第3話 僕だけの秘密、君との共犯
七瀬遙の言葉が、僕の思考をフリーズさせた。
「昨日、私が読んでいた本のページ、変わってたよ」
時間が止まっていた間に、僕が彼女の机のメモ帳を動かした。彼女はそれを見ていなかったはずなのに、なぜ知っている?
「...どういう、こと?」
僕が絞り出すようにそう尋ねると、七瀬は首を傾げた。
「どういうことって……そのままの意味だけど。昨日、本を置いて教室を出たとき、そこは24ページだった。でも、今日見たら、25ページになってた」
彼女の表情は至って真剣だ。嘘をついているようには見えない。
「もしかして、誰かがイタズラでもしたのかな?」
イタズラ?いや、違う。僕が時間を止めている間に、あのページをめくったのは僕だ。
「誰も……何もしていないよ」
七瀬はまっすぐ僕の目を見た。その瞳は、何かを試すように、あるいは何かを待つように、静かに揺れていた。
「じゃあ、やっぱり、あなたがめくったんじゃないの?」
心臓がドクリと大きく鳴った。
僕の能力は、誰にも知られていないはずなのに。
「……なんで、そう思うんだ」
「だって、あなたが、時々動いているから」
彼女の言葉に、僕は息を飲んだ。周囲に誰もいない放課後の廊下。僕たち二人だけの秘密。
「嘘だ。君だって、時間が止まっているはずだ」
「嘘じゃない。みんなが止まっている中で、あなたが動き回っているの、見えてるよ」
僕は全てを理解した。彼女は本当に、僕が見えている。そして、僕が「時間を止める能力」を持っていることも、薄々感づいている。
逃げることはできない。これ以上、誤魔化すことも。
僕はため息をつき、静かに言った。
「わかった。……認める。僕には、時間を止める力がある。そして、その力が、君にだけは効かない。これが、僕たちの秘密だ」
七瀬は、微笑んだ。それは、クラスの隅でいつも静かに本を読んでいる彼女からは想像もできないほど、柔らかく、解放されたような笑顔だった。
「やっと言ってくれた。これで、共犯だね」
共犯。その言葉が、僕の心を妙に温かくした。僕の秘密を知る、世界でたった一人の人間。
「で、共犯者はどうするんだ?僕が時間を止めている間、君は」
僕の問いに、七瀬は窓の外の校庭に目をやった。時間は完全に止まっている。サッカーボールは空中に静止し、校庭を歩く生徒の足は地面に接着したままだ。
「私が動けるってことは、ちょっとだけ、世界を変えられるってことだよね?」
彼女は、何か面白い遊びを見つけた子供のように、キラキラした目で僕を見た。
「例えば、今、止まっているみんなのペンケースを、全部入れ替えるとか?」
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