冒険は日常の風景の中に潜んでいる

過去にとらわれたまま動き出すことのできない主人公が出会ったのは、おしゃべりでやたらとテンションの高い不思議な「旅人」。彼女にかかれば幕張の街が異世界のような冒険の舞台へと変わる。まるで街自体が生き物のように色々な表情を見せる。
対照的に見える二人が、ときに引きずられ、ときにぶつかりあう中で、お互いの足りない部分を補うかのように心を通わせていく。その過程が、ぶっきらぼうで壊れそうなほど繊細な言葉と、美しくうら寂しい情景とともに丁寧に描き出されている。
自分にとって大切な何かを発見することが冒険であるなら、それは日常の風景の中に潜んでいるのかも知れない。悩みながらも海を歩き出す旅人たちの背中をそっと押したくなる物語。

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