第ニ話 混乱と出会い
_09時57分 南ルーエ平原・メミユ町_
その少女は遺跡を出て歩くこと数十分、とある町へと辿り着いた。
「...腹が減ったな...」
目覚めてから歩いてばかりだったがその道中何も食べていない。道端の草に手を出そうかとも考えたが、通りすがりの兎が草を食べて痙攣したかと思うといきなり倒れたのを見てしまい、止めた。
それどころか服以外何も持っておらず、その服服でさえすべてナイロン、ローファーも合皮。食えたもんじゃない。
一方、町はというとびっくりするぐらい賑わっていた。
しかし服は皆...なんだろう...どこか古風で、おそらく動物性の皮を使った物であった。中には剣や弓矢など、物騒な物を持っている人もいる。
当然、こんなセーラーふくを着ている人はない。
出店も出ているが、見たことのない食品や道具がおいてあり、値札は数字こそ読めるものの、知らない単位が続けられていた。
何もかもが違う世界にきてしまったようだ。
しかしそれでも、何とか生き延びなければならない。
そのためにはまずは食と住、さらにそのための金銭問題を解決しなければ。
・・・・・・
「この服売るかぁ...」
道行く人の何人かは私の服を物珍しそうに見てくるし、ある程度の値は行っていいだろう。
シャツとかスカートはまずいが、最悪下着がなくてもこの身体だ。別にどうってことはない。
とりあえず適当な店に押し入り売りつけよう。
丁度そこに青と黄色の看板で本を持っているのに本を売ってなさそうな店がある。
よし、行こう。
店に入りレジらしき所へと直行する。
「あーすみません、買取をお願いしたいんですが...」
声をかけたその時、ある一つの懸念がよぎった。
(...言葉通じるかな...)
これだけ文化が違うんだ。言葉も違っている可能性が高い。
現に店先の看板や掲示板(らしきもの)の文字は読めなかった。
気を張らねば。
「あーっと、服、買取、お願いしたい。」
何とか身振り手振りと単語で頑張ってみる。
が、店員は呆けた顔をしている。
ダメみたいだ。
ならば売りたいものを明確に示そう。
と、下着を取ろうとした。
するといきなり店員が慌てだした。
「チョッ...お客様!?何をしてるんでかこんなとこで!?」
「あれっ...言葉通じてる?」
「...そりゃわかりますよ。てか普通にしゃべれるじゃないですか」
「あ、そうなんだ。ならこの服売りたいんだけど...」
「公衆の面前で脱ぎだす奴があるか」
言葉が通じるとわかった店員とは、その後も更衣室だの衛生面だの女子がなんだの性差別だので激しい口論を交わした。
丁度話が金に困ってるというところに差し掛かったタイミングで、横から何やらエスニックな青年が割って入ってきた。
「えーっと、何か困りごと?俺で良ければ、何か手伝うけど...」
「いやあのこの子がね、金がないから服を売りたいって聞かなくて...」
店員はこういうが、私は反論する。
「頼るアテもなく、この服以外何も持ってないんだ。早く買い取ってくれ。私は腹が減ってるんだ。」
「いやだから脱いだ直後の服は色々とマズイって言ってるでしょ...」
「とまあこの感じで、さっきから話が進まない。わかってほしいのだがな...」
「分からず屋はあんたの方だろ!非常識にも程がある!」
私たちのやり取りを聞いたエスニック青年は少し悩むそぶりを見せ...ることもなく直ぐに懐から巾着袋を出した。
その中身をごそごそしているかと思うと、
「アテがないって言うんだったら、俺がそのアテになるよ。名前は?」
「ありがとう。本当に助かった。名前は...」
そういえば名前...ああ、思い出した。
「
私は名前と共に手を差し出した。
エスニックはニッとした笑顔で私の手を取り、こう名乗った。
「ヒノエ・ルーア。よろしく!」
_10時10分 国立総合兵団資料室_
シンとオルは、魔族対策課に必要なものを資料室から運び出していた。
「いやー悪いね。何せできて直ぐなものでな。設備も何も準備できてない。こうして少しずつ揃えていくしかなくてな」
「いえ、お構いなく...これぐらいしかっ...できないので」
シンは顔辺りまである書類の束に手間取っていた。
「にしてもこれ、何の資料なんです?魔女の事件と言ったって、まだ1ヶ月ほどしか経ってませんし...」
「ああ、これか。これらは全て過去の戦争の記録、ひいては武器や戦術に関わる物だ。」
「我が国の戦闘技術、ということですか。何のために?」
「魔女への対抗策が無い今、いきなりゼロから考えるというのは無謀だ。そこで、
過去の戦争の中に、何かヒントがあるんじゃないかと思ってな。この国は昔軍事国家だったから、相当な数の記録が残っているはずだ」
「このために記録を取っていたのですか?」
「...いや。本来ならば、もうこれ以上戦争の無いよう、戒めとして
「...」
シンは少しの間葛藤した。愛する人を奪う者、人を殺す者、そのような悪人は殺しても良いのだろうか?
戦後、我々人間は、”戦いは憎しみしか産まない”、”人と人はわかり合うべきだ”という教訓を得た。
では”人間以外”ではどうだろうか。
今、我々人間は魔女を分かり合えるはずもない種族として撃退することを目指している。自分もそうだ。だからこそこの場にいる。
それは果たして正しいことなのだろうか。
しかし、答えは意外に早く出た。
「それでも、これ以上犠牲者を出さないために戦うべきです。」
「...ああ。私も同じ答えだ」
二人は頷き合い、その魔女から人間を守るべき場所、国立総合兵団魔女対策課に向かった。
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