4,000字に満たない短さの中に、二人の背景の想像の余地がぎゅっと詰まっている作品です。
作者さまからの具体的な説明は敢えて控えめですが、私はむしろ好きですね。
ノートを取り出して、明記されている内容と、不文律を書き留めて、対比しながら読み進めるのが楽しかったです。
黒名が帰宅し、シロが迎え、二人で野菜炒めを作って缶ビールを開ける。出来事だけを追えば、ごく小さな同居生活の一場面。
けれど、その会話や仕草の端々から、シロの失われた過去や、黒名が隠しているもの、そして二人が敢えて踏み込みすぎないでいる距離感がじんわりとにじんでくるのがすてきです。
特に「猫は話せないから好かれるんだろうね」という言葉が刺さりました。
話せない相手なら、人は自分に都合よく愛せる。
けれどシロは話せるし、求めることもできる。
その危うさといじらしさが、タイトルの「鳴かない猫は愛を乞う」と重なって、とても効いていたと思います。
最後の、葉書の宛名面が一枚もこちらを向いていない描写も好きです。
何かを知らないのではなく、知ろうとしすぎない。
全部を暴かないことで、今の関係を守っているようにも見える。
その一瞬で、二人の間にある優しさと危うさが静かに伝わってきました。
短い物語なのに、読み終えたあと、シロと黒名の過去やこれからを自然と考えてしまう。
説明されない部分。むしろ、こちらが本体ではないのか、と考えさせられるほど余韻のある作品でした。