毒々独々 02


 金銭的な余裕を求めいくつかの素材を換金しようと、またも闇ギルドに立ち寄るダーク。

 だがすでにダークの毒術士という天職とその風貌からカモとして認定されいるダーク。有りえない程の低い価格を提示される困惑していた。


「やっぱりやめときます」

 そう言って換金を断念しようとしたダークは、裏から出てきた男達に囲まれることになる。


「こっちもすでに買い取り準備で金が動いてるんだよ」

「その素材、全部置いてけや!」

 迫る男達。


 外へでる扉の前には、すでに別の男達が塞いでいる。


「邪魔を、しないで!」

 無理くり外へ出ようとするダーク。


 そんなダークを切り付けようと振り下ろされた剣を躱し、足蹴にしようと迫ってきた足を毒手で弾く。

 ダークにとっては本当に軽く、ちょっとした毒を付与した手で弾かれたその男の足先は、ねじ切れるようにしてボトリと落ちてしまった。その断面は瞬時に黒く変色している。


 痛みに転がりながら悲鳴を上げる男。しばし呆然とするダークと、恐怖を含んだ目でダークを見る他の男達。

 ダークは震える足に力を入れ、店の外へと飛び出した。


 思えば普段は魔物とばかり戦っていたダーク。人間相手に毒手を使うことなど一度たりともなかったことだ。

 まさかあれほどの威力があるとは思っても見なかったこと。自分の力が恐ろしくなったダークは、滞在している宿へ飛び込み、便器に胃の中のものを全て吐き出した。


 その頃、闇ギルドの幹部達にはダークについての情報が周知されていた。


 毒手による強力な攻撃力を持つダークという毒術士。その情報は闇ギルド内で共有され、危険人物であり、殺害対象としても認定された。

 街の出入り口は闇ギルド所属の冒険者達により監視され、闇ギルドの精鋭部隊が編制される。自分達に歯向かったダークを亡き者にしようと動き出していた。


 翌朝、冒険者ギルドでは受付嬢カーリラは依頼を受けに顔を出さなかったダークを心配していた。


「今日こそ謝ろうと思っていたのに……」

 そんなことを呟いている頃、ダークはすでにこの街にはいなかった。


 闇ギルドを飛び出してすぐ、危険と判断したダークはさらに西、帝都近くの街、プリモエストへと移動していた。




 今まで以上にひっそりと身をひそめながら活動するダーク。


 乗り合い馬車で一緒になった商人との何気ない会話の中、初めて偽職の指輪という魔導具の存在を知り、物々交換でその指輪を手に入れたダークは、天職を格闘家とすることで身を隠していた。

 おまけで貰った少しあか抜けたバンダナと青い髪のかつらを身に着け、これならバレないだろうと考えながら、ひっそりと、息をひそめるように活動をしている。


 人間不信で誰も信用できないダークは、ソロでの活動は心が軽く快適な日々を過ごせていた。


 順調なソロ活動を続けるダーク。

 そんなある日、冒険者ギルドでは人手不足だとして受付嬢ルチアに頼み込まれ、Cランク冒険者パーティ『疾風怒涛』と一緒にある商人の帝都までの護衛依頼へと参加することになったダーク。


 任務中は目立たぬよう無難に過ごしていたダーク。

 任務の方も順調に進んでいたが、帝都まで半日、という所で他の馬車が大規模な盗賊団に襲われている場に遭遇する。


 帝都までの移動を諦め逃げると言う依頼主である商人。護衛の『疾風怒涛』のメンバー達もそれに賛同し、プリモエストへと戻ることになった。


 ダークはそんな商人達と別れ、単身助けに向かう。


 軽く数えて30人程度の盗賊達が一台の大きな馬車を襲っている。

 周りの騎士達が結界を発生させ、その攻撃を何とか凌いでいるようであった。


 ならば大丈夫だろう。

 そう思ったダークはこの場全体に麻痺毒をバラまいてゆく。


 すぐに異変を感じた盗賊達は口元を押さえながら周りを警戒している。

 ダークは強化毒で自身の能力を上乗せし、盗賊達の中へと殴り込む。


 戦いは僅か数分で終わった。


「プリモエストから来た冒険者です」

 全員を殴り倒したダークは周辺の麻痺毒を消し去ると、未だ警戒している騎士達に声をかける。


 その声にホッとする騎士達。


 騎士の1人が結界を解除し馬車の扉を開けると、執事と思われる風貌の年配男性が出てきた。その男性のエスコートにより、老年の男性と淡いブルーのドレスを身に纏った若い女性が降りてきた。


 執事と思われる男性はセルバスと名乗った。

 後から降りてきた迫力のある顔をした老年の男性、バルトロメーオ・ソリド子爵家の当主から、執事長を任せられているのがこのセルバスである。


 当主であるバルトロメーオと一緒に降りてきたのは娘であるロザリア、そして馬車内にはもう1人、子爵の奥様であるビアンカがいた。ビアンカは足を悪くしている為、下車することが困難で、そのことについても謝罪を受けるダーク。


 そんなビアンカの丁寧な謝罪に恐縮してしまうダークであった。


「ぜひともプリモエストまで同行してほしい!」

 そう言って目を輝かせていたのは、この子爵家の護衛騎士隊を取り仕切る隊長でもあるルーセントであった。


 子爵子一行はプリモエストにはバカンスに向かう最中だったという。帝都から娘の夏休みを利用しての家族旅行のような物であった。

 ダークは、護衛騎士の1人が腕から血を流しているのを見て、戸惑いながらも我慢できす、活性毒を使いその傷を癒していた。


 目立つのは困るのです。と皆に秘密を守って欲しいことをお願いしたダーク。その交換条件のような形で護衛を引き受け、プリモエストまで戻ることになった。

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