第2話 授業の邪魔をしないで!蟹沢さん!!

入学式と蟹缶工場強盗事件があった日から数日経った。

蟹沢さんの僕に対する態度は、日に日に砕けたものになっていた。


そんなある日、僕は前の席に座る蟹沢さんの授業妨害に悩まされることになった。



いつもどおり、右側に身を乗り出して黒板を見ようとすると…、


ザサッ―


蟹沢さんが右側の3本の脚を広げる。


「ちょ!蟹沢さんっ!邪魔しないでよ!!」


他のクラスメートに聞かれないくらいの声で抗議した。

蟹沢さんはクスクス笑っているのだろう…、背中が小刻みに上下していた。



退屈な授業に飽き飽きして、僕は肘をついて窓の外のグラウンドを眺めていた。

すると何故か視線を感じた。

先生が僕を見ているのかと思ったが、彼は黒板に板書している。

ふと斜め上方に視線を向けると、蟹沢さんの頭から生えた触手のようなものの先端についた目が、僕を見てニヤついていた。

蟹沢さんの蟹の目は真後ろを向くことができるようだ。

ニヤつき具合から、きっと蟹沢さんは良からぬことを考えているのだろう…。



やがて僕は睡魔に襲われることになった。

きっと僕の頭は上下に揺れていたのだろう。


すると…


パシッ!


「ドプフォッ!」


僕は小さな断末魔を上げた。

蟹沢さんの脚で殴られたのだった。

急に奇声を発した僕にクラスメートたちが注目した。

蟹沢さんは背中を小刻みに上下させていた…。


授業後の休み時間、僕は蟹沢さんに猛烈な抗議をした。


「蟹沢さん!蟹の脚で殴らないでよ!打ちどころが悪かったら僕、死んじゃうよ!!」


「大丈ー夫だって!私、昨日脱皮したばっかだから、まだ脚は柔らかいはずだよー。」


「柔らかいならいっか…、とはならないからね、蟹沢さんっ!!」


「ははw」



昼休みは蟹沢さんと一緒に昼食をとった。

蟹沢さんは、いつもデザートとして“かにぱん”を食べている。


「蟹沢さんって、かにぱん好きだよね?」


「カニパーンチ!」


「コポォ!」


カニチョップを受けた僕は、本日2度目の小さな断末魔を上げた。


「なんでいきなり殴るんだよっ!!」


「大丈ー夫だって!まだハサミも柔らかいはずだよー。」


「だからそれは理由にならないでしょ!!」


「ふふw」



放課後、僕は蟹沢さんと一緒に帰路についた。

途中まで僕の家と蟹沢さんの寮までの道が同じだった、というのも理由の一つだった。

クラスの女子たちが、午後に体育の授業で行われた100メートル走のタイムについて、蟹沢さんがすごかったと騒いでいたので、僕はそのことを話題に上げようと思っていた。

しかし、前方に蟹沢さんと同じようなシルエットが2つ見えると、


「おーい!」


と蟹沢さんは蟹高生と思われる2人組に声をかけ、駆け寄ってしまった。


「げっ!蟹沢っちじゃん!」


後ろを振り向いた2人組のひとりがそういった…。

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