魔王を討伐するもの。

 しかし、ここでは魔王の配下に勇者が何人もいる。

 しかも勇者の総数五百人とかメチャ多いし、じゃあ魔王の数は?

 それと私の事。私が魔王だと言われても全く自覚も実感もない。

 何かすごい力持ってるのだろうか。するとその疑問にクロが答えてくれた。


「ほかの世界の勇者と魔王がどのような関係なのかは知りませんが、この世界の勇者のうち、強い者は政者の手駒です。そして弱い者は、平民以下の暮らしをする者も多いです」


 え、なにそれ。


「勇者ランキングというものがありまして、上位百五十名までランキングに表示されます。ランク一桁の勇者ともなると、巨城を一撃で粉砕しますよ。ちなみにヴァルバロッテは現在ランキング一位です。褒めてあげてください」


 私が目を輝かせ「すごいね、頑張ったのね」そう褒めてあげると「キョウカの方が強いです」謙遜しながら、可愛らしく赤面した。

 ちなみに「勇者ランキング」そう念じるように唱えると若干の魔力を消費して、誰でも閲覧できるのだ。

 私も唱えてみると、目の前にリストがずらぁっと現れた。

 参加は任意なので、世俗を嫌い隠遁する強者もいるらしい。


「キョウカってそんなに強いの?」

「はい、世界最強と謳われた前世のあなたよりも強いですよ。魔王のフリをさせてたのでランキングには参加してませんが、あの子は私とも互角に殺しあえる規格外の化け物です」

「マジか……それで、そんな強いクロちゃんって何者なの?」


 クロが私の右腕にぺったりと寄り掛かり、息遣いを感じるほど顔を近づけながら正体を告げた。


「龍王リヴァイアサンです」


「ええと……リヴァイアサンって、確か津波で攻撃しちゃう海龍の?」

「前世の記憶はないとの事ですが、よくご存じですね」

「うん、あっちの世界では神話なんかに登場するから」

「ほほう。私の同族が異世界にも存在するのですね」


 興味深げに目を細めるクロ。

 確か聖書にも出てくるようだけど、私が知るのは主にゲームね。

 この世界の龍王は神。現在四柱おり、畏怖や崇拝の対象だという。

 ちなみにクロの正体を知る者は、この国だと目の前の四人とメイド数人、この国で暮らす古株の勇者。そして昔、私と共にバハムートと戦った仲間の勇者や魔王だけらしい。


 そんな畏怖の対象であるクロが、現在私にぺったり引っ付いてくる。

 今更、彼女が神とか言われても、私の態度は変わらない。

 転移後、いきなりディープキスしてくる神なんているか。

 むしろいい匂いすぎて困るわ。


 次に魔王の話をしてもらった。

 この世界の魔王は、魔を成す王ではなく、神の力を借りて国家を成す王らしい。


「魔王に民が忠誠を誓い、服従する事で国家が成立します。しかし、忠誠を得るのは簡単ではありません」

「うん、そうだろうね」

「そこで魔王は、忠誠を誓った民に加護を与える事ができます」

「加護?」

「はい、例えば長寿の加護なら民の寿命が一割ほど延び、治癒の加護なら怪我の治りが早くなる。魅力ある加護を与える事ができれば、民はおのずと増えてゆくでしょう」

「なるほど、国民にも大きなメリットがあるのね。じゃあ服従を誓う国民は、魔王に逆らえないの?」

「文字通り民は、魔王の命令に従事する事になりますが、絶対服従ではなく、命令を拒否できます。ただし代償に加護と国籍を失います。逆に言うと、魔王も非道な命令を繰り返せば、おのずと民は離れ、国家を維持できなくなるのです。実際そのような魔王が過去におり、最後は勇者に討伐されてます」

「ほほう……」

「つまり国民を良いエサで集めて、生かさず殺さずの匙加減の見極めが大切なのです」

「そこは、魔王と国民、持ちつ持たれつが大切って言おうよ」


 私が想像してた悪の権化みたいな魔王は、この世界では成立しないようだ。

 いや、国民以外に魔を成せばいいのか。しないけど。

 むしろ普通の国の方が重税や重労役など、非道な国家運営をしているという。

 後日知る事になるが、この世界は圧政を敷く国の方が圧倒的に多い。ちなみに郷魔国は税率も低く、他と比べると天国だという。近年、重税から逃げてきた難民の流入かなり増えているらしい。


「ねぇ、勇者はすごく強いって話だったけど、魔王は? 前世の私はかなり強いみたいな話があったけれど、今の私はそんな実感が全然ないんだよね」


 もう酷い発熱も息切れもしないし、健康になったという自覚がある。

 でも戦闘力と言われてもピンとこない。例えば、この部屋の壁にパンチで穴を開けられるようなイメージは沸かない。

 両掌をわきわきさせながら、首をかしげる私。


「キキョウ様は間違いなくお強いはずですよ。前世では魔導双剣士でしたが、今世はかなりお強い魔導師だと思います。平均的な魔導師勇者の何倍もの魔力を感じますから。ちなみに魔王の証はそのツノが突き出てる髪飾りですね」


 それは目付きが鋭い竜の顔を模した精悍なデザインのティアラだった。

 ミスリダイトと呼ばれる白金に近い魔法合金で出来ているという。


「これがそうなのね。魔力って事は……私、魔法使えるのかな」

「はい、そのはずです。では確認してみましょうか」




 ◇――◇――◇

 読んでくださり、ありがとうございます。(キキョウ)

 ああ、クロちゃん可愛い。猫っ毛の手触りも、体の匂いも最高!

 あ……えーと、まだしばらく物語に大きな動きはないので、もうしばらく読み進めてもらえると、嬉しいです。

 ちょ、始まったばかりで、こういうコメってどうなの。

 序盤だから色々話すとネタバレになる?

 じゃあ、クロちゃん可愛いっ! って続ければいいのね?

 もうね、アイオライトの瞳が素晴らしく良いのよぉ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る