月池

@Hikaru154310

月池

叶わぬ恋の涙が、池に映る月となった――そんな物語でこざいます。


 

 むかしむかし、あるところに、お坊さまがおりました。

お寺で日々修行をしていたのですが、心の奥には、ひそかに恋をした人の面影を抱えていました。けれど、その人は月へと帰ってしまったのでございます。


ある朝、師匠が申しました。

「今日から寺に、新しい娘がやってくるぞ」


やがて現れた娘は、若く、美しく、まるでかぐや姫のようでした。しかも不思議な力を持ち、誰の願いごとでも叶えることができたのです。


ただし、娘は申しました。

「決して、わたしを好きになってはなりません。よいですね」


お坊さまはうなずき、岬の山が見たいとお願いしました。

その晩、娘はたちまち美しい岬を見せてくれました。月あかりに照らされた景色は、それはそれは見事なものでした。


けれど三日もたつと、お坊さまは娘を思わずにはいられなくなりました。

「この心を、どうして止められようか」

そしてある晩、娘を池へ誘いました。


すると娘は涙を浮かべ、こう言いました。

「約束を忘れたのですか。どんなに清らかな心でも、この恋が実を結ぶことはありません」


翌朝、娘の姿は消えておりました。寺の者たちは「月へ帰ったのだろう」と噂しましたが、お坊さまだけは信じませんでした。


やがてある晩、窓の外からコツコツコツと音がいたしました。外をのぞくと、小さなどんぐりが一つ、また一つと道のように並んでいたのです。


その道をたどってゆくと、そこには不思議に美しい池がありました。池の真ん中には月が浮かび、やさしく光っていました。




お坊さまは涙をこらえましたが、こらえきれませんでした。池に映る月は、娘の面影のようにゆらめいていたと申します。おしまい

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