危険魔法は危険すぎない!?~何かを失う代わりに得る魔力~

国府春学

第1話 魔法の話

 れおなが千瀬に魔法を教えてくれたのは、小学五年生のときのこと。

「何でもできるし、すっごく楽しいから」

 たとえば、と千瀬の持っていた百円玉を、千円札に変えてくれた。

「ね、便利すぎるでしょ」

 にやっと笑うれおなは、ちょっと悪いコだ。

 千瀬とはおさななじみで、幼稚園まではいっしょだったけど、小学校に上がるときに外国へひっこして、最近帰ってきた。頭がいいから、飛び級で高校まで卒業したらしくて、帰国してからは学校に行っていない。

 天才れおなと勉強がニガテな千瀬は、頭の中味もだけど、そのほかもぜんぶ正反対だ。

千瀬は、ブティックを経営するデザイナーのママと二人暮らしで、オシャレのことばっかり考えている。カワイイものが大好きで、クラスのだれも着ていないような個性派ブランドの服を着ているのがじまん。大きな目はぱっちり二重だし、口角もきゅっと上がっているから、「きみ、かわいいね」ってスカウトされたことだってある。アイドルになりたいわけじゃないから、ついていかなかったケド。ふんわり明るいオレンジティーブラウンの髪を長くのばし、バレッタをつけたりリボンを結んだりして、毎日アレンジを楽しんでいる。

そんな千瀬から見ると、れおなはちょっともったいない。

きゅっと印象的な目がきれいで、もとはいいのに、れおなはあんまりオシャレに時間をかけないから。くせっけの黒髪をくしゃっと手でなでて、ぴたっとしたTシャツにジーンズをはいているだけ。でも、背が高くて腰がくびれててスタイルばつぐんだから、何をきても外国人モデルみたいにカッコイイ。れおなの両親は、仕事がいそがしいからか、ほとんど家にはいなくて、きょうだいもいないれおなはいつも一人でいる。

「でも、さびしくはないんだよ。ルシフェがいっしょだもん」

 そう言ってれおながほおずりしているのは、猫のルシフェル。血統書付のロシアンブルーで、灰色の毛がふわふわしている。

 魔法を教えてくれた日、千瀬が驚かされたのは、百円が千円に変わったことだけじゃなかった。

「アタシね、ルシフェにずっと生きてほしかったから、魔法覚えたんだ」

 れおながにこにこして言うと、ルシフェルがしゃべったのだ。

『コレカラハズット、レオナトイッショデスヨ』

 機械みたいな声で、口は動いてなかったけど。

「すごい、れおちゃん! どうなってるの!」

 千瀬が興奮してたずねると、れおなは説明してくれた。

「あのね、最初に、マジカルケイヤクアプリケーションをインストールするの。アプリを入れるのは、何でもいい。生き物でも、ふだん使ってるものでも。で、インストール後に起動して、ケイヤクを結んだら、魔法が使えるようになるんだ。それに、アプリを入れたものは、ケイヤクした魔法使いが死ぬまで、命を持ってしゃべれるようになるの」

「へー……」

 なんだかむずかしい話だけど、要するに、れおなはルシフェルにアプリを入れて、ケイヤクしたんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る