羽鐘司令は作品をこう読んでいる【宇喜杉ともこ氏の作品】


【まず最初に】


 話の進行をする羽鐘司令の言葉は「」、スマホ少尉の言葉は『』で表示します。


 ――――――――――


 第十八回

 作戦名 :羽鐘司令は作品をこう読んでいる

 支援作品:十の豆を口にする喜び

 作品著者:宇喜杉ともこ



 羽鐘は、シガレットチョコを咥えながら、じっとモニターを見ている。

 眉間に皺を寄せ、深く考えているように見えているが、それは老眼の影響であることをスマホは知っている。


『司令、何を読んでいるんですか?』

「今回は、誰得情報ではあるが、普段、私がどうやって作品と向き合っているかを知ってもらおうと思ってね。そのための作品を募ったところ、この作品の提供を受けたんだ」

『オムニバスの短編集ですね』

「そのなかの『先輩の言うことは絶対』という作品を読んでいく。普段はネタバレはしないようにしているが、今回は別だ」

『タイトルが不穏です。先輩の言うことが絶対ならば、私は司令に逆らえなくなります。そんなの真っ平ごめんです。いっそ水没したほうがマシです』

「普段から敬意なんて感じたことないからもう気にしてないよ……」

 スマホからの尊敬を諦めている羽鐘は、力なく笑った。


『まず最初のシーンですが、先輩は主人公に対して、動物を指差して、あれは何かと聞いてますね』

「白い毛皮、長い耳、そのため『うさぎ』だと答えるが、先輩は『猫』だと返す。先輩の言うことは絶対、と言ってな。先輩とは六年振りの再会なのだが、先輩風を吹かすのは変わらないようだ」

『その後、場所の質問をされて『アマゾン』とひねった答えをした主人公でしたが、先輩から真面目な回答を返されましたね』

「この辺りはやはり主導権が先輩になっているな。主人公がボケても真面目に答えても柔軟に対応できそうだ」

 そう言いながら、羽鐘はするりをスクロールさせていく。


『次のシーンでは二人の思い出のある小学校に幽霊を見に行きますね』

「廃校になっていて、幽霊が出るようだが、やはりそんなことはなく、幽霊は見当たらない。しかし、不思議なことがある」

『階段の途中にある鏡に、先輩の姿が映らなかったんですよね』

「再度確認したら映ったが、不穏だな。その後、屋上に到達する。曇天で雨になる予報だが、先輩が『晴れる』と言ったら、本当に晴れてしまったな」

『この辺りもまさに、先輩の言うことは絶対、ですね。人生そのものが雨模様でジメジメした司令とは大違いですね』

「どうせジメジメしてますよ……」

 スマホの何気ない一言だったが、羽鐘の心を的確に抉った。


『そして、最後のシーン。別れの言葉を告げ、昇降口まで戻ったところで、主人公は最後に先輩に声をかけようとしますね』

「だが、先輩の姿は消えていた。ここで物語は終わるわけだ」

『結局、先輩が幽霊だった……というわけですね』

 スマホが感心したように呟いた。


「私はこの物語を、まずは最初から最後まで流すように読んだ。ここで私は引っ掛かることがあるかどうかを確認する。誤字脱字や二重表記などがあれば目が引っ掛かる。ちなみに、この作品にはなかったよ」

『内容は読まないんですか?』

「いや、もちろん読んでる。流しで読んだ後に最初に戻り、次は印象の違いを確認する。意外と気付くんだよ、その物語の気になる点に」

『例えばどんな?』

「最初に猫の話が出たね。最初はこの表現に『先輩は変なこと言うな』という印象を受けて、続いて校舎内に猫に追われた動物がいる描写があることで先輩の猫発言はずれてないのかな? と思わせるが、最後の結末を知っていると、この描写すら幽霊となった先輩が仕向けた『先輩の言うことが絶対』を表していることがわかる」

『でも、先輩は、別れの前の話で『幽霊はいなかった』といったことを話してます。これは辻褄が合わないのでは?』

「いや、そんなことない。主人公は先輩という幽霊に合っているが、先輩は別の幽霊には合ってないし、自分を幽霊と認識していなければ、話としては成立するよ」

『なるほど……』

 スマホは若干釈然としないところがあったが、羽鐘の言う通りだと思うことにした。


「私はこのエピソード、とても楽しく読んだ。読後感が良いからだ。ちょっとした不気味さがあるのに先輩のキャラのおかげで怖くはない。無駄な表現はないが想像を膨らませる余地がある。私は、こんな感じで、その言葉を選んだ意味や行間、余白を見つけながら読むのが好きなんだ」

『その点で言えばこの作品は?』

「面白い。少なくとも私は面白く感じた。それでいいんだ。作品が発表されたら読者の反応に任せる。そして作者は読者の反応を楽しむ特権を得る。批評は加えず、読者は感じたままを作者に伝えてほしいと私は思う」

『読者にとって理解しづらい作品の場合もですか?』

「黙っててもいいと思うし、一言、私にはわかりづらかった、でもいい。批評じゃなければ反応があったほうが作者は喜ぶよ」

 羽鐘の眼差しは真剣かつ作品への想いに溢れていた。


『最後に、ずいぶんと批評するなと言っていますが、何故ですか?』

「基本的に読者は趣味で読んでいる。中には様々なジャンルを選り好みすることなく読んでいる人もいるだろうが、大抵の場合偏りがある。しかし、作者はその読者の読書量がわからないし好みもわからない。なので、その批評の価値がわからないんだ」

『つまり、読書にはたくさん読んだ自負があってしたコメントであっても、作者に伝わりづらいということでしょうか?』

「そのとおり。背景の見えない読者の批評で作者が困惑してはいけない。作品の軸がぶれる可能性があるからね。そのため、作者から信頼してもらって批評をお願いされる場合を除き、批評はやはりプロに委ねるべきなんだ」

『司令にしてはもっともな意見で締めるのは釈然としませんが、仕方ありません。今回の企画に応じてくれた作者様のためにも支援砲の準備をします』

「よろしく頼む」


 羽鐘は、ずいぶんと語ってしまったと恥ずかしさを覚えながらも、作品を支援するため、応援ハートの一斉射撃を令した。

 無事に作品が支援されることを祈りながら。



 次回予告

 作戦名 :眼鏡とタブレットがあれば世界は救える

 支援作品:描線眼鏡 または師匠の異常な情熱

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