第8話 一時も忘れるなトレアドール

 ※トレアドールとは闘牛士の事


 公募自体は、春も夏も秋も冬も季節に関係なくある。イベントも数多くある。間に合う分だけ作品を生み出せるが。事はそう単純ではない。


 例えば、勤め人であれば通勤時間がある。女性であれば、身支度は男よりも時間がかかるのが普通。必ずどこかで睡眠を取らなければならないし、ネタが降りてこない事だってある。一日で使える時間の中で、最大限書いていく。読むのが楽しみであれば。更に書く時間は減るし、配信をみたいならやはり執筆に使える時間は加速度的に減っていく。


 人は等しく、二十四時間しか持ち合わせがない。それは、もっとも平等な事実なのだ。この世で不平等なのはタイピング速度や発想などの才能。誰かに拾い上げてもらえる運。誰かに読んでもらって、いい感触がもらえ。自分の肯定感を上げながら創作ができるものなど極めて稀。


 闘牛士は赤い布を振り、剣で刺す。文章もそうだ、ウェブなんてすぐに見切って離脱する。長文だなと思えば離脱、合わないなと思っても離脱。うわぁ、なんか初っ端から盛り上がらないなと思っても離脱。離脱しない理由があるとすれば、作者が好きか作品が好きな場合だけだ。


 どんなに必死に書いたとしても、どんなに手を伸ばしても。数字ははっきりと映し出される。その現実に痛めつけられ、消えていった才能を何度も見てきた。


 使うサイトを変えたとしても、読者がいなければ数字は変わらない。


 だから、読まれた時の喜びも大きい。まるで、部屋の埃の様にうず高く積み上がる作品達。どこに名作があるのかもしれない。どこにもないのかもしれない。


 だから、読者も自身の限りある時間を使って必死に掘り進む。蛮族の執筆は早いし、AIなんていうおぞましいものを使わんとするものは他者が水面に上がる事すら許さない。


 蛮族は、努力や才能だからまだ仕方ない。嫌なら己も蛮族となって執筆しろという事だからだ。


 翼も読み専の時はそうだったから。その気持ちは嫌というほどよくわかる。そして、書き続けているからこそ。トマルさんの配信で強がっていたとしても、何度も窓に向かってはいた。いつからか、現実を受け止められるようになって。無心になって、ただ自分はトレアドールなんだと思うようになった。


 今日も明日も明後日も、折れない限り戦いは続いていく。


 情景一つ文字で描くのに、どれだけ鮮明にそれを思い浮かべることが出来るかが重要なのだ。動画から匂いはしない、音や視覚は訴えてくるが生命の息吹を感じたりはしない。


 だが、現地に行くにも財布と時間の問題は常に付きまとう。



 文字で世界を表現するのに、そのままで表現していたら味が出ない。


 異世界で魔素が魔法を構成する様に、文字が世界を構成するからだ。

グルメは売れるかもしれない、しかし漫画やアニメならともかく。文字で香りを読者に伝える事は難しい。



 繋いで響いて、飛沫の様に光を乱反射して舞う。



 雲が溶け、連鎖する。違いに噛み締めて抗うだけだ。


 ぺんは握るだけじゃない。吠えて立ち上がれ。



 完結まで、突っ走れ。翼という戦闘機は、名作という銃弾を浴びて。同じ空を舞う作者という戦闘機達の中で。行き場を探し、筆記具を取る。翼は設定やプロットが紙だからだ。


 急に曲がれば、機体が情けなく軋む。戦闘機の数が多すぎて、中々後ろを撮らせて貰えない。キーボードは手汗で濡れて、堕ちない様にしがみついて。


 攻める為に、赤を振り。込めた弾丸と想いで撃ち抜く激戦区。



 夜空は美しいが、戦うには最悪だ。前回特別賞を取った作品を読んだ時、翼は尾翼を雷で撃ち抜かれた気がした。柔軟な機動力はドローンを思わせ、翼の様なロートルには出てこない着想。横っ腹に雷撃を浴び、機体が火を吹いて傾いていく。


 瞳を逸らさず、現実を見続けて。この空で生き残ってきた。


 導いてくれる読者が居たから、まだ飛び続けられる。耳鳴りがバイオリンの音の様に甲高く。向こうが機動力で勝負するなら、こちらは破壊力で狙撃するだけ。


 それでしか、旧式の自分に勝機なんてない。心臓(むね)に届かなければ。




 満足なんて、得られない。




 私は読者に約束しよう。目にした時間が無駄だってなんて言わせない。それだけが、この空で戦う者達の意志だから。



 書き手も、読み手も。同じ空(サイト)にいる。



 想いを重ね、震える指先で。堕ち砕ける鳥が今日も居て。

 寄り添い歩いて、並んで飛んで。ゴールがあると信じて。


 途切れ途切れでも、確実に書き続ける。こっちにはロクな装備がないのだから。



 翼は、また一つ書き上げて。応募のボタンを押した。

 





 

 



 

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